プレスリリース
(研究成果)空撮画像のAI解析技術を活用してスイートコーン収穫適期を予測

- 開花前後の1度の空撮で収穫適期予測が可能 -

情報公開日:2024年4月10日 (水曜日)

ポイント

農研機構は、スイートコーンほ場でのドローン空撮画像のAI(人工知能)による物体検出技術と農研機構メッシュ農業気象データを用い、ほ場1筆ごとに収穫適期を予測する技術を開発しました。これまで広大なほ場での正確な収穫適期予測には手間がかかっていましたが、この技術を用いれば開花前後にあたる雄穂(ゆうすい)1)抽出期から絹糸(けんし)抽出2)期に1度だけほ場を空撮することで収穫適期を把握することができます。AI活用で収穫適期予測が正確かつ簡易になることで、計画的な収穫作業によるスイートコーン生産の効率化に貢献します。

概要

スイートコーンは収穫後の品質低下が著しい作物として知られており、計画的な収穫作業が望まれています。
ほ場全体を機械で一斉に収穫するためには、収穫前にほ場全体を対象として適切な収穫日を予測する必要がありますが、現在、スイートコーン生産者は広大なほ場のごく一部からサンプルを収集し、収穫適期を判断しています。しかし、サンプル収集作業は生産者の大きな負担となっていること、数本のサンプルからでは収穫適期の判断ミスが生じ歩留まりが低下する可能性があること、収穫日の決定が収穫直前になってしまうこと、などから計画的な収穫作業を行うことができないことに課題がありました。
そこで農研機構は、ドローンによる空撮画像から、物体検出AIによりほ場全域でのスイートコーンの生育状況を評価し、その上に農研機構メッシュ農業気象データを連携させて、スイートコーンの収穫適期が推定できる技術を開発しました。
本技術では、収穫約1か月前にあたる開花前後の1度の空撮で得た画像から、物体検出アルゴリズムであるYOLOv53)を利用し、画像中のスイートコーン雄穂(ゆうすい)の開花段階を判断し計数します。この情報をもとにほ場全体の生育状況を解析し、解析結果からほ場1筆単位の収穫適期期間(約5日間)を出力します。これにより作物の成熟に合わせた計画的な収穫作業が可能となります。
なお、現在は北海道における代表的な品種の「恵味スター」を対象としていますが、今後は対象品種の拡大や精度向上に向けて改良を進め、農業現場に即した本技術の導入方法について調査し、実用化を目指す予定です。
本技術は、将来的に収穫作業の機械化による省力化・一斉機械収穫時の歩留まり向上に寄与し、スイートコーン生産の効率化・技術向上に貢献します。

関連情報

予算 :運営費交付金

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長 奈良部 孝
研究担当者 :
同 寒地野菜水田作研究領域 研究員 大澤 央
広報担当者 :
同 広報チーム長 竹内 順一

詳細情報

開発の社会的背景

高収益作物のひとつであるスイートコーンは、わが国で約21万トンの収穫量を有する作物であり、うち4割程度が北海道で収穫されています(農林水産省 令和4年産野菜生産出荷統計)。北海道道央地域の露地スイートコーン栽培(直播)では、5月上旬に播種を行い、7月上旬に雄穂が抽出し始めた後、7月下旬から8月上旬にかけて絹糸(けんし)抽出期を迎え、その後3週間程度の8月中下旬に収穫適期を迎えることが一般的です。スイートコーンの可食部である雌穂(しすい)4)は、収穫適期前は粒がそろっていない上に糖含量が低く、一方で収穫適期を過ぎてしまうと水分量が少なくなるため萎びやすく品質が下がりやすいという特徴を持っています。したがって、スイートコーンは収穫適期を正確に見極めて収穫作業を行う必要があります。
スイートコーンの収穫方法は手取り収穫と一斉機械収穫(図1)があり、手取り収穫は作業者がほ場に入り成熟した雌穂を成熟程度を確認しながら直接手で収穫するもので、適期に収穫が可能です。しかし、作業の負担が大きく、広大なほ場では作業に多くの人手を要するという課題があります。
一方、一斉機械収穫は省力的ですが、ほ場内での生育のばらつきや収穫適期を逃した収穫によって、手取り収穫と比較すると歩留まりが下がる懸念があります。また、収穫適期と出荷計画に基づいた収穫作業を行うためサンプリング調査を行っていますが、広大なほ場内でのサンプリング作業には非常に手間と労力がかかり、収穫日の決定が収穫直前になってしまうなどの課題がありました。

図1 一斉機械収穫の様子

研究の経緯

スイートコーンの収穫適期は絹糸抽出後の積算温度で推定できることが知られています。ほ場単位での絹糸抽出日を把握するために、ドローンを使用してほ場に立ち入らず生育状況を画像として取得するとともに、取得した空撮画像に対してAIによる物体検出を適用することで、開花状況からほ場全体の生育状況を解析し、絹糸抽出日を予測することを試みました。
また、積算温度の計算過程については農研機構が開発した「農研機構メッシュ農業気象データ5)」を活用しました。これらを組み合わせスイートコーンの収穫適期を予測する技術を開発し、ほ場1筆ごとに収穫適期を予測することで一斉機械収穫時の歩留まりの最大化を目指しました。

研究の内容・意義

本技術の概要

本技術は、収穫約1か月前の開花前後の雄穂抽出期から絹糸抽出期にほ場でドローン空撮を1度だけ行うことで、スイートコーンの収穫適期が予測できます。予測には、ドローンでほ場を均一に空撮した画像のほかに、ほ場の位置情報・品種情報が必要です。これらの情報を、今回新たに開発した収穫適期算出用アプリケーションの「スイートコーン収穫適期予測ツール」に入力します。
スイートコーン収穫適期予測ツールは、➀ドローン空撮画像から雄穂検出AIを用いて開花段階を推定することで、ほ場の生育状況を解析する「開花段階推定ステップ」、➁前ステップの結果から絹糸抽出日を予測する「絹糸抽出日予測ステップ」、➂ほ場の位置情報(緯度・経度)から農研機構メッシュ農業気象データを取得し、収穫適期を算出する「収穫適期予測ステップ」を経て、予測収穫適期(約5日間)を出力します(図2)。これにより、ほ場の規模にかかわらず収穫約1か月前にほ場1筆単位の収穫適期を予測できるため、計画的に収穫作業を行うことができます。

図2 収穫適期予測技術の概要

ステップ➀について

ステップ➀で使用する「雄穂検出AI」は、ドローン空撮画像中の雄穂の開花段階をその色調から「未開花」「開花前期」「開花後期」の3段階に分類する、YOLOv5を利用した物体検出AIです(図3)。AIの精度指標のひとつであるmean Average Precision6)は0.71であったことから、雄穂検出AIはほ場の生育状況を高精度で解析できると判断しました。ステップ➀では、入力された全画像に対して雄穂検出AIでの物体検出を実行し、検出された各開花段階の雄穂数を出力します。

図3 雄穂検出AIによる判別結果

赤色四角枠は未開花、黄色四角枠は開花前期、青色四角枠は開花後期を示す。

ステップ➁➂について

ステップ➁では、ステップ➀の各生育段階(未開花・開花前期・開花後期)の雄穂数・割合から絹糸抽出日予測モデルによって予測絹糸抽出日を出力します。
ステップ➂では、ステップ➁出力された予測絹糸抽出日を起算日とし、積算気温によって収穫適期を出力します。この際、気温データの取得にはメッシュ農業気象データを利用するため、ほ場の位置情報に応じた高解像度の気象データを利用します。

本技術の精度

北海道札幌市の所内ほ場において、2021-2022年度に、本技術でスイートコーンの収穫適期を予測し、手取り収穫の実際の収穫日と比較したところ、収穫適期予測件数34件のうち正解事例(予測収穫適期(約5日間)と実際の収穫日(複数日間)が一致または重複があった事例)は30件(88.2 %)でした。空撮時間は1ha当たり5分程度です。

今後の予定・期待

現時点では北海道における代表的な品種の「恵味スター」を対象にしていますが、2024~2025年度には農業現場に適した導入形態について調査し、現地ほ場で試験を行い他の品種についても検討する予定です。また、雄穂検出AIの精度向上や収穫適期予測モデルの最適化も行います。
将来的には、食品加工会社・現地生産者団体等を利用対象とし、生産者に収穫適期予測情報を提供できるシステムを開発することを目標にしています。本技術はおよそ1か月前の段階でほ場毎の収穫時期を推定できるので、大規模産地での効率的な収穫出荷計画に向けた活用を期待しています。

用語の解説

雄穂(ゆうすい)
スイートコーンの雄花の集まった器官です。開花すると花粉を放出します。
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絹糸(けんし)抽出
一般に「ヒゲ」と呼ばれる部分の「絹糸」が伸長し、雌穂から露出することです。
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YOLOv5
AIによる物体検出アルゴリズムのひとつです。
(https://github.com/ultralytics/yolov5)
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雌穂(しすい)
スイートコーンの雌花の集まった器官であり、一般に食用として販売されている部分です。
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農研機構メッシュ農業気象データ
農研機構が開発・運用する気象データサービスです。全国の任意の地点の日別気象データを、約1km四方を単位にオンデマンドで提供し、過去・未来のデータが入手可能です。
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mean Average Precision
AIモデルの精度評価指標のひとつです。0から1の値をとり、大きいほどモデルの精度が高くなります。
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発表論文

大澤央,齋藤正博,長南友也,林怜史,八木岡敦,中村卓司,趙元在,2024. 空撮画像を活用したスイートコーン雄穂の開花状況検出技術の開発. 農業食料工学会誌 86(1),39-43

研究担当者の声

ほ場での空撮風景

北海道農業研究センター
寒地野菜水田作研究領域 研究員大澤 央

AI の作成に苦労しました。作成にあたっては数千枚の空撮画像を1枚ずつ人間の目で確認・処理していく必要があり、地道な作業をたくさんの職員の方々に協力していただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

「ほ場での空撮風景」