プレスリリース
(研究成果)牧草新品種「ノースフェスト」の種子販売開始

- 北海道の放牧と追播に適した新型牧草フェストロリウム -

情報公開日:2024年6月11日 (火曜日)

農研機
雪印種苗株式会
地方独立行政法人北海道立総合研究機構

ポイント

農研機構、雪印種苗株式会社および北海道立総合研究機構(道総研)が共同で育成した牧草フェストロリウム新品種「ノースフェスト」の種子の販売が2024年4月から開始されました。フェストロリウムは、越冬性1)に優れるメドウフェスクと飼料品質に優れるペレニアルライグラスとの雑種で、両者の特性を併せ持つ新型の牧草です。本品種は北海道全域での栽培に適し、放牧利用において多収で、ペレニアルライグラスに比べて越冬性が、メドウフェスクに比べて飼料品質が、それぞれ優れ、既存草地への追播2)でも利用できます。北海道における放牧酪農の普及推進および自給飼料の高品質化に貢献することが期待されます。

概要

北海道では、ペレニアルライグラスとメドウフェスクが放牧および追播に利用されています。ペレニアルライグラスは、越冬性が劣るため道東での利用が推奨されておらず、メドウフェスクは春季に家畜の嗜好性が低下する場合があります。そのため、道東で利用可能な越冬性に優れる放牧および追播利用向けの草種・品種が求められていました。
農研機構は、越冬性に優れるメドウフェスクと飼料品質に優れるペレニアルライグラスを交配し、両者の特性をあわせ持つイネ科牧草フェストロリウムの品種開発を進めてきました。さらに雪印種苗(株)および道総研との共同研究により、冬季の気象条件の厳しい道東地域で現地選抜を実施した結果、道東地域での越冬性がペレニアルライグラスより優れ、また、高消化性繊維割合がメドウフェスクより高く飼料品質に優れ、放牧利用において多収で既存草地への追播でも利用できるフェストロリウム新品種「ノースフェスト」を育成しました。
「ノースフェスト」は2018年に品種登録出願を行い、2022年に品種登録されました。また、2017年には「北海道農作物優良品種3)」に認定されています。「ノースフェスト」の種子は2024年4月から、雪印種苗(株)により販売が開始されました。
「ノースフェスト」の普及を進めることで、北海道における放牧酪農の普及推進および自給飼料の品質向上に貢献することが期待されます。

関連情報

予算 :農林水産省農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「北海道草地の植生を改善し高品質粗飼料生産を可能とする牧草品種の育成(26091C)」および生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロ)」の「気象リスクに対応した安定的な飼料作物生産技術の開発」ならびに運営費交付金
品種登録番号:第28936号(2022年2月7日登録)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長 奈良部 孝
研究担当者 :
同 寒地酪農研究領域 グループ長補佐 眞田 康治
広報担当者 :
同 広報チーム長 竹内 順一

詳細情報

「ノースフェスト」育成の背景と経緯

我が国の畜産は輸入飼料への依存度が高く、不安定な国際飼料価格の影響を受けやすいことから、畜産物の安定供給のために飼料自給率を向上させる必要があります。また、畜産経営のコスト低減のためには、北海道全域に放牧を拡大する必要があります。そこで、自給飼料の高品質化と冬季の気象条件の厳しい道東での放牧利用に適した牧草の育成を目的に、雪印種苗(株)および道総研と共同で新型牧草フェストロリウムの開発を進め、道東地域での放牧利用および既存草地への追播に適した品種「ノースフェスト」を育成しました。

「ノースフェスト」の特徴

フェストロリウム「ノースフェスト」は、メドウフェスクおよびペレニアルライグラスと比べて以下の特徴を持っています (表1) 。

    1. 越冬性は、全道においてペレニアルライグラスより優れます。根釧地域ではメドウフェスクより劣りますが、根釧地域以外ではメドウフェスク並みです。
    2. 放牧利用を想定した多回刈における2か年合計乾物収量は、ペレニアルライグラスおよびメドウフェスクより多いです。
    3. 総繊維に占める高消化性繊維割合(Oa/OCW4))はメドウフェスクより高く、飼料品質に優れます。
    4. 牧草被度が約20%に低下した既存チモシー採草地へ「ノースフェスト」を追播した場合、定着は良好で、追播後2年目以降牧草被度5)(チモシー+フェストロリウム)が86%に回復します。追播なしの草地に比べて、乾物収量が増加し、TDN6)収量(栄養収量)が16%増加します。

  その他の特性および栽培上の留意点

    1. 採草利用における出穂始日はメドウフェスク「ハルサカエ」より2日遅く、ペレニアルライグラス「ポコロ」より3日早いです。
    2. 普及対象地域は北海道全域です。
    3. 放牧利用を主体として、採草および採草放牧兼用7)にも利用できます。根釧地域の一部のような著しい凍害が発生する地域や冠氷害(アイスシート害)が懸念される滞水しやすいほ場での利用は避けます。
    4. 播種量は「ノースフェスト」主体草地および追播の場合、2.0~2.5kg/10aです。

品種の名前の由来

北海道(北方)向けのフェストロリウムであることを意味します。

今後の予定・期待

「ノースフェスト」は、越冬性の問題からこれまでペレニアルライグラスが利用できなかった道東地域への普及拡大により、販売後10年間で3,000haの普及が見込まれます。放牧利用に加えて、既存草地への追播による植生改善やチモシーやオーチャードグラスとの混播による自給飼料の品質向上への効果も期待できます。

種子入手先

種子の購入を希望される方は以下にお問い合わせください。
雪印種苗株式会社
TEL 011-891-5911 (代表) 、 FAX 011-891-5920

用語の解説

越冬性
冬季の低温や積雪に耐える能力で、融雪後に茎葉部の損傷程度や萌芽の有無などから判断します。越冬性に影響を及ぼす障害としては、凍害、雪腐(ゆきぐされ)病害 、冠氷害(アイスシート害)などがあります。
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追播
植生の悪化した既存草地に、播種機により幅15cm程度の溝を切って牧草を播種し、草地の植生や生産性を回復させる技術。
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北海道農作物優良品種
北海道農作物優良品種は、収量、品質その他の栽培上又は利用上の特性が優良で、道内に普及すべき重要な農作物の優良な品種です。北海道農業試験会議(成績会議)において、優良品種決定調査結果により審査基準に基づいて優良品種候補とされた品種を対象とし、北海道優良品種認定審議会において認定されます。飼料作物(牧草類)優良品種候補の審査基準は、その種子がOECD(経済協力開発機構)牧草類品種証明があるかまたはこれに準ずる制度の登録品種であることもしくは、道内に普及する時点で、これらの制度に基づく品種証明が可能なものでなければならないとされています。
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Oa/OCW
Oaは高消化性繊維、OCWは総繊維。Oa/OCWは、総繊維に占める高消化性繊維割合で、数値が高いほど繊維の消化性が高くなります。
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被度
植生を評価する指標の一つで、対象植物を上から見た時にどれだけの割合で地表を覆っているかを%や等級で示します。
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TDN(可消化養分総量)
Total digestible nutrientsの略。飼料の栄養価の指標で、飼料中の可消化養分から算出されます。TDN収量は、単位面積当たりの可消化養分の収量(栄養収量)。
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採草放牧兼用
1番草を採草利用し、2番草以降を放牧利用する栽培利用法。
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参考図

表1 フェストロリウム「ノースフェスト」の主要特性
写真1 フェストロリウム「ノースフェスト」の草型
(2015年6月17日撮影、農研機構北海道農業研究センター)

関連リンク

雪印種苗株式会社(https://www.snowseed.co.jp/)
地方独立行政法人北海道立総合研究機構(https://www.hro.or.jp/)