プレスリリース
果樹園での腕上げ作業補助器具を開発中

- 動力なしで軽量コンパクト -

情報公開日:2014年10月28日 (火曜日)

ポイント

  • モーター等の動力やバネ等の弾性部材を用いない器具で、軽量コンパクトです。
  • 任意の高さでしっかりと腕を支え、支持状態の解除も容易です。
  • 腕を上げた状態を保持する作業においては、能率を落とさず作業負担を軽減します。

概要

農研機構生研センターと(株)ニッカリは、ブドウ等の栽培管理作業における作業負担の大きい腕上げ姿勢を簡易な機構で補助し、作業を楽にする装着型の補助器具を開発しています。

開発中の補助器具は、モーター等の動力やバネ等の弾性部材を用いない器具で、軽量コンパクトな構造です。作業者の腕を任意の高さでしっかりと支えることができ、果樹園における腕を上げて行う栽培管理作業を楽にすることができます。ブドウの摘粒作業等の腕を上げたままの姿勢の時間が長い作業では、能率が落ちず楽になったと評価されました。一方、ジベレリン処理や袋掛けのように頻繁に腕の上げ下げを繰り返す動作の作業においては、本器具を装着することで却って煩わしくなるため、つらくなったという評価もありました。

本器具は、特に摘粒作業等の腕を上げた状態を保持する作業に適した補助器具として、現在、実用化に向けて、装着性の向上等、補助器具の改良に取り組んでいます。

なお、アグリビジネス創出フェア2014(開催期間:平成26年11月12日(水曜日)~11月14日(金曜日)、場所:東京国際展示場(東京ビックサイト)で試作機の展示を行います。

関連情報

予算 : 運営費交付金
特許 : 出願中1件 (特願2013-249642)

詳細情報

開発の背景と経緯

棚栽培のブドウでの、花穂整形、ジベレリン処理、摘粒、袋掛け等の管理作業は果実が頭上に位置するため、腕を上げた状態で作業することになります。これらの作業適期は短いため、一日中腕を上げた作業が続き、非常に負担の大きい作業となっています。

そこで、農研機構生研センターと(株)ニッカリは、動力を使わず簡易な機構で上げた状態の腕の重さを腰で支えることで、腕上げ状態での作業を楽にする装着型の補助器具を開発しています。平成24年度に基礎試験モデルの設計・試作を行い、平成25年度には農研機構果樹研究所においてブドウの袋掛け作業で装着試験を行うとともに、体格に合わせた調整機構を付加した試作機を製作しました。今年度は、農研機構果樹研究所、群馬県農業技術センター、埼玉県農林総合研究センター、長野県果樹試験場、徳島県立農林水産総合技術支援センターとの協定研究により、補助器具の利用が作業者の疲労、作業能率に及ぼす影響や、効果的な利用法について研究を行っており、補助器具の効果が明らかになりました。

腕上げ作業補助器具の概要および性能

  • 開発中の腕上げ作業補助器具は、作業者の腰に装着する作業ベルト、腕を載せるための腕受け部、それらを接続する連結機構から構成され、重さが約1.5kgです。モーター等の動力やバネ等の弾性部材を用いない簡易な機構です(図1)。
  • 装着方法は、腰に作業ベルトを締め、腕受け部のバンドを留めるだけです。
  • この補助器具の最大の特徴は連結機構にあります。連結機構は腕受け部の回転中心から放射状に広がった溝部材と爪部材を備えており、作業者が肘を体の内側に寄せることで溝と爪が噛み合うため、任意の高さで腕が支えられます。腕を下ろしたいときは、肘を体の外側に開くことで溝と爪が外れ、腕を自由に上げ下げすることができます。上げた腕の重さを腰で支えるようになっており、腕を支えている状態では、椅子の肘掛けに腕を載せているような感覚で作業を行うことができます。
  • ブドウ栽培ほ場で行った試験では、花穂整形、摘粒、袋掛けの作業で補助器具を装着することにより、腕(上腕二頭筋、上腕三頭筋)、肩(三角筋)、首(僧帽筋)の作業中筋活動量が、補助器具を装着しない慣行作業と比較して概ね低くなりました(図2)。
  • 被験者への聞き取り調査では、ブドウの栽培管理作業の中でも作業能率が最も低く労働負担軽減の要望の高い摘粒作業について、約9割の作業者から補助器具を使用することで「楽になった」との回答を得ました(図3)。本器具は腕を上げる作業を補助するものであることから、同じ高さに腕を上げている時間が長い摘粒作業に対し、高い効果が発揮されたと考えられます。一方、ジベレリン処理、袋掛けの作業では、「つらくなった」との評価が他の作業と比較してやや多くありました。ジベレリン処理では房の高さのバラツキが大きく頻繁に腕の上下を繰り返す動作が必要な場合は却って煩わしくなること、袋掛けでは袋束を慣行作業の腰位置ではなく腕や首位置につけて腕上げ姿勢のまま作業をしたため、作業者によっては袋束の取り付け位置が合わず袋を取り出しにくくなったこと等が要因として考えられました。
  • 作業能率は、補助器具を装着しても腕を動かす動作が容易に行えるため補助器具を装着しない慣行作業と同程度でした。

今後の予定

今後、器具の装着のしやすさ、作業者に合わせた調整のしやすさ等の改良を行うとともに補助の効果が高い作業条件等の検討を行い、実用化を目指します。

なお、アグリビジネス創出フェア2014(開催期間:平成26年11月12日(水曜日)~11月14日(金曜日)、場所:東京国際展示場(東京ビッグサイト)で試作機の展示を行います。

用語の解説

花穂整形 : 開花前に果房の形や大きさを整える作業。
ジベレリン処理 : 花穂をジベレリン溶液に浸漬する作業。
摘粒 : 小さい果粒や不良果粒を除去し、1果房あたりの果粒数を調節する作業。
袋掛け : 果実に紙製の袋をかぶせる作業。
筋活動量 : 筋活動の大きさを示す指標。筋肉を動かすときに生じる電圧により測定。

図1 腕上げ作業補助器具

図2 腕上げ作業補助器具装着の有無による作業中の筋活動量

図3 腕上げ作業補助器具軽労化効果の聞き取り調査結果