プレスリリース
中山間地域対応型栽培管理ビークル (中山間地水田作向けの多用途小型作業車)を開発

- 耕うんから管理作業までを1台でカバー -

情報公開日:2015年6月16日 (火曜日)

ポイント

  • 各種作業機の付け替えにより、耕うん・代かき、田植え、管理作業(溝切り・薬剤散布・施肥)に幅広く利用できる乗用の多用途小型作業車です。
  • ほ場出入口の段差乗越えが安全にできるよう、機体前後方向の水平維持機能を装備しています。
  • 機体下部の空間を確保しつつ低重心化を図ることで左右方向の耐転倒性を高め、中山間地域でも安全にほ場間移動ができます。

概要

農研機構生研センターと三菱農機株式会社は、農業機械等緊急開発事業(以下、緊プロ事業)において、中山間地域対応型栽培管理ビークル(中山間地水田作向けの多用途小型作業車(以下、中山間ビークル)を開発しました。開発機は、作業機を付け替えることで耕うんから管理作業まで幅広く利用できます。

小型乗用田植機をベースとした作業車ですが、従来の乗用田植機と比べ、重心が低く、後輪が昇降することで転倒しにくい機構を備え、中山間地域で利用した場合でも安全性の高い作業車です。

現在、試作3号機を供した現地試験を実施して性能調査と実用化に向けた課題抽出を行っています。

開発機は、各種作業機の付け替えにより、耕うん・代かき、田植え、管理作業(溝切り・薬剤散布・施肥)に幅広く利用できる乗用の多用途小型作業車であり、中山間地対応型自脱コンバイン(緊プロ事業開発機)を組み合せることで、最少2台で水田作業の乗用体系化が可能となり、特に新規就農時の初期投資の抑制につながると期待されます。また、高い耐転倒性能、ほ場退出時の前上がり抑制機能を持つことから、農作業安全の向上に寄与できると考えます。

来年度以降の市販化に向けて、平成27年7月2日に現地検討会を開催する予定です。

関連情報

予算 : 運営費交付金

特許 : 特開2014-158424、特開2014-227061、特願2014-004949、特願2014-133157、特願2015-013928

詳細情報

開発の背景と経

中山間地の水田においては、小型乗用田植機や中山間地対応自脱型コンバイン(緊プロ開発機)などが一定の普及をみているものの、小区画・非定型ほ場では乗用体系化が進んでいないのが現状です。また、農業従事者の高齢化が進み、後継者不足も課題となっています。そこで、農研機構生研センターでは、中山間地域における水稲作の乗用機械化一貫体系の確立、新規就農時の初期投資の抑制による新規参入の支援を目的に、小型の乗用栽培管理作業車(中山間ビークル)の開発に着手しました。2年間の基礎研究を経て、平成24年度から緊プロ事業として三菱農機株式会社と共同で開発を進め、このたび実用化の見通しを得ました。最終年度となる今年度は、試作3号機を用いた現地試験を4箇所(島根、鳥取、石川、新潟)で実施し、実用化に向けた課題の抽出を行う予定です。現地試験については、島根県農業技術センター、鳥取大学、石川県農林総合研究センター、(有)グリーンファーム清里に協力をいただきながら進めていく予定です。

開発機の概要および性能

  • 開発機(図1、表1)は小型乗用田植機をベースとし、走行部に装着する作業機として、耕うん作業機、田植え作業機、溝切り作業機、動力散布機、電動散粒機等を試作しました。湿田での田植え、ならびに管理作業の妨げとならないよう、車体下部の最低地上高を約400mm確保しました。
  • 耕うん作業機は、作業速度0.1~0.2m/s、耕深82~95mm、耕幅1,300mmで耕うんができます。田植え作業機は、欠株率、株間の変動ともに慣行機と同等の精度が得られることを確認しております。また、溝切り作業機、動力散布機については、今年度の現地試験において性能評価を行う予定です。
  • 後車輪を約150mm昇降させることで、機体の角度が水平から前方へ約9°傾いた姿勢へ移行します。これにより、300mm程度の段差を乗り越える場合、慣行機では後方へ傾く(前上がりになる)のを水平に近い状態に保ちながら坂を上ることができます。現地試験で乗車いただいた運転者からは、前上がりが抑えられるので安心感があるとの意見をいただき、また、前輪にかかる荷重が増え、登坂能力も向上することが観察されました。
  • 最低地上高を確保しつつ、低重心化を実現したことで、試作3号機(田植機仕様)における静的横転倒角が左側39°、右側38°に達し、農業機械の安全鑑定基準である30°以上の値が確保されていることを確認しました。

今後の予定・期待

耕うんから管理作業までを1台でこなす開発機と、先の緊プロ事業で開発した中山間地対応型自脱コンバインと組み合せることで、最少2台の機械で水田作業の乗用体系化が可能となることから、特に新規就農時の初期投資の抑制につながると期待されます。

また、高い耐転倒性能、ならびにほ場退出時の前上がりを抑制する機能を持つことから、農作業安全の向上に寄与できると考えます。

なお、平成27年7月2日に現地検討会を開催する予定です。詳しくは、農研機構または新農業機械実用化促進株式会社(新農機)のウェブサイトの開催案内をご覧下さい。

農研機構ホームページ
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2015/05/058190.html

新農機(株)ホームページ
http://www.shinnouki.co.jp/info/h27_07_02.html

用語の解説

静的横転倒角 : 車両の耐転倒性能を評価する一指標であり、左右方向に傾斜する台上に車両を載せ、水平状態から台を傾けていき、車両が横方向に転倒する角度(片側車輪が完全に地面から離れる角度)を測定します。停止した状態で計測しますので、車両が動いている状態では、得られた数値よりも転倒角は小さくなります。

輪距 : 左右の車輪の中心間距離を指します。水稲は条間30cmで栽培されることが多く、今回の輪距900mmは、条間のほぼ中央を車輪が走行することになります。これにより、田植え後の管理作業では運転が容易に行えます。

軸距 : 前車軸と後車軸の間の距離を指します。ほ場での作業は旋回性能が重視されますので、輪距の値に近づけることで旋回をしやすいようにしています。

図1 中山間ビークル(試作3号機、田植機仕様)

表1 中山間ビークルの主要諸元 、図2 後輪昇降機構を作動させた状態

図3 耕うん作業機の一例、図4 動力散布機の一例