ポイント
- 動力刈取機(刈払型)の刈刃を即座に止める機構を開発
- 刈刃の回転を即座に止めることにより刈刃との接触による事故を軽減
- 既販機にも後付けすることが可能
概要
農研機構農業技術革新工学研究センターでは、動力刈取機(刈払型)(以下、刈払機)の刈刃の回転を即座に止める機構を開発しました。現在市販されている刈払機の刈刃はエンジンを止めたり、スロットルレバーを離しても慣性で回り続け、停止するまでには30秒程度かかっています。作業中に転んだり、キックバック※が起きた場合、回り続ける刈刃に接触して大ケガをしたり、場合によっては死に至る事故に繋がります。刈刃の回転を即座に止めることにより、刈刃との接触事故の軽減が期待されます。
開発した刈刃停止機構は、刈刃に直接、ブレーキパッドを接触させて制動をかける方式で、既販機への後付けも考慮した構造となっています。刈刃停止に要する時間は約3秒であり、当センターで実施している安全鑑定で、刈払機を除く動力刃を有する機械に求められている停止時間5秒以内を達成しています。実作業を想定し40分間、刈払機を6回振る毎に1回刈刃を停止させる方法で草刈試験を行った結果、刈刃停止時間に変化はなく、刈刃停止機構への草の絡みつきは通常の刈払機と同程度であり、容易に取り除くことができることが確認されました。
今回試作した刈刃停止機構は、刈払機の左ハンドルに設けたレバーを放すことで作動する方式としましたが、実用化に際しては、スロットルレバーや衝撃センサーと連動して動作する方式も含め、より取扱性の良い方式を検討する必要があります。
関連情報
予算 : 経常
特許 : 特開2015-198651
詳細情報
背景
刈払機による農作業事故の原因には、キックバックや作業中の転倒による刈刃との接触が多くを占めており、その対策が求められています。現在市販されている刈払機の大部分はエンジンを止めたり、スロットルレバーを離しても慣性で刈刃は回り続け、回転が自然に停まるまでに30秒程度かかっています。そこで、刈刃との接触による農作業事故の低減を目的に、刈刃の回転を即座に停止させる機構の開発を行いました。
経緯
過去にブレーキ付刈払機が市販化されましたが、重量増やスロットルレバーの把持力増加等、取扱性の問題等から普及には至っていません。そこで、取扱性や既販機への装着等も考慮し、刈刃の目標停止時間を5秒以内とする(安全鑑定の基準に準拠)、刈払機の刈刃停止機構を検討・試作しました。
内容
開発した刈刃停止機構は、刈刃に直接、ブレーキパッドを接触させて制動をかける方式とし、軽量化・小型化を図るために主要部材をアルミで作成し、刈刃との接触面(接触面積(285mm2)にモールド系摩擦材使用したロッドをバネの力(バネ定数5.3N/mm)で刈刃に押し付けることにより刈刃の回転を停止させる機構です(図1)。ロッドのケース部は既販機への後付けを考慮し、刈払機の減速機ケース部にある脱落防止ボルト、注油ボルトを利用し共締めすることとしました。動作確認の結果、刈刃停止時間はエンジン回転数が定格回転時に約3秒、フルスロットル時で約4秒となりました(表1)。
今回試作した刈刃停止機構を刈払機に組み付けた状態(図2)で作動させる方法として、刈払機の左ハンドルにレバーを追加しました。刈刃停止機構とレバーをワイヤーで繋ぎ、レバーを放すことで刈刃停止機構が作動し刈刃の回転を停止させることができます。
刈刃停止機構を組み込んだ刈払機は、圃場にて草刈作業試験(2試験区)にそれぞれ20分間供試し、実作業の状況を確認しました(表2)。刈刃停止機構を組み込むことで生じる質量増(0.36kg)への負担感は感じられませんでしたが、停止機構を作動させるためのレバー操作力(約60N)の低減が必要であることが確認されました。
今後の期待
今回試作した機構は刈払機の左ハンドルに設けたレバーを放すことで作動する方式としましたが、レバー操作力の大きさが課題となりました。実用化に際してはスロットルレバーや衝撃センサーと連動して動作する方式も含め、より取扱性の良い方式を検討する必要があります。
用語の解説
※1 キックバック : 刈払機の刈刃は通常反時計回りに回転している。回転する刈刃(特に前端から右側部分)に障害物や地面が当たった場合、回転方向と反対側(右側)に刃が跳ね返ってしまう現象のこと。