ポイント
- 作業速度6km/hで畝(うね)立て※1、播種、施肥の同時作業が可能です。
- ディスクを用いた畝立て機構で湿害の軽減が期待できます。
- 畝立て機構は、畝立て播種と中耕除草の2つの作業に利用可能です。
概要
農研機構、アグリテクノ矢崎株式会社および小橋工業株式会社は、農業機械等緊急開発事業(以下、緊プロ事業)において、「大豆用高速畝立て播種機」を共同で開発しています。
開発機はトラクタ搭載型の作業機であり、従来のロータリ式の畝立て播種機とは異なり、牽引ディスク式の畝立て機構※2と高速対応の播種ユニットを組み合わせることで、畝立て播種と高速作業の両立が可能です。そのため、湿害が心配される水はけの悪いほ場において、湿害軽減効果と効率的な播種作業の実施が期待できます。
開発機の作業速度は6km/hと高速で、畝立て、播種、施肥(オプション対応予定の施肥ユニットを取り付けた場合)の同時作業が可能です。さらに、開発機の播種ユニットを取り外すと、ディスク式の中耕除草機として利用可能です。
関連情報
予算 : 運営費交付金
特許 : 特許出願済み
詳細情報
背景と経緯
大豆は日本人の食生活に欠かせない穀物であり、国産の大豆生産量の拡大と安定化は需要側、供給側の両方から望まれています。
しかしながら、大豆は湿った土による生育初期の障害(湿害)が発生しやすい作物で、排水が不良な水田で栽培した場合、降水量が多いと収量が低下します。とくに、本州では播種期が梅雨時期となることが多く、85%が水田転換畑で作付けされていることから収量が不安定です。
そこで、農研機構では大豆生産量の拡大と安定化を目的として、生育初期の湿害に有効な畝立て栽培に着目し、既販機(耕うん同時畝立て播種機)で課題となっていた高速播種が可能な播種機を開発することとしました。
開発は、平成26年度から緊プロ事業として、アグリテクノ矢崎株式会社、小橋工業株式会社と共同で進めています。
内容
- 試作3号機(図1、表1)はトラクタ搭載型の2条用畝立て播種機であり、牽引ディスク式の畝立て機構と播種ユニット、施肥ユニット(オプション対応予定)から構成されます。牽引ディスク式の畝立て機構は、ディスク式の中耕除草機をベースとして開発しており、播種ユニットを取り外せば、中耕除草機として利用可能です。
- 試作3号機は事前耕起したほ場において、作業速度4~6km/hで12~15cmの高さの畝を形成し、畝の頂部から深さ3~7cmに、設定した株間で単粒または複粒で播種可能です。また、施肥ユニットを追加することで、播種と同時に畝の内部に施肥を行うことができます。
- 平成27年に宮城県古川農業試験場において、試作2号機と既販機である耕うん同時畝立て播種機の比較試験を行った結果(表2)、試作2号機は約6km/hと高速での播種作業が可能なこと、既販機と同等の播種精度、出芽率、収量が得られることを確認しました。
今後の予定・期待
開発機は、畝立てを行いながら6km/hと高速での作業が可能なことから、効率的な播種作業が実施できます。そのため、畝立て栽培による湿害軽減効果と適期播種により、大豆収量、品質の向上が期待できます。
また、開発機は播種だけでなく、畝立て機構を単体で中耕除草機として利用可能なことから、従来の播種機、中耕除草機をそれぞれ購入する場合に比べて、機械整備に必要なコストを低減することが期待できます。
最終年度となる今年度は現地試験を宮城県、新潟県、富山県、滋賀県で実施し、多様な土壌、栽植条件における適応性を確認し、実用化に向けた課題の抽出、改良を行う予定です。
開発機の性能を確かめていただく目的で、平成28年8月2日に現地検討会を開催します。詳しくは、農研機構および新農業機械実用化促進株式会社(新農機)のウェブサイトの開催案内をご覧下さい。
農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2016/07/064331.html
新農機(株)ホームページ
http://www.shinnouki.co.jp/info/h28_08_02.html
用語の解説
※1 畝立て播種 : 播種をする前に土を帯状や線状に盛り上げ、その上層部に種を播く栽培方法です。畝を設けない場合に比べて種の位置が高くなるため、水につかりにくく、また、畝横の溝部分から排水が促進されることから湿害の軽減が図れます。
※2 牽引ディスク式の畝立て機構 : トラクタから作業機へ動力を供給することなく、トラクタの牽引のみで土に差し込んだディスクが回転し、土を切り取り、かき寄せ、盛り土することで畝を形成します。既販のディスク式中耕除草機と同様の構造です。