プレスリリース
(研究成果)果樹園用の小型幹周草刈機を開発中

- 樹冠下も腰を曲げずに楽々除草 作業時間も短縮 -

情報公開日:2016年8月 5日 (金曜日)

ポイント

  • 長い操作ハンドルを備え、樹冠下も楽な姿勢で草刈作業ができる2方式の歩行型草刈機を開発しました
  • キャスタ式は幹周部分での旋回操作が容易、オフセット式は旋回操作が不要で幹周部分の草刈ができます
  • 障害物の多い果樹園だけでなく、法面の草刈作業にも利用できます

概要

農研機構と株式会社クボタは、農業機械等緊急開発事業(以下、緊プロ事業)において、果樹園用の小型幹周草刈機を共同で開発しています。

開発機は歩行型法面用草刈機をベースとして果樹園用に改良した草刈機で、わい化リンゴ園等の樹冠下の草刈作業を楽な姿勢で効率よく行うことができます。

開発機には、歩行型法面用草刈機の車体片側にキャスタを付設して、旋回動作を容易に行えるようにしたキャスタ式と、草刈機本体の主草刈部の他に車体側方に草刈部を追加し、追加部が幹等の障害物にぶつかると車体側へ避ける機構を備えたオフセット式の2方式があります。現在、草刈試験を実施して性能調査と実用化に向けた課題抽出を行っています。

開発機は従来と比較して作業能率が同等~2倍となり、心拍数増加率から見た労働負担も刈払機より軽減します。また水田や畑などの法面草刈作業にも利用できます。

関連情報

予算 : 運営費交付金

特許 : 特許出願済み

詳細情報

開発の背景と経緯

樹園地の草刈作業において、通路部分は乗用草刈機等により比較的高能率な草刈作業ができます。一方、樹冠下幹周部分については作業空間が狭いため、一般的に刈払機による草刈作業か除草剤散布による草生管理が行われています。枝を避けながらの刈払機による草刈作業は能率が低く、腰をかがめる等の困難な体勢も強いられる重労働であり、除草剤散布も能率が低く、農薬被ばくの危険性も伴う重労働です。

そこで農研機構では、平成24年度から、作業者が楽な姿勢で刈払機より高能率に果樹園の樹冠下の雑草を刈り取ることができる歩行型草刈機の開発に取り組みました。平成26年度からは、緊プロ事業として株式会社クボタと共同でキャスタ式とオフセット式の2方式を試作し、平成27年度にはリンゴ園で両方式の性能評価を行い試作機を改良しました。

内容

  • 長い操作ハンドルを備えた刈幅300mmの歩行型法面用草刈機をベースに、車体片側にキャスタを付設して、旋回動作を容易に行えるようにしたキャスタ式と、草刈機本体の主草刈部の他に車体側方にオフセット草刈部を追加することで刈幅を460mmに拡大し、また、オフセット草刈部が幹等の障害物にぶつかると車体側へ避ける機構を備えたオフセット式の2方式を試作しています(図1、2、3、表)。
  • キャスタ式は、エンジン、草刈部、走行部、操作ハンドル、キャスタから構成されます。キャスタは接地・非接地の切り替えや高さ調節が可能で、幹周部分など頻繁な旋回動作が必要な時はキャスタを接地させることで、軽い力で旋回させることが出来ます。
  • オフセット式は、エンジン、主草刈部、オフセット草刈部、走行部、操作ハンドルから構成されます。オフセット草刈部は幹等の障害物にぶつかると車体側へ避ける機構となっているため、樹列に沿ってまっすぐ走らせるだけで、幹周部分の草刈が出来ます。
  • わい化リンゴ園および新わい化リンゴ園で幹周部分の草刈作業を行ったところ、慣行作業で一般的に用いられる刈払機に対し、作業能率はキャスタ式で最大1.7倍、オフセット式は最大2倍となりました。労働負担の目安である心拍数増加率も、刈払機の平均約40%と比較して、キャスタ式は平均約35%、オフセット式は平均約30%と下がる傾向が見られました。草刈作業中に腰を曲げるなど負担の大きい作業姿勢となる時間割合も、両方式ともに刈払機より低くなりました。また、キャスタ式は旋回させやすいので楽に作業できると評価されました。樹幹周辺の刈り残し面積については、両方式ともに刈払機と同等でした。
  • キャスタ式はキャスタを非接地状態にすると、ベースとなっている歩行型法面用草刈機と同様に、水田や畑などの法面草刈にも用いることが出来ます。また、オフセット式も法面草刈にも利用可能で、ベース機より刈幅が広くなるとともに、作業速度も向上しているため、法面草刈作業の作業能率がベース機の1.4倍となりました。

今後の予定・期待

開発機は、障害物の多い果樹園や法面での草刈作業を楽な姿勢で高能率に行うことができると期待されます。今年度は、改良した試作機を供試して性能調査と実用化に向けた課題抽出を行っており、わい化リンゴ園での作業時間・労働負担等の草刈性能評価は岩手県農業研究センター、新わい化リンゴ園での草刈性能評価は長野県果樹試験場にて試験を実施しています。今後、さらなる実証試験を通じて実用性を検証し、早期の市販化を目指します。また、より有効に活用するためのマニュアル作成を行い、開発機の普及に努めます。

なお、平成28年8月23日に現地検討会を開催します。詳しくは、農研機構または新農業機械実用化促進株式会社(新農機)のウェブサイトの開催案内をご覧下さい。

農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2016/07/064334.html

新農機(株)ホームページ
http://www.shinnouki.co.jp/info/h28_08_23.html

用語の解説

※1 樹冠下 : 樹の枝や葉の下にある地表面のことを指しています。

※2 法面 : 水田や畑の周辺部にある傾斜面のことを指しています。

※3 わい化リンゴ園 : 樹体があまり大きくならないようにわい性台木を用いて、樹間5m程度、樹列間5m程度の栽植様式で栽培を行っているリンゴ園です。

※4 新わい化リンゴ園 : わい化リンゴ園よりさらに樹形がコンパクトとなるような台木を用いて、樹列間4m程度、樹間1.25~2m程度の栽植様式で栽培を行っているリンゴ園です。

※5 心拍数増加率 : 安静時の心拍数に対する作業時の心拍数の増加割合であり、労働負担の大きさを示す指標として用いています。心拍数増加率が大きい作業ほど労働負担が大きいと判断されます。

図1 小型幹周草刈機の基本構造(平面図) 図2 小型幹周草刈機(キャスタ式) 図3 小型幹周草刈機(オフセット式) 表 小型幹周草刈機の主要諸元