プレスリリース
(研究成果) 開発した電子制御ユニットでISOBUS(イソバス)認証を取得

- 国産技術として初のグローバルスタンダード適合 -

情報公開日:2018年7月19日 (木曜日)

ポイント

  •  車両-作業機間の情報通信に欠かせない電子制御ユニットを民間企業と共同開発し、国際標準「ISOBUS1)」の正式認証を国産技術で初めて取得しました。国際標準に対応した機器(車両、作業機など)の相互接続時に、メーカー間の壁を越えた接続互換性を保証します。

概要

 農研機構では、株式会社農業情報設計社と共同で農業機械用のECU(電子制御ユニット)の開発を行い、この度、通信制御共通化技術の国際標準である「ISOBUS」の正式な認証を国産技術として初めて取得しました。
 「ISOBUS」とは、国際規格ISO 117832)の実装技術を国際農業電子財団AEF3)が一定のガイドラインに沿って認証するもので、欧米ではトラクタや作業機の接続互換性のグローバルスタンダードとして大型農業機械を中心に広く普及しています。今回認証を取得したのは粒剤散布機用のECUであり、「ISOBUS」対応の操作用端末(バーチャルターミナル4))を持つ世界のどの車両と接続しても、機器相互間の通信が保証され、共通の操作で作業機の状態表示や動作指示が可能になります。
開発したECUの外観

関連情報

予算 : 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」、
農研機構運営費交付金

詳細情報

社会的背景

 車両(主にトラクタ)、装着作業機、後付け電子機器など、異なるメーカーの機器を組み合わせることが多い農業機械では、技術開発の効率化と利用者の利便性のためにメーカー間の壁を越えて接続互換性が保証される共通化技術が必要とされてきました。欧米では国際規格ISO 11783が開発され、ISOBUS(イソバス)という名称のグローバルスタンダードとして大型機械を中心に普及が進んでいます。一方、日本では比較的小型で低コストな機械が中心だったため対応は遅れていましたが、近年ではスマート農業への関心の高まりや、ISOBUS装備の輸入農機の増加等を受けて、国際標準に準拠しつつ国産の農業機械にも適用可能な共通化技術の社会実装に対する期待が高まっています。

認証取得の経緯

 農研機構では平成20年度以降、ISO 11783規格を国産の農業機械に適用するための技術開発に取り組んできました。その取り組みの中で、技術的な完成度を高めることと、国内でまだ認証取得の前例が無いことから、粒剤散布機用の作業機ECUの開発を通して ISOBUS認証の取得とそのノウハウの蓄積を目指しました。本技術の開発及び認証取得に際しては、(株)農業情報設計社と連携して取り組みました。

認証取得技術の内容

 開発した粒剤散布機用の作業機ECU(図1)は、自走式乗用管理機に装着した粒剤散布機に適用するものです。粒剤散布機の制御部はメーカー独自の仕様で作られていますが、このECUがISOBUSネットワークとの橋渡しを行い、ISOBUS対応のバーチャルターミナル(操作用端末)との通信を可能にします(図2)。開発した粒剤散布機用ECUは、AEFの公認機関の1つである「ISOBUS Test Center(ドイツ)」において認証試験を受験し、AEF規定のISOBUS機能のうち「最低要件」と「汎用端末(クライアント)」と呼ばれる機能について認証を取得しました。その結果、以下の動作が保証されます。

  • ISO 11783の複雑な手順を処理して通信を確立。
  • 作業機の状態を作業機ECUから送信し、バーチャルターミナルに表示(図3)。
  • バーチャルターミナルの操作により、作業機に適切な指示を送信。
  • 規格準拠のバーチャルターミナルであれば、どの製品でも同じ機能が実現可能。
  • 将来的なISOBUSの拡張機能(例えば自動制御のための機能等)の付加が可能。

 AEFで認証を受けたISOBUS対応機器は、「ISOBUS認証機」という用語及びステッカーの表示ができ、ネット上で「AEF ISOBUSデータベース5)」に掲載・公開されます。これらにより、ISOBUS対応機であることが明確になり、接続互換性の確認も容易になります。

ISOBUS認証取得の意義

 通信制御の共通化は、通信方法がメーカーごとに異なることで生じていた問題を解決すると同時に、将来的には必要に応じて高度な機能を追加できるようになり、まさに農業機械のシンプル化と高度化の両立を果たすための基本技術です。特にISOBUSはオープンな通信仕様であることから、トラクタと装着作業機の間の通信だけでなく、圃場外の管理コンピュータとデータ交換を行って作業指示や作業履歴の収集・管理に活用することも容易です。そのため、ISOBUS対応のバーチャルターミナルを有する管理機やトラクタについては本作業機ECUを用いることにより、多様なメーカーの機器を組み合わせる場合においても、確実に生産者がその有効性を活用できます。今回、農研機構が国産技術として初めてISOBUS国際認証を取得したことは、これらの分野に適用可能な共通化技術が国際水準に達したことを示すものであり、通信基盤という非競争領域でのグローバルスタンダードへの対応を目指す国内各メーカーのボトムアップの一助になると考えられます。

今後の予定・期待

 今回認証を取得したのはISOBUSの中でも最も基礎的な機能のみです。今後の予定としては、更なる上位機能、例えば「タスクコントローラ(クライアント)」機能への対応が考えられます。これは、事前に作成したマップ情報に応じて、例えば肥料の施用量をほ場内の場所毎に自動的に増減するもので、局所的な地力の差や生育ムラに対応して肥培管理をきめ細かく行う精密農業に不可欠な機能です。粒剤散布機用ECUがこの機能に対応すれば、あとは規格に適合したタスクコントローラを導入するだけで実現可能になります。また、近年開発・導入が進むロボット農機への活用も期待されるところです。

用語の解説

1) ISOBUS:AEF(用語解説3参照)が定義するISO 11783(用語解説2参照)の実装基準。最低要件や汎用端末、タスクコントローラ、外部入力装置、緊急停止等の機能に分類されています。

2) ISO 11783:農業機械用車上ネットワークの通信制御の国際規格です。総ページ数は1000ページを超える膨大な文書で、技術の進歩に伴って更新されています。

3) AEF:国際農業電子財団(Agricultural Industry Electronics Foundation)の略で、ISO 11783普及促進活動をする業界団体です。統一解釈として「ISOBUS」仕様の定義、適合性の確認、認証試験、データベース公開、拡張仕様の検討等を行っています

4) バーチャルターミナル(Virtual Terminal):作業者の指示を作業機に伝えるための汎用の操作用端末で、運転席周りに設置されます。ISOBUS対応トラクタでは標準装備されるほか、後付け用の製品も欧米各社から市販化されています。

5) AEF ISOBUSデータベース: ISOBUS認証取得済の機種を掲載したオンラインのデータベース(https://www.aef-isobus-database.org/)です。例えば、どのトラクタ、どの端末とどの作業機を組み合わせるとどんな機能が使えるかが一目で分かります。

発表論文等

1) 西脇健太郎ほか:ISO 11783規格に対応した農業機械用電子制御ボードAgriBusBoard32、農研機構主要普及成果、2012年度

2) 濱田安之ほか:農業機械上での通信制御の国際標準化を簡単にするソフトウエアライブラリ、農研機構主要普及成果、2013年度

3) 濱田安之ほか:ISO 11783プロトコルスタック、農研機構プログラム登録 機構-K05、一般財団法人ソフトウェア情報センター P第10402号-1、2014年

※本研究の一部は、内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構生物系特定産業技術研究支援センター)によって実施しました。

参考図

図1 開発した粒剤散布機用ECUの外観
開発した作業機ECUの大きさは 135mm(幅)×85mm(高)×40mm(厚)(突起部を除く)。
「ISOBUS認証機」という用語が記載された認証ステッカーの貼布が許可されます。
図2 開発した粒剤散布機用ECUの位置づけ
開発ECUは、メーカー独自の散布機制御部とISOBUSネットワークの橋渡しを行います。
図3 市販バーチャルターミナルへの表示例
異なるバーチャルターミナルでも同等の入出力機能が保証されます。
(左:K社"Tellus GO"端末、右:T社"X30"端末)