プレスリリース
(研究成果) 小型で簡便な花蕾採取機を開発

- 国産果実の安定生産に向けた花粉の国内自給率向上に貢献 -

情報公開日:2019年4月16日 (火曜日)

ポイント

  農研機構は果樹の花粉採取作業を大幅に省力化できる花蕾採取機を開発しました。開発機と慣行手作業の作業時間を比べると、スモモでは約7割、ナシでは約8割を削減可能でした。本成果は、国産果実の安定生産に向けた花粉の国内自給率向上に貢献します。

概要

  国産果実の安定生産に向けて花粉の国内自給率向上を目指すため、生産性向上の障害となっている採花作業を省力化できる花蕾採取機を開発しました。開発機は、伸縮する把持棒の先端にブラシ状に配置したコードを取り付け、小型モータで高速回転させます。

  今後は実用規模での試験を行い、開発機の2020年度以降の実用化を目指します。

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花蕾採取機による採花作業

関連情報

予算 : 農林水産省「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(代表機関:埼玉県農業技術研究センター)、運営費交付金

詳細情報

社会的背景

  果樹には雄花と雌花が別々の樹に咲く雌雄異株と、雄花と雌花が同じ樹に咲く雌雄同株の2種類があります。このうち雌雄異株の果樹園地では果実が収穫できる雌株が植えられ、雄株から花粉を採取して人工的に授粉させる作業が必要です。また、雌雄同株であっても、同一品種間で交配ができない自家不和合性1)の樹種においては他品種の花粉を人工的に授粉させる作業が必要です。雌雄異株の樹種としてはキウイフルーツなど、雌雄同株の自家不和合性の樹種としてはスモモ、ナシなどがあり、これらの樹種では花粉を自家調達するか海外から輸入したものが利用されています。自家調達では、花粉採取は能率が低く人手が多くかかる、花粉採取と授粉を同時期に行う必要がある上にその期間も短い、といった問題点があります。一方、輸入花粉では、輸出国の天候や需給バランスにより価格変動がある、病害侵入が懸念される、といった問題点があります。

開発の経緯

  慣行の花粉採取作業は、採花、2)採取、葯ふるい、開葯、精選の順に行われます(図1)。花粉採取作業はおおむね機械化が進んでいますが、採花作業は機械化されておらず、人手による人海戦術で行われています。

  そこで、国産果実の安定生産に向けて花粉の国内自給率向上を目指すため、生産性向上の障害となっている採花作業を省力化できる、花蕾採取機を開発しました。

開発機の特徴

  開発した花蕾採取機は、伸縮する把持棒の先端にブラシ状に配置したコードを取り付け、これを小型モータで高速回転させる構造です(図2)。樹冠下にシートを敷設し、回転するコードを花そう3)に当てて花蕾を落とし、最後にシート上の花蕾を回収します(図3)。

【スモモの場合】
  スモモは花へい4)が短く開発機で採花すると、花は落ちるけれども、蕾は枝に残りやすかったため、開花期間中に複数回採花すれば花粉が多く採れると考えました。試験に供した結果、開発機(2回採花)では、花芽着生側枝5)長さ当たりの花粉採取量は慣行手作業とほぼ同等であり、作業時間を約7割削減できました(表1)。

【ナシの場合】
  ナシは花へいが長く開発機で採花すると、花も蕾も一斉に落ちるため、花粉を多く採取できる開花状況を調査しました。試験に供した結果、開花状況の差異による花粉採取量の差は小さく、いずれも慣行手作業と比べて開発機では作業時間を約8割削減できました(表2)。

今後の予定

  今後は実用規模での試験を行い、開発機の2020年度以降の実用化を目指します。また、花粉採取作業以外への適用可能性を調査し、開発機に適した作業、樹種、栽培様式について検討する予定です。

用語の解説

1) 自家不和合性:同一品種の花粉を授粉しても受精せず、種子ができない性質(出典:新版果樹栽培の基礎、農文協)。

2) :雄しべの一部で、花粉を生ずる袋状の器官を指します(出典:農業技術事典NAROPEDIA、農文協)。

3) 花そう:複数の花(果実)が一箇所に叢状に着生している状態を花叢(果叢)といいます。叢は草むらとか、群がり生えるという意味です(出典:同上)。

4) 花へい:花と枝を結ぶ枝の部分です。

5) 花芽着生側枝:花芽が着く側枝です。

参考図

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図1 慣行の花粉採取作業
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図2 開発した花蕾採取機の外観と主要諸元
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図3 花蕾採取機を用いた採花作業(左:採花、右:回収)
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