ポイント
- 農業機械技術クラスターの実施課題に3件を新たに追加し、2019年度は15課題となりました。地域農業の機械化を支援する課題を中心に、次世代技術の実用化を目指す課題を織り交ぜ、引き続き現場からの要望に応えてまいります。
概要
農研機構農業技術革新工学研究センターでは、研究推進に当たり、行政、異分野を含む民間企業、生産者や指導機関の意見を反映しうる仕組みとして「農業機械技術クラスター」(以下、技術クラスター)を2018年4月に設立し、関係機関との連携をこれまで以上に密にして業務を遂行する体制を整えました。
技術クラスターで扱う研究課題は、①.地域農業機械化支援タイプ(地域固有の農業機械開発に対応するための共同研究)、②.革新コア技術実用化タイプ(野菜・果樹等民間における開発を一層加速化するための革新的な実用化技術の共同研究)、③.次世代革新基盤技術タイプ(次世代の革新的な機械・装置の萌芽となる基本・基盤技術の共同研究)の3つに分類して実施しております。
この度、技術クラスターが実施する課題を検討した結果、研究課題として3件を選定、開始いたしました。
なお、技術クラスターでは引き続き現場からの要望を受け付け、課題化に向けた検討を進めます。
2019年度中に新たに開始する研究課題は以下の3件です。
研究課題一覧
- (1) 遠隔操作式高能率法面草刈機の開発
(研究期間:2019~2021年度、地域農業機械化支援タイプ(土地利用型))
[目的] 法面草刈作業は急傾斜であるため、作業姿勢が不安定で作業中の転倒・転落事故が多い。特に中山間地域は平地に比べて法面等耕作地周辺の面積割合が高く、それらの管理作業が生産者の大きな負担となっている。そこで、既存の国産機と比較して高能率に作業が行え、雑草が繁茂した状態でも作業が行える草刈機を開発する。操作はリモコンで行うため、急傾斜法面に作業者が立ち入る必要がなくなり、農作業事故の削減が期待できる。 - (2) カウシグナルのスコア化・判定システムの開発
(研究期間:2019~2021年度、革新コア技術実用化タイプ(畜産))
[目的] 高泌乳牛の長命連産を実現するには分娩前後の適切な飼養管理が鍵であり、特に初妊牛・初産牛については細かい観察による適切な管理が求められる。しかし、飼養頭数の増加に伴い、乳牛を観察する余裕が失われ、周産期疾病や発情の徴候を見逃すことによる経営的損失が課題となっている。乳牛の健康状態を判断する指標として牛体各部の状態変化(カウシグナル)を目視によりスコア化する方法があるが、豊富な知識と経験を必要とし、専門家同士でもスコアに差が生じうる。そこで、スマートグラス1)を利用してスコアを自動判定するシステムを開発する。 - (3) 豚舎洗浄ロボットの実用化研究
(研究期間:2019~2021年度、革新コア技術実用化タイプ(畜産))
[目的] 豚舎洗浄の徹底は伝染性疾病を予防する上で不可欠であるが、厳しい環境下で長時間にわたり作業することから人手の確保が深刻となっている。2016~2018年にかけて農水省の地域戦略プロジェクトで開発した豚舎洗浄ロボットは、海外製と比べてコンパクトであり、日本の中小規模の肥育豚舎での洗浄作業にも適用でき、労働時間を削減できる見通しを得た。一方で、豚舎内の複数豚房を連続して自動洗浄する機能の付与、耐環境性の確認などが必要であったことから、小型で低価格な豚舎洗浄ロボットの実用化研究を行う。
用語の解説
1) スマートグラス:メガネのような形状で、メガネと同様に目の周辺に装着して使用するウェアラブルデバイスの1つ。実際に見ている光景に情報を付加し、重ねて表示することができるディスプレイで、その用途から「ARメガネ」と呼ばれることもある。スマートグラスは、視界を確保しながら両手が自由に使えることに大きなメリットがあり、産業向けを中心に実用化が進んでいる。(出典:製造現場で役立つIoT用語辞典(株式会社キーエンス)、URL https://www.keyence.co.jp/ss/general/iot-glossary/smartglasses.jsp)
参考図
技術クラスターで実施中の研究課題は下表のとおりです。
研究課題名 | 研究期間 |
①地域農業機械化支援タイプ | |
二毛作体系に適した水耕乾田直播技術の開発 | 2018~2020 |
高速高精度汎用播種機の現地実証 | 2018~2019 |
大豆用高速畝立て播種機の現地実証と高度利用 | 2017~2019 |
野菜用の高速局所施肥機の現地実証と高度利用 | 2018~2019 |
セル苗を利用したホウレンソウ移植栽培技術の開発 | 2018~2020 |
ニンニク調製の軽労化装置の開発 | 2017~2019 |
野菜畑における多年生雑草の物理的防除技術の開発 | 2017~2019 |
りんご黒星病発生低減のための落葉収集機の開発 | 2018~2021 |
落花生用自走式拾い上げ脱莢機の開発 | 2019~2021 |
越冬ハクサイ頭部結束機の開発遠隔操作式 | 2019~2021 |
遠隔操作式高能率法面草刈機の開発 【新規】 | 2019~2021 |
②革新コア技術実用化タイプ | |
ISOBUSに対応した作業機ECUの開発 | 2019~2021 |
カウシグナルのスコア化・判定システムの開発 【新規】 | 2019~2021 |
豚舎洗浄ロボットの実用化研究 【新規】 | 2019~2021 |
③次世代革新基盤技術タイプ | |
栽培管理用AIロボットの研究開発 | 2018~2022 |