社会的背景
リンゴ黒星病については、近年、これまで使用していた農薬が効かない耐性菌が確認され、病害のまん延が危惧されています。リンゴ黒星病の発生を低減させるには、発生源となる前年の落葉を収集し、樹園地の外に搬出することが有効であることが知られています。しかし、リンゴの主産地である青森県では、秋に葉が落ち終わる前に積雪が始まるため、雪解け後に地面に張り付いた落葉を取除く必要があります。しかしながら、ブロアー2)やバキュームスイーパー3)
等の既存の機械では、地面に張り付いてしまった落葉は除去することが困難です。また、手作業による落葉収集は能率が低く、作業従事者の減少により実施することが困難となっており、効率的なリンゴの落葉収集機の開発が要望されていました。
開発の経緯
2017年に(株)オーレックと(地独)青森県産業技術センターりんご研究所で、リンゴ落葉収集機の開発に着手し、さらに実用化に向けた開発を進めるため、2019年から農業機械技術クラスター事業(https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/cluster/index.html)として共同研究に取り組んできました。
開発の内容・特徴
- 1.本落葉収集機は、回転ブラシ、接地輪、バケットで構成されるスイーパーと落葉収集レーキから成ります。(図1、表1)。乗用型草刈機(既存製品)でけん引をします。接地輪の動力で回転するブラシの前方にレーキを配置することで、レーキでかき起こされた落葉を回転ブラシでバケットに収容します。バケット内の落葉を樹園地外の集積所に排出する際は、運転席に座ったままでバケットの持ち上げ及び排出操作が容易にできます。
- 2.樹木が整列している比較的大規模な樹園地における本機の作業能率は、落葉の樹園地外への搬出時間を除いて約30 a/(人・h)であり、手持ちのガーデンレーキを用いた手作業での作業能率は0.9 a/(人・h)でした。したがって、本機の作業能率は、手作業の約30倍でした。
作業箇所での落葉除去割合は8~9割であり、樹冠下など走行作業ができない場所を含めた樹園地全体で見ても5~8割の落葉除去割合でした(表2)。
- 3.本機で落葉を収集することにより、無処理区に比べてリンゴ黒星病の原因菌の飛散胞子数を減らすことができたことから、リンゴ黒星病の発生低減に寄与できると考えられます(図2)。
今後の予定
本落葉収集機は、リンゴ栽培樹園地における落葉収集作業での実用的な性能を有する見通しが立ったため、2022年3月に(株)オーレックから市販化する予定です。価格は、スイーパー本体が23万円(税別)、落葉収集レーキが4.4万円(税別)を予定しています。
用語の解説
1)リンゴ黒星病:リンゴの葉や果実に褐色の病斑を形成する病害。主に被害落葉で越冬し、4月上中旬頃から子のう胞子が飛散することで感染する。一次感染した葉から別の葉や果実へと二次感染を繰り返し、病害が広がる。感染した果実は外観が悪くなることで商品価値を失うため、多発すると経済的な被害を及ぼす。
2)ブロアー:風の力で落葉などを吹き飛ばす機械。
3)バキュームスイーパー:落葉などを吸引して集める機械。