プレスリリース
(お知らせ) ヤマトイモ収穫作業機械化体系の開発・両正条田植機の開発・現場改善による 農作業安全の実証研究を開始

- 農業機械技術クラスター事業に3課題を追加 -

情報公開日:2022年5月10日 (火曜日)

ポイント

 農研機構では生産現場等からの要請対応やスマート農業の推進のため、農業機械技術クラスター事業の令和 4 年度の実施課題として、ヤマトイモ1)収穫作業機械化体系の開発、両正条田植機の開発、及び現場改善による農作業安全の実証研究を新たに開始します。引き続き地域農業の機械化ニーズへの対応やスマート農業の充実に向けて取り組んでまいります。

概要

 農研機構(本部:茨城県つくば市)では、生産現場の要望の実現を図るため、多様なメンバーで構成する「農業機械技術クラスター事業」( 以下、技術クラスター、https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/cluster/index.html)を 2018 年 4 月から立ち上げ、多様な現場ニーズに即応し、かつ異分野の知見を取り入れながら、農業機械の研究開発を行っています。スマート農業等の先端技術研究及び農業機械の安全性検査の実施とともに、関係機関との連携を従前以上に密にして業務を遂行する体制としています。

 技術クラスターで扱うプロジェクトは、①地域農業機械化支援タイプ、②革新コア技術実用化タイプ、③次世代革新基盤技術タイプの他に、今年度から新たに④新技術導入効果実証タイプを加え、4 つのカテゴリーに分類しています。

 今回、新たに開始する研究課題は以下の 3 件で、①、③及び④のタイプに該当します。
  • (1) ヤマトイモ収穫作業機械化体系の開発
    (研究期間:2022~2024年度、①地域農業機械化支援タイプ(園芸))

    [目的] ヤマトイモは、主に関東地方で栽培されており、千葉県が 497ha、群馬県が 484haと多く、これらの 2 県が主力産地となっています。ヤマトイモ栽培における収穫作業時間は総作業時間の約 2 割を占めています。収穫作業は、トラクタ直装式のプラウ(土壌を耕起するための農機具:犂)でヤマトイモを掘り起こしていますが、掘り起こし後にほとんどのヤマトイモがプラウの切った溝に沈み込んでしまうため、拾い上げ・コンテナ収容作業の前に人手で土中からヤマトイモを掘り出す作業が必要不可欠であり、作付面積拡大の妨げとなっています。
     このため、ヤマトイモ掘取機を開発するとともに、開発機に適した栽植様式を確立することで、収穫作業を省力的に行える機械化体系を開発します。

  • (2) 両正条田植機の開発
    (研究期間:2022~2024年度、③次世代革新基盤技術タイプ(水稲))

    [目的] 農林水産省では、2020 年に策定した「みどりの食料システム戦略」において、有機農業の取組面積の目標を 2030 年に 6.3 万 ha、2050 年に 100 万 ha とし、その普及拡大を進めています。
     農研機構では、この政策目標の達成に向け、栽培面積が大きい水稲を対象作目として取り組むこととしました。水稲の有機栽培では、雑草防除対策が最重要課題とされ、技術開発の要望でも 4 割以上を占めています。化学農薬を使用しない除草方法として機械除草が有効ですが、市販の水田除草機は条間(縦方向)の除草が主であり、株間(横方向)除草は簡易な機構(根張りが弱い雑草を針金で引っ掛ける)であるため取りこぼしが多く、また、稲株まで引き抜かないよう作業速度を遅くしなくてはならないといった課題があります。
     このため、株間の除草効果を改善し、作業の高速化を図る方法として、水田除草機による縦横 2 方向の機械除草体系を確立することを目指し、本課題において、株間と条間の距離を同じに保つ両正条植え2)を可能とする田植機を開発します。

  • (3) 現場改善による農作業安全の実証研究
    (研究期間:2022~2024年度、④新技術導入効果実証タイプ(安全))

    [目的] 農業生産法人では、雇用する従業員の労働安全を確保するため、過去の事故情報等に基づき作業手順書等を作成し、その遵守を従業員に求めるなどの取組を行っている例があります。しかしながら、こうした取組を行っている現場においても、軽度の負傷事故やヒヤリハットの発生が後を絶たず、重大事故の発生が懸念される状況となっています。これは、農作業の効率を低下させないよう作業手順書が現場で遵守されていないことや作業手順書の内容が不十分であることが要因と考えられます。
     このため、これまでの知見を通じて構築された「組織的な労働安全管理手法」等を実践した場合の安全性向上効果を定量的に検証します。具体的には、モニターとなる農業生産法人を対象として、専門家による調査を通じて危険性及び有害性の特定と不安全行動の洗い出しを行い、リスクアセスメントに基づく対策方針を策定するとともに、従業員等と対話しつつ現場改善を図ります。その上で、こうした対策を講じた場合の事故発生リスクの低減効果を明らかにするとともに、作業の効率化による経営改善効果についても明らかにします。

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農業機械研究部門 所長 天羽 弘一

研究担当者 :
同 機械化連携推進部 機械化連携推進室
室長 大森 弘美

広報担当者 :
同 研究推進部 研究推進室 広報チーム
チーム長 藤井 桃子


詳細情報

用語の解説

ヤマトイモ
 ヤマノイモ科ヤマノイモ属ナガイモ種に分類される植物です。さらに、ナガイモ種は、いもの形から長形種のナガイモ群、扁形種のイチョウイモ群、塊形種のツクネイモ(ヤマトイモ)群に大別できますが、関東地方ではイチョウイモ群がヤマトイモ(大和芋)と呼ばれており、本研究課題ではこれを対象作物としています。
両正条植え
 ほ場一筆において、植え付けした苗の条間と株間を同じ距離に保ち、植付条と直交する方向にも苗を揃えて植えること。植え付けた苗が、碁盤の目のように揃っているのが特長です。

参考図

 技術クラスターで実施中の研究課題は下表のとおりです。

研究課題名 研究期間
①地域農業機械化支援タイプ
  茶園用除草機の開発 2020~2022
  かんしょの作付け拡大を支援する高能率収穫体系の開発 2021~2023
  漬物用タカナ収穫機の開発 2021~2023
  雑穀類対応コンバインの開発 2021~2023
  ヤマトイモ収穫作業機械化体系の開発【新規】 2022~2024
②革新コア技術実用化タイプ
  豚舎洗浄ロボットの実用化研究【延長】 2019~2021~2022
  イアコーン収穫スナッパヘッドの現地適応化 2020~2022
  ライスセンターのスマート化システムの開発 2020~2022
  果樹園のスマート化に資する自動運転スピードスプレーヤの開発 2021~2023
③次世代革新基盤技術タイプ
  栽培管理用AIロボットの研究開発 2018~2022
  両正条田植機の開発【新規】 2022~2024
④新技術導入効果実証タイプ
  現場改善による農作業安全の実証研究【新規】 2022~2024