プレスリリース
(研究成果) 農機 OpenAPI 仕様の拡充とデータ利活用の実現に向けた道筋を具体化したユースケース事例集を公開

- メーカー間の垣根を越えたデータ連携を加速化 -

情報公開日:2023年7月11日 (火曜日)

農研機構

ポイント

 農研機構は、生産現場で農業者が使いやすいデータ連携を実現するため、令和 3 年度に整備した農機OpenAPI1)2)の仕様を拡充するとともに、生産現場で実施した有効性検証の結果をこのたび「令和 4 年度成果報告書」として取りまとめ公開しました。加えて、データ連携の効果を農業者が実感できるよう優先的に取り組むべき事項等を「ユースケース事例集」として公開しました。これらの成果は、メーカー間の垣根を越えたデータ連携の実現を加速化し、農業者によるデータ利活用が進むことが期待されます。

概要

 農研機構(本部:茨城県つくば市)では、農林水産省の「スマート農業の総合推進対策のうち農林水産データ管理・活用基盤強化事業」において、農機・機器メーカー、ICT ベンダー、業界団体等を構成員とした「農機 API 共通化コンソーシアム」を令和 3 年度に設立し、農機メーカーの枠に限定されることなく、農業者が農機・機器から取得できる作業記録等のデータを一元管理できるようにするため、必要な検討を進めてきました。
 本事業では、令和 3 年度末までにメーカー各社が API を実装する際の基準となる「農機OpenAPI 仕様書」(標準 API 仕様)を策定しています。このたび、標準 API 仕様を拡充させるとともに、現地実証により有効性を検証した結果などを取りまとめた「令和 4 年度成果報告書」及び農業者がデータ利活用で実現したい目的・シナリオを具体化した「ユースケース事例集」を公開しました。
 これらの成果を農機・機器メーカー、ICT ベンダー等に活用いただくことで、これまで課題となっていたメーカー間の垣根を越えたデータ連携を加速化し、生産現場での農業者のデータ利活用の推進に貢献することが期待されます。

参考

農機API共通化コンソーシアムのホームページ
URL: https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/API/index.html

関連情報

予算 : :農林水産省補助事業(令和4年度みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業費補助金等のうちスマート農業の総合推進対策のうち農林水産データ管理・活用基盤強化事業)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農業機械研究部門 所長 安原 学
同農業情報研究センター センター長 村上 則幸
同野菜花き研究部門 所長 松元 哲
研究担当者 :
同農業機械研究部門 機械化連携推進部 機械化連携推進室
室長 大森 弘美
広報担当者 :
同 研究推進部 研究推進室 広報チーム
チーム長 藤岡 修

詳細情報

社会的背景

 農業者の高齢化や労働力不足に対応しつつ生産性を向上させるには、ICT・ロボット技術等を活用したスマート農業の導入が鍵となります。スマート農業については、作業の自動化や省力化はもとより、農業データの活用による効率的な農業経営や技術継承の円滑化などの効果が期待されています。
 スマート農業の普及に伴い、農業の現場からは、メーカー間の垣根を越えた様々な農機・機器のデータ連携を通じた、一元的なデータ管理・分析と農業経営への活用に対するニーズが高まっています。
 このため、農林水産省において、農機メーカー、ICT ベンダー、農業者、学識経験者が参画する検討会を設置し、異なる農機・機器が取得するデータの連携に向けたルールづくりに関する検討を行い、令和3年2 月に「農業分野におけるオープン API 整備に関するガイドライン ver1.0」が策定されました。

事業の経緯

 このような背景のもと、農林水産省「スマート農業の総合推進対策のうち農林水産データ管理・活用基盤強化事業」では、農業データを連携・共有するための環境整備の支援を通じてデータを活用した農業を推進することとなりました。
 そこで、農研機構では、「農業情報創成・流通促進戦略に係る標準化ロードマップ」(令和 2 年 5 月)、「農業分野におけるオープン API 整備に関するガイドライン ver1.0」(令和 3年 2 月)及び「農業分野における AI・データに関する契約ガイドライン」(令和 2 年 3 月)の趣旨を踏まえつつ、農業分野でのデータ連携を推進するため、農機・機器メーカー、ICTベンダー、業界団体、研究機関等からなる、農機 API共通化コンソーシアム(以下、コンソーシアムという。)を令和 3 年 4 月に設立しました(図1)。
 コンソーシアムに「ほ場農業機械 WG(ワーキンググループ)」、「穀物乾燥調製施設 WG」、「施設園芸機器 WG」を設置して分野ごとに検討を進め、ほ場農業機械、穀物循環式乾燥機、施設園芸機器(環境データ)の API の標準的な仕様(以下、標準 API 仕様という。)が定められるなど成果が得られています。
 さらに、生産現場で農業者が使いやすいデータ連携を実現するため、農業者、ICT ベンダー、学識経験者、業界団体等からなる事業検討委員会を設け、各 WG への助言・指導を行いました。

研究の内容・意義

 令和 4 年度は、標準 API 仕様を充実させて改訂するとともに、現地実証を通じてその有効性を検証しました(図2)。
 また、コンソーシアムでは、新たに「農業データ連携将来像検討 WG」(以下、将来像 WGという。)を設置し、「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」、「成功に向けたステップ(ロードマップ)」、「ユースケース」を検討・整理しました。
 ユースケースの検討は、以下の考えを基本としました。

  • (1)先進的農業者が既に取り組んでいるユースケースを大多数の農業者が簡便に実現できるよう、オープン API の整備を進める。
  • (2) データ利活用の効果を感じる農業者が一定規模に達すれば、データ利活用が加速度的に進み、また、農業者同士の連携により新たなユースケースの創出を実現する。

 上記の活動を受け、令和 4 年度の成果等を以下のとおり取りまとめ公表しました。

  • 1) 令和4年度成果報告書
     事業成果の要約版として、各種成果物の位置付け、成果の概要及びコンソーシアムの活動記録等について取りまとめたものです。令和 4 年度は新たに「令和 3 年度に策定した APIの生産現場での有効性の検証」や「農業分野におけるデータ連携で切り開かれる未来(将来像)の検討」の内容について報告しています。
  • 2) ユースケース事例集
     関係者へのヒアリングや先行事例調査を踏まえ、将来像 WG において策定した「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」の実現に向け、優先的に取り組むべき項目と中長期的に取り組むべき項目に分けてユースケースを取りまとめたものです(図3)。
  • 3) 農機OpenAPI仕様書
     農機・機器データの利用しやすさの向上及び農機・機器メーカーの迅速な API 実装を支援するために作成したもので、令和 3 年度に策定したほ場農業機械編、穀物循環式乾燥機編、施設園芸機器(環境データ)編のデータ項目を充実した内容に改訂し、新たに穀物検査機器編を追加しました。農機・機器メーカーが標準仕様に沿って API を実装することにより、ICT ベンダーはメーカー間の仕様の違いを気にすることなく、API で取得できるデータ項目に関する定義の一貫性を担保することができます。これにより、農機・機器データの収集・分析が容易になり、農業者の利便性の向上やソフトウェアの高機能化につながります。

上記の成果物は、以下のウェブページからどなたでもダウンロードできます。
農機API共通化コンソーシアムのホームページの成果物へのリンク
https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/API/index.html#documents

今後の予定

 本コンソーシアムでは、成果の普及に努めるとともに、農業者が農機・機器の各種データを容易に利用できるよう、業界関係者が一体となって、オープン API に対応した機器の種類やデータ項目の拡充等、データ利活用に向けた各種環境整備に取り組んでまいります。
 今後は農機・機器メーカー、ICT ベンダー、業界団体、研究機関、行政機関等が、将来像WG で合意した「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」の早期の実現に向けて、密接な連携協力の下で取組を加速させることが期待されます。

用語の解説

API
アプリケーションプログラミングインタフェース(Application Programming Interface)の略で、ソフトウェア機能の一部をインターフェースとして公開し、他のソフトウェアと機能を共有できるようにするものです。
オープンAPI(OpenAPI)
APIを提供する事業者が、自社システムへ接続するためのAPI仕様を外部に公開し、セキュリティを確保しながら一定の条件の下でアクセスを可能とし、データ交換等が行える仕組みです。オープンAPIの整備は、データ連携の推進に欠かせない取組です。

参考資料

「農業分野におけるオープンAPI整備に向けた検討会」URL
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/openapikento.html
「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0」URL
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/openapi-16.pdf

参考図

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図1 農機API共通化コンソーシアムの実施体制(令和4年度)
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a)実証実施箇所の概略
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b)ほ場農業機械の作業データ取得におけるデータ連携実証の様子
(ウォーターセルの営農情報管理システムで他社(クボタ)の機械稼働状況の取得に成功した事例)


図2-1 生産現場でのAPIの有効性検証
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c)穀物乾燥機の遠隔監視アプリにおけるデータ連携実証の様子
(サタケの遠隔監視アプリで他社(山本製作所)の穀物乾燥機の稼働状況の取得に成功した事例)
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d)施設園芸(環境データ)の営農管理システム上におけるデータ連携実証の様子
(テラスマイルの営農情報管理システムで他社(誠和及びネポン)の施設内データの取得に成功した事例)


図2-2 生産現場でのAPIの有効性検証
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図3 将来像WGで選定したユースケース一覧とその一例
(令和4年度成果「ユースケース事例集」より抜粋)