プレスリリース
(研究成果)高水分の水稲収穫に適応可能なコンバインの車速制御技術を開発

- 作業面積が拡大し水稲の生産性向上に貢献 -

情報公開日:2026年2月27日 (金曜日)

農研機構
井関農機株式会社

ポイント

 農研機構と井関農機株式会社は、コンバインによる収穫作業中に穀粒水分に応じて作業速度を自動制御する車速制御技術を共同開発しました。本技術により、降雨後や朝露が付着した高水分の水稲を収穫する際でも、従来と比べて穀粒損失1)を約1/3まで低減できます。これにより、作業可能な時間帯が増え、コンバインの1日当たりの作業面積を約3割拡大することが可能となり、担い手にとっての水稲生産性向上に大きく貢献します。

概要

 コンバインによる収穫作業では、籾が十分に乾燥していない場合、本来収穫すべき籾の一部が誤って機体後方から排出されてしまい、穀粒損失が生じます。このため、穀粒水分が高くなる朝夕の時間帯は収穫作業が行われていないという課題がありました。今回開発した技術は、籾の湿り具合(穀粒水分)に応じて、コンバインの車速を自動制御するもので、収穫すべき籾が排出されてしまうのを防ぐことができます。
 実際に本技術を用いて、降雨後や朝露が付着した高水分状態の水稲を収穫した場合、従来と比べて穀粒損失を約1/3まで低減できます。これにより、これまで収穫作業が行われていなかった朝夕の時間帯にも作業が可能となり、仮に朝夕それぞれ3時間ずつ作業時間を拡大した場合1日当たりの作業面積は約3割拡大するなど、担い手にとって、水稲の作付け拡大や生産性向上に寄与する技術となることが期待できます。

関連情報

予算 : 運営費交付金(農業機械技術クラスター事業)
特許 : 特開2024-60694
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 農業機械研究部門 所長 長﨑 裕司
井関農機株式会社 代表取締役社長 冨安 司郎
研究担当者 :
農研機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域
         グループ長補佐 栗原 英治
広報担当者 :
農研機構 農業機械研究部門 広報チーム長 大西 正洋

開発の社会的背景と研究の経緯

 水稲のコンバインでの収穫作業においては、朝露や夜露が付着していない時間帯(例えば10時から16時)が推奨されています。これは、機体の中で籾がべたつかず、収穫すべき籾が誤って排出される穀粒損失が少ないためです。しかし近年、担い手の生産規模が急拡大し、作業面積も増加傾向にある一方で、コンバインの台数を増やすことはコスト面で大きな負担になっています。さらに、気候変動の影響により、降雨前の空気が湿っている時や降雨後の高水分状態の水稲を収穫せざるを得ない場面が増え、コンバインの穀粒損失の著しい増加や作業効率の低下が問題となっています。
 こうした現場の課題を解決するため、農研機構、井関農機株式会社、宮崎大学、岩手県農業研究センター、農林水産・食品産業技術振興協会はコンソーシアムを結成し、2023年度から農業機械技術クラスター事業(https://www.naro.go.jp/org/iam/cluster/index.html)として、降雨後や朝露が付着した高水分水稲(穀粒水分25%以上)にも高い適応性を持つコンバインの開発・実用化研究に取り組んできました。本研究では、穀粒水分に応じて車速を制御することで、高水分水稲(穀粒水分25%以上)を収穫した場合のコンバインの中での濡れた籾の流動性低下を抑制して機体後方から誤って排出される穀粒損失を低減できることを見出し、この技術を実用化することで1日当たりの作業面積の拡大を目指しています。

研究の内容・意義

1. 本技術は、穀粒水分と収穫量のデータをもとにコンバインの最適な作業速度を計算し、自動で車速を制御するものです。水分測定部と質量測定部を備えた収量コンバイン2)(井関農機HJ6130、6条刈、95.6kW)に適用される技術です(図1)。

2. 制御方法としては、基準となる穀粒口流量3)と平均作業速度の比、および穀粒水分の関係から、穀粒損失が3%以上となる収穫作業NG領域に入らない最適車速域を、事前の実験で求めて制御アルゴリズムに組み込んでいます(図2)。このアルゴリズムにより、収穫作業中に穀粒水分(電気抵抗式単粒水分計の10粒平均値)が更新されるたびに作業速度が自動で調整(穀粒水分が高い時は作業速度を落とし、穀粒水分が低い時は作業速度を上げる)され、作業能率の最適化を図ります。そのため、降雨後や朝露が付着した状態でも、穀粒損失を抑えた作業が可能となり、作業者による操作は不要です。なお、車速制御が機能する穀粒水分域は25~32%です。
3. 本技術を搭載した開発機を用いて、降雨後や朝露が付着した穀粒水分25%以上の高水分水稲を収穫した場合、車速制御なしと比較して穀粒損失を約1/3まで低減できました(表1)。この結果等をもとに作業可能面積をシミュレーションしたところ、車速制御を利用することで、これまで収穫作業が行われていなかった朝夕の時間帯にも作業が可能となるため、1日当たりの作業時間を増やすことができ、朝夕3時間ずつ作業時間を拡大した場合、1日当たりの作業面積は約3割拡大することが分かりました(図3)。ただし、穀粒水分が32%を超えるような過度に高い条件下では、収穫作業を行わないよう留意する必要があります(図2)。

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図1 開発機の外観

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図2 車速制御技術の概要

表1 性能試験結果
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図3 1日当たりの作業面積の試算結果

今後の予定・期待

 本技術は、2026年度に井関農機株式会社より実用化される予定です。また、本技術の導入により、担い手や農業支援サービス事業体の作業面積拡大が期待されます。

用語の解説


穀粒損失
 全収穫穀粒に対する、コンバイン機体後方から排出された穀粒の質量割合。
収量コンバイン
 穀粒水分計と質量計を搭載し、収穫作業中に穀粒水分およびグレンタンク内穀粒質量の測定が可能なコンバイン。
穀粒口流量
 穀粒口(グレンタンク上部)からグレンタンク内に収容された穀粒の、単位時間当たりの質量。

発表論文


高湿材適応コンバインの開発(第1報および第2報)、農業食料工学会誌第88巻2号(2026年4月発刊)