プレスリリース
イチゴ新品種「おいCベリー」を育成

- 7粒で1日分のビタミンC! -

情報公開日:2010年12月14日 (火曜日)

ポイント

  • ビタミンC含量が高く良食味なイチゴの促成栽培向き新品種を育成しました。
  • 付加価値の高い品種として普及拡大が期待されます。

概要

  1. 農研機構 九州沖縄農業研究センターは、ビタミンC含量が高く良食味なイチゴ新品種「おいCベリー」を育成しました。
  2. ビタミンCが市販品種の中で最も多い「さちのか」の1.3倍含まれ、高い抗酸化活性を有しています。さらに、果実の日持ち性に優れ、糖度が高く、食味も良好です。「とよのか」並みの早生で促成栽培に適しています。
  3. 今までにないビタミンC高含有の品種として普及拡大が期待できます。

関連情報

予算

運営交付金、農林水産省委託プロジェクト「新鮮で美味しい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための総合研究(2002~2006年度)」

品種登録出願番号

第24900号


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

現在栽培されているイチゴ品種には100g当たり約60mgのビタミンCが含まれていますが、大半のイチゴは生食により消費され、ビタミンCが破壊されずに吸収されます。このため、イチゴは冬季のビタミンCの供給源として重要な作物です。一方で、食品の健康維持機能に対する消費者の関心が高まっており、イチゴにおいてもビタミンC含量がさらに高い品種の育成が望まれています。

そこで、九州沖縄農業研究センターでは、ビタミンC含量が安定して高く、果実品質と収量性に優れる促成栽培用品種を育成しました。

研究の内容・意義

  1. 「おいCベリー」(図1、2)は、炭疽病抵抗性が高く、やや晩生である「9505-05」を母親に、ビタミンC含量が高く、促成栽培に適した「さちのか」を父親としています。
  2. 「おいCベリー」の果実は、ビタミンCが市販品種の中で最も多い「さちのか」の約1.3倍、主要品種「とよのか」の約1.6倍含まれ、高い抗酸化活性を有しています(表1)。さらに、果実は大きく濃赤色で光沢があり、日持ち性に優れます。「さちのか」より糖度が高く、酸度は同程度で食味は良好です(表2)。
    草姿は立性で、草丈は高く、分げつ、頂果房花数は「とよのか」と同程度です。休眠は浅く、厳冬期は「とよのか」より強い草勢を示し、果房伸長性が優れるため玉出し等の作業が不要です(図1)。
  3. 花芽分化期はポット育苗では9月中旬で、開花は「とよのか」並で、促成栽培に適しています。普通促成栽培では年内収量および2月末までの早期収量は「とよのか」より少なめですが、4月末までの収量(総収量)は「とよのか」より多く、「さちのか」と同程度であり、高い商品果率を示します。夜冷短日処理による花芽分化促進効果が高く、早出し促成栽培にも適しています(表4)。
  4. うどんこ病に対しては中程度の抵抗性を有していますが、萎黄病および炭疽病に対しては罹病性を示します(データ略)。
  5. 花芽分化期はポット育苗では9月中旬で、開花は「とよのか」並で、促成栽培に適命名の由来は、「ビタミンCを多く含むおいしいイチゴ品種」の意味です。

図1 収穫開始期の「おいCベリー」

図2 「おいCベリー」果実

表1 「おいCベリー」のビタミンC含量と成人が一日に必要なビタミンCをイチゴで摂取するときの個数

表2 「おいCベリー」の促成栽培における果実品質

表4 「おいCベリー」の促成栽培および早出し栽培における収量と平均果重

今後の予定・期待

今までにないビタミンC高含有の品種として普及拡大が期待されます。促成栽培適応性と収量性が高いことから、促成栽培産地で普及が見込まれます。現在、長崎県、佐賀県、岡山県等で試作が行われています。

今後、民間種苗会社等へ普及を働きかけていく予定です。

用語解説

ビタミンC
皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です。イチゴ果実には100g当たり62mgのビタミンCが含まれています(5訂日本食品標準成分表)。成人の1日の栄養所要量は100mgとされています(第六次改定日本人の栄養所要量-食事摂取基準)。
抗酸化活性
ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド、ポリフェノール類等に代表される物質が持つ活性であり、自らが酸化されることにより共存する他の物質が酸化されることを防止する機能があります。このような作用を抗酸化作用、またその力を抗酸化活性と呼びます。抗酸化活性を有する成分は生活習慣病予防やアンチエイジングに有効であることを支持する科学的データが蓄積されつつあり、注目をあびています。
とよのか
野菜試験場久留米支場(現九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点)で1983年(昭和58年)に育成された品種です。果実は円錐形で大果。果色は光沢のある鮮紅色。香りが高く、甘み、酸みが調和し、多汁で生食に適しています。現在、約100ha(全農系統扱)で栽培されています。
さちのか
野菜・茶業試験場久留米支場(現九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点)で1996年(平成8年)に育成された品種です。果実は長円錐形、果色は濃赤で光沢があります。日持ち性と輸送性に優れ、流通適性が高いです。ほどよく甘みと酸みが調和し、多汁で、肉質は緻密で生食用として人気があります。市販品種の中でビタミンC含量が最も高い品種です。現在、約300ha(全農系統扱)で栽培されています。
促成栽培
ハウス内で花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることによって、年内11月~翌年5月までの長期間にわたって連読して収穫する作型です。9月に定植し、10月下旬にハウス内の保温・加温を開始します。宮城県以南の温暖地・暖地に適し、国産イチゴの全生産量の90%以上をこの作型が占めています。
早出し促成栽培
促成栽培のなかで11月の早い時期から収穫する作型です。出荷量が少なく単価の高い年内に収穫できるイチゴを確保するため、苗を日中の短時間だけ光にあて、朝夕を暗冷蔵室に入れる「短日夜冷」や日夜連続して暗冷蔵室に入れる「暗黒低温」等の花芽分化促進処理を行います。花芽分化促進処理は8月中旬のお盆の頃から9月上旬頃まで行い、花芽分化確認後に定植することで、11月上・中旬から収穫できます。
玉出し作業
果実の着色を良くするために、太陽光が果実に当たるように葉を支持具で立てたり、果房を葉の外に出す作業です。