プレスリリース
収穫前に米の品質低下被害を予測できる装置を開発

情報公開日:2011年6月21日 (火曜日)

ポイント

  • 収穫前約10日の玄米横断面を解析することにより、収穫時の乳白粒の発生程度を予測できる装置を初めて開発しました

概要

  • 近年、水稲登熟期の不良気象条件により、乳白粒の発生などによる玄米品質の低下が頻発しています。
  • これまで、農家が登熟中の玄米の外観から乳白粒の発生を予測する手法がなかったことから、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターと株式会社ケツト科学研究所は、玄米横断面の白濁部の画像解析による乳白粒発生予測装置を開発しました。
  • 本装置を用いると、収穫前約10日の時点で乳白粒の発生程度を予測できるため、農業共済の的確な被害申告や共乾施設への仕分け入荷などでの活用が期待されます。

予算

農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」(平成20-22年度)「日照不足と台風による早期米品質低下の予測・対策技術の開発」

特許出願

特願2010-291563「収穫予定米の断面撮像画像を用いた収穫時品質予測システム及び収穫時品質予測方法」


詳細情報

開発の社会的背景と経緯

近年、水稲登熟期の不良気象条件による玄米品質低下が頻発しています。品質低下により規格外米の発生に対し農業共済制度の適用を受けるためには、収穫前に農家が被害申告を行い、共済組合による立毛状態での調査を受ける必要があります。2007年の九州南部の早期水稲栽培地域では、日照不足と台風に伴う乾燥風で乳白粒(図1)が大量に発生し、規格外米が4~7割を占めるという深刻な被害が発生しました。

しかし、登熟の途中では、整粒(透明で品質良好な玄米)も乳白粒と同様に表面が白濁していることから、収穫前に玄米の外観から整粒と乳白粒とを区別することが難しいという問題がありました。

そこで、本研究では、収穫前の玄米を切断し、横断面(切断面)に現れる乳白粒特有の白濁の様相から乳白粒を判定する手法を開発し、その装置化にも取組みました。

開発技術の内容・意義

  • 乳白粒の横断面には、中心に楕円状の白濁部(デンプン粒の詰まり方が粗い部分)があり、その外側(表層側)は透明化している(デンプン粒が密に詰まっている)という特徴があります(図2)。
  • 透明部分は、登熟に伴い、玄米の中心から表層に向かって順次広がっていきます(図3)。
  • 中心に白濁部が残り表層側が透明化している場合、白濁部ではデンプン蓄積がすでに終了しており、透明化が進まず収穫時までそのまま残ることから、最終的に乳白粒となります。
  • 本予測手法では、乳白粒の発生過程から、玄米の表層がまだ白濁している未熟な玄米であっても、横断面に上記3.の特徴(白濁部の外側に透明部分)が現れていれば乳白粒になると判定します。
  • 開発した装置(図4)は、100粒の玄米を一度に簡易に切断する機器と、そこで得られた切断面をスキャナーで撮像する機器、および、得られた画像の解析から上記の予測基準により乳白粒をカウントする機器で構成されています。
  • 本手法を用いて収穫前10日に乳白粒発生割合を予測したところ、その値は実際の収穫時の乳白粒発生割合とほぼ一致しました(図5)。一方、通常収穫時の玄米外観品質の判定に利用されている従来の穀粒判別器を用いて収穫前に判定を行うと、収穫時の乳白粒発生割合とは大きく異なる値となりました。

今後の予定・期待

本装置により、農家が被害を事前に把握し、農業共済制度の適用を受けるための被害申告が的確に行われることが期待されます。例えば、水稲の登熟期に台風や日照不足、異常高温があった際には、万一に備え、収穫10日前に圃場から玄米を採取して本装置により乳白粒の発生程度を予測します。

また、開発装置により収穫前の段階で圃場別に品質を予測することができるため、仕分け入荷により共乾施設への被害米の混入を防ぐことも期待されます。

なお、本開発装置の実演を含めた研究会が宮崎県において下記の要領で開催されますので、ご案内いたします。

「玄米品質の収穫前予測技術」研究会

開催日時:平成23年6月27日(月)13:20~16:20

開催場所:宮崎県総合農業試験場 大会議室(宮崎県宮崎市佐土原町下那珂5805)

主催:宮崎県農林技術連絡協議会

共催:宮崎県総合農業試験場、(独)農研機構九州沖縄農業研究センター

内容:

  • 乳白粒発生条件の解析(宮崎県農産園芸課)
  • 乳白粒発生を軽減する栽培法(宮崎県総合農業試験場)
  • 水稲の生育データと気象データによる白未熟粒発生予測モデル(九州沖縄農業研究センター)
  • 収穫前玄米を用いた乳白粒発生予測技術(九州沖縄農業研究センター、開発装置の説明含む)
  • 全体質問・討論

定員100名

参集範囲:

宮崎県内の市町村・JA・農業共済組合・農政事務所、宮崎県営農支援課・農産園芸課・農林振興局・支庁(農業改良普及センター)、宮崎県総合農試

希望があれば、上記範囲以外の方も受け付けますが、定員を超えた時点で締め切らせて頂きますので、ご了承ください。

申込み先:農研機構 九州沖縄農業研究センター 水田作・園芸研究領域 森田 敏

E-mail moritas@affrc.go.jp

Tel 0942-52-0670      

用語解説

乳白粒
玄米の検査等級を下げる未熟粒の1つで、表面の1/2以上が白濁している粒を指します。乳白粒は、登熟期の日照不足や台風、高温などの不良気象条件で発生するため、近年の温暖化あるいは気候変動条件下では増加傾向にあります。対策としては、これらの不良環境条件でも乳白粒が発生しにくい耐性品種や、籾数抑制型の栽培法、深耕や中干しなどの効果が明らかになってきています。

登熟期
作物が開花・受精後、種子として発育していく過程の時期。胚や胚乳が形成され、胚乳では炭水化物などの貯蔵物質の蓄積が進みます。

立毛状態
収穫する前、圃場にまだ作物が栽植されている状態のことです。

収穫期
水稲の収穫適期(成熟期)は、多くの地域で黄化籾割合(穂の中で黄色になった籾の割合)が9割程度に達した時期を目安にしています。

規格外米
米の検査等級の中で3等の下の米を指します。乳白粒が多発して規格外となった場合には、精米過程で割れたり精米歩留まりが落ちて流通しにくく、取引価格が安くなる傾向があります