プレスリリース
でん粉用カンショ新品種「こなみずき」を育成

- 和菓子等の品質を長持ちさせるでん粉! -

情報公開日:2011年6月30日 (木曜日)

ポイント

  • 既存のでん粉原料用品種とは異なり、糊化後に老化しにくく保水性が保たれるでん粉をもつカンショ新品種です。
  • そのため、糖化原料用だけでなく、和菓子や練り製品などの食品の製造に適しています。
  • 「こなみずき」は、早急に生産現場に普及させる技術として農林水産省が選定する「農業新技術2011」に選定されました。

概要

  • 農研機構 九州沖縄農業研究センターは、老化しにくいでん粉をもつカンショ新品種「こなみずき」を育成しました。
  • 「こなみずき」のでん粉は、主力品種である「シロユタカ」よりも糊化温度が約20°C低く、また、糊化したでん粉を冷蔵保存しても離水が少なく、保水性と柔らかさを維持できる、すなわち、老化しにくいという特性を持っています。
  • そのため、和菓子や練り製品などのでん粉を用いた食品の製造と品質の長期保持に貢献します。
  • 以上のような特性が、カンショでん粉の新たな需要拡大とでん粉産業の活性化、それによるカンショ生産農家の経営安定につながることが期待されることから、農林水産省の「農業新技術2011」に選定されました。

関連情報

  • 予算:運営交付金、農林水産省委託プロジェクト「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発(2007~2010年度)」
  • 品種登録出願番号:「第24650号」

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

鹿児島県ではカンショ栽培面積の約4割にでん粉原料用品種が作付けされており、地域の農業及び経済にとって重要な役割を果たしています。従来のカンショ品種から製造したでん粉の約8割は糖化原料として利用されていますが、価格面でコーンスターチやタピオカでん粉などの輸入でん粉に対抗する競争力はありません。カンショ生産農家およびでん粉産業の経営安定のためには、国産カンショでん粉の付加価値を高めることが必要となっています。

そこで、九州沖縄農業研究センターでは、糖化原料用だけでなく、和菓子や練り製品などの食品原料にも用いることができ、その高品質化を可能にするでん粉原料用品種の開発に取り組んできました。

研究の内容・意義

  • 「こなみずき」(図1)は、低温糊化性でん粉をもつ「99L04-3」を母親、高でん粉・多収の「九系236」を父親として2003年に交配し、育成した品種です。
  • 「こなみずき」は低温糊化性でん粉をもち、でん粉用の主力品種「シロユタカ」より約20°C低い温度ででん粉が糊化します(表1)。
  • 「こなみずき」の低温糊化性でん粉は、粒の中央に亀裂をもち(図2)、糊化後に冷蔵保存した場合、離水率や硬度が「シロユタカ」より大幅に低く、耐老化性に優れています(表1)。この特徴を活かして、加工処理しない天然でん粉のままで、葛餅、わらび餅や落花生豆腐などの食品を製造しても、形や柔らかさを長期間保持できます(図3図4)。なお、カンショの低温糊化性でん粉の離水率は、タピオカでん粉と同程度です。
  • サツマイモネコブセンチュウおよび、ミナミネグサレセンチュウに対する抵抗性は、「シロユタカ」並みで、黒斑病にも強く、貯蔵性は「シロユタカ」よりやや優れています(表2)。
  • カンショの一般的な作型である標準無マルチ栽培における上いも重およびでん粉重は「シロユタカ」並です。一方、生育期間を長くしてより多収をねらう長期透明マルチ栽培では「シロユタカ」に劣ります(表3)。
  • 命名の由来は、「みずみずしいままの糊化でん粉を長期間保つ希望のでん粉用品種」の意味です。

今後の予定・期待

「こなみずき」を原料に利用することで、高品質で付加価値の高い国産カンショでん粉の製造が可能となります。本品種はカンショでん粉の評価を高め、食品向け用途の確保により、でん粉需要を拡大し食品加工産業を活性化するだけでなく、南九州のカンショ生産農家やでん粉産業の経営基盤の強化に貢献します。

「こなみずき」の普及に向けて、安定多収の栽培条件の確立、でん粉需要の拡大に向けた加工利用技術の開発が必要です。画期的な特性を持つ本品種の実用化に向けて、農研機構は、鹿児島県、大学やでん粉製造メーカーと協力して今後も研究および成果の普及に関する取り組みを進めていきます。

用語解説

でん粉の糊化
でん粉に水を加えて加熱すると、でん粉粒が吸水して膨張し、さらに加熱を続けると、でん粉粒が崩壊し、分散したでん粉分子間に水分子が入り、糊状に変化する現象のこと。一般のカンショ品種のでん粉の糊化開始温度、粘度や透明度はバレイショでん粉とコーンスターチの中間です。

低温糊化性でん粉
一般のカンショ品種のでん粉の糊化開始温度は約70°Cですが、それより約20°C低い温度で糊化する画期的なでん粉で、でん粉粒を構成するアミロペクチンの短い側鎖が多いという突然変異により、でん粉の結晶性が低下して、糊化しやすくなると考えられています。カンショの他にはジャガイモやエンドウマメなどにおいて、類似のでん粉を含む遺伝子組換え体や突然変異体が作られていますが、通常の交雑育種法によって実用化されている作物はカンショ以外には未だありません。

でん粉の老化
糊化により分散したでん粉分子が時間の経過とともに再凝集して、水分子が離れ、収縮していく現象を老化といいます。これらの変化が少なく、糊化でん粉のみずみずしさ(保水性)が保持されることを耐老化性があるといいます。一般のカンショ品種のでん粉の老化性は、バレイショでん粉や葛でん粉と同程度ですが、低温糊化性でん粉は耐老化性に優れます。低温糊化性でん粉は、糊化の際に低めの温度から十分に糊化してゲルの保水性が増すため、老化しにくいと考えられています。

でん粉の離水率
でん粉の老化を測る指標で、糊化したでん粉を低温で一定時間放置し、滲み出る水の量を重量比で示したものです。この値が低いほど、糊化でん粉の保水性が高く、みずみずしさが長く保たれる(老化しにくい)ことを示します。

カンショでん粉の現状
カンショでん粉の一部は希少でん粉の葛粉やわらび粉の代替として、葛餅、わらび餅、ごま豆腐などに利用されていますが、バレイショでん粉に比べると食品への用途は限られています。これは、カンショでん粉がバレイショでん粉とコーンスターチの中間的な物性を示し、加工適性に特徴がないためです。このため、カンショでん粉の8割はでん粉価格調整制度の下で異性化糖や水飴などの糖化原料に使われており、内外価格差で1/3程度の安価なコーンスターチと競合しているのが現状です。

 

※一部写真は日本澱粉工業株式会社および鹿児島県からご提供いただき、その承諾のもとに掲載しています。