プレスリリース
初夏に新そばが収穫できる 春播き品種「春のいぶき」を開発

情報公開日:2008年5月20日 (火曜日)

(独)農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)九州沖縄農業研究センターは、九州地域の温暖な気象環境を活用して、3月下旬~4月上旬に播種して5月下旬~6月上旬に収穫する新しい栽培型(春播き栽培)に適した品種「春のいぶき」を開発しました。

「春のいぶき」の春播き栽培では夏期前に新蕎麦が収穫出荷できるので、消費者は香りの良い蕎麦を夏期に賞味できます。生産者は「春のいぶき」を冬野菜(タマネギなど)の後作や普通水稲作の前作として栽培できるので、耕地が効率的に利用できます。


詳細情報

背景とねらい

蕎麦は夏期に消費が増加しますが、夏期に食する蕎麦麺は前年に収穫したソバを用いています。実需者からは、夏期の需要期に新鮮なソバが入手できる栽培型が求められています。現在九州地域では8月下旬から9月上旬に播種して晩秋に収穫するソバ栽培が行われていますが、最近台風が頻繁に来襲してソバに被害をもたらしています。一方、九州は初春から温暖であり、早くからソバの栽培可能な気温に達します。

そこで、温暖な気候資源に着目して、3月下旬から4月上旬に播種して初夏に収穫する栽培型(春播き栽培)の技術開発と、この栽培型に適する品種育成を目指して研究を実施してきました。

九州の在来品種は秋期(短日条件)に成熟する性質を持つので春播き栽培には適しません。「キタワセソバ」、「しなの夏そば」等の品種は初夏でも成熟しますが耐穂発芽性が劣っていたことから、初夏(長日条件)でも収穫できて収量性が高い「春のいぶき」を育成しました。「春のいぶき」は難穂発芽性を持つので、成熟期の降雨にあっても品質の低下がわずかです。九州地域の新しい特産品として今後作付の拡大が期待されます。

 

成果の内容・特徴

  • 「春のいぶき」は生育日数が短く、短日要求性が小さいので、日長の長くなる6 月でも収穫できます。
  • 「春のいぶき」は耐倒伏性が「階上早生」と同じ程度に強く、「しなの夏そば」、「階上早生」より多収です。粒大は「階上早生」と同じ程度です。(表1)
  • 「しなの夏そば」、「階上早生」より穂発芽しにくく、降雨による品質低下(粘度低下)の程度もわずかです。(表2)
  • 麺の食味は前年度産のキタワセソバより勝り、香りも高いです。(表3)
  • 鹿児島県(大隅地域)、熊本県(芦北地域)、大分県(豊後高田地域)での春播き栽培用として作付が予定されています。

品種の名前の由来

「春のいぶき」は、早生、多収、難穂発芽性を目標として、2001 年に「階上早生(はしかみわせ)」から穂発芽性に重点を置いて選抜を繰り返してきた育成品種です。九州地域の春播き栽培に適していることから、品種名を「春のいぶ
き」と命名しました。

 

参考データ

「春のいぶき」の系譜

階上早生━━━━━ 春のいぶき

 

「春のいぶき」の特性

表1 「春のいぶき」の生育・収量特性

 

表2 穂発芽検定結果 表3 食味検定結果

 

写真成熟期頃の「春のいぶき」(2006 年芦北町で撮影)

 

用語解説

  • 九州のソバ栽培:
    全国のソバ作付面積は4万4千800ha(平成18年)で、九州の主産県は鹿児島県(985ha)、宮崎県(419ha)、熊本県(417ha)です。収量は鹿児島県が全国で最も高くて140kg/10aです。一般的な作付は8月中旬から9月上旬に播種し、
    10月下旬から11月上旬に収穫します。九州のソバは収量が比較的高いのですが、近年秋期の長雨や台風による被害が頻繁に発生し、収量の安定性は低いです。
  • 短日要求性:
    ソバは開花や成熟に生育段階が変わる際に短日を必要とする植物です。開花成熟に対する短日要求度は品種によって異なり、北海道等の北日本地域の品種は短日要求度が小さく夏期でも秋期でも栽培収穫できます。一方、九州
    等西日本地域の品種は短日要求度が大きく、秋期にしか栽培収穫できません。
  • 穂発芽性:
    ソバは成熟期に降雨に遭遇すると、種子が茎に着生した状態で発芽することがあります。この状態を穂発芽といいます。穂発芽は高温で促進されるので、6月に収穫する春播き栽培では穂発芽しにくい品種の利用が不可欠です。