プレスリリース
早生で食味のよい イチゴ新品種「こいのか」を育成

情報公開日:2008年12月25日 (木曜日)

農研機構 九州沖縄農業研究センターでは、低温・寡日照の気候条件の九州北部山間地域等でのイチゴの安定生産に向けて、早生の良食味で日持ち性に優れたイチゴ新品種「こいのか」を育成しました。本品種は、糖度が高く食味が良いことに加え、朝夕に暗冷蔵庫に入れる「短日夜冷」等の花芽分化促進処理を行わなくても、他品種の出荷量が少なく単価の高い11月から収穫が可能です。
本品種は、長崎県および大分県との共同研究で育成されました。両県における早出し促成栽培の拡大が期待されます。


詳細情報

《背景とねらい》

全国屈指のイチゴ促成栽培産地である九州地域では、新品種の育成や生産技術の開発等によりイチゴ産地の活性化が図られています。しかし、「とよのか」等の良品生産が困難な九州北部山間地域等の低温・寡日照の気候条件下では、安定して栽培できる優良品種はありませんでした。
そこで、九州北部山間地域等の気象条件に適した促成栽培用品種を育成しました。

《成果の内容・特徴》

  • 「こいのか」(図1)は、日持ち性と食味に優れる「さちのか」を母親に、早生性と収量性に優れる「とちおとめ」を父親としています。
  • 草姿は立性で、分枝型の果房形態を有し、果房当たり花数は「とよのか」より多く、「さちのか」よりやや少なめです(図1、表1)。
  • 花芽分化期は、ポット育苗では「とよのか」より早い9月上旬です。開花始期は「とよのか」より10日程度早く、連続出蕾性に優れています(表2、3)。
  • 早生で促成栽培に適しています。花芽分化処理をしない促成栽培での収穫開始期は「とよのか」より20日程度早いです。年内収量は「とよのか」より多く、2月末までの早期収量および4月末までの収量は「とよのか」と同程度以上であり、商品果率も同程度です(表3、4)。
  • 果実は円錐~長円錐形で、大きさは「とよのか」よりやや小さく、「さちのか」と同程度以上です。果皮色は赤色で光沢があり、果肉色は淡燈色~淡赤色です。果実は「とよのか」よりやや硬く、日持ち性に優れています。糖度が高く、糖酸バランスも良く、食味は極めて良好です(図2、表4)。
  • うどんこ病に対しては中程度の抵抗性、疫病に対して強度の抵抗性、炭疽病に対しては罹病性です(表5)。
  • 九州北部山間地域等の低温・寡日照の気候条件下でも安定した栽培が可能です(表6、7)。
  • 品種名称を「こいのか」として、品種登録出願を平成20年8月27日に行いました(品種登録出願番号:第22852号)。

《品種の名前の由来》

いつ食べても甘く、恋の甘さを連想させるイチゴ品種として命名しました。

【参考データ】

表1.「こいのか」の促成栽培における形態特性

表2.「こいのか」の育成地(九沖農研)における花芽分化時期

表3.「こいのか」の促成栽培における早晩性と連続出蕾性

表4.「こいのか」促成栽培における収量及び果実品質

表5.「こいのか」の病害抵抗性

表6.長崎県諫早市の現地試験における「こいのか」の収量

表7.大分県竹田市の現地試験における「こいのか」の収量及び果実品質(2006年)

図1.収穫開始期の「こいのか」

図2.「こいのか」の果実

《イチゴに関する用語説明》

イチゴは通常、日長が短くなり、気温が低下すると休眠を開始し、その過程で花芽を分化させるとともに、次第に休眠を深めていき、休眠は11月頃に最も深く なります。休眠中の株は葉を小さくするなど、不良環境への耐性が強まった状態にありますが、やがて訪れる春に備えて休眠を打破しておく必要があります。こ ういったイチゴの基本的な生理生態である、花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることで、収穫時期や栽培方法が異なる各種作型が開発されています。

促成栽培
イチゴの露地栽培は、4~5月に開花し、収穫期間は5~6月と短期間です。一方、促成栽培は、ハウス内花芽分化と休 眠を人為的にコントロールすることによって、年内11月~翌年5月までの長期間にわたって連続して収穫する作型です。9月に定植し、10月下旬にハウス内 の保温・加温を開始します。宮城県以南の温暖地・暖地に適し、全生産量の90%以上をこの作型が占め、平均収量は3~4 t/10aです。

早出し促成栽培
促成栽培のなかで11月の早い時期から収穫する作型です。出荷量が少なく単価の高い年内に収穫できるイチゴを 確保するため、苗を日中の短時間だけ光にあて、朝夕を暗冷蔵室に入れる「短日夜冷」や日夜連続して暗冷蔵室に入れる「暗黒低温」等の花芽分化促進処理を行 います。花芽分化処理は8月中旬のお盆の頃から9月上旬頃まで行い、花芽分化確認後に定植することで、11月上・中旬から収穫できます。この栽培では最初 に収穫する頂果房(第1果房)と次に収穫する第1次腋果房(第2果房)間の収穫の中休みの拡大が問題となっています。

半促成栽培
半促成栽培は、一度休眠させた後、休眠覚醒途中から保温を行い、2~3月に収穫を開始する作型です。10月に定植 した株は一度休眠状態になりますが、自然低温を経過することにより休眠は打破されます。保温開始時期は寒冷地では12月、温暖地では1月で、収穫期は3 月~6月です。

露地栽培
施設栽培の発達で、現在は非常に少なくなっています。9月中旬~10月上旬に定植し、温暖地の場合、開花期は4月、収穫期は5~6月となり、寒冷地では開花期は5月、収穫期は6~7月です。収穫期間は約1か月です。

炭疽病
イチゴ栽培における最も重大な病害の一つです。6月~9月の育苗期に発生して深刻な苗不足の原因となるばかりでなく、 定植後の本圃においても株の萎凋枯死を引き起こします。現在、育苗期の炭疽病対策として、多回数の薬剤散布に加えて雨除け栽培や底面・ドリップ給水などの 耕種的防除法が開発・導入されていますが、主要栽培品種は本病に罹病性であり、発生すると大きな被害を受ます。

萎黄病
イチゴ栽培において最も重要な土壌病害です。本病は苗伝染と土壌伝染を行います。7月~9月の育苗期と収穫期の2月頃 からハウスで発生し、時には壊滅的な被害を及ぼします。被害株は果実の肥大が悪く、品質は低下し、ひどくなると枯死してしまいます。主要栽培品種には耐病 性品種がないので、クロルピクリンや太陽熱等による土壌消毒に頼っていますが、病原菌は畑、水田のいずれでも長年生存するので、いったん汚染すると根絶す ることが難しい病害です。

うどんこ病
ハウス栽培で特に被害の著しい病害です。植物体表面にクモの巣状のかびを生じ、ついで白粉状物を形成し、発病が激 しくなると、表面全体が白粉状物で覆われます。発病によって株全体が枯死したりすることはありませんが、果実に発生すると商品価値が失われるので、経済的 に大きな被害を受けます。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は農薬に頼っています。

疫病
イチゴ栽培において重要な土壌病害です。育苗期および本圃初期において立枯れや生育不良を引き起こし、安定生産を図るう えで大きな問題となっています。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は育苗期の雨除け栽培、クロルピクリン等による土壌消毒や薬剤施用に頼ってい ます。