《背景とねらい》
イチゴの栽培では、炭疽病、うどんこ病、萎黄病等の発生が大きな問題となっていますが、これまでは生態特性や果実品質を重視した育種が中心であり、安定生産や減農薬栽培のために重要な耐病性の付与については遅れていました。また、イチゴ栽培において総労働時間の5割を占めている収穫調製作業の省力化が可能な品種が求められています。
そこで、九州沖縄農業研究センターでは、重要病害である炭疽病、うどんこ病、萎黄病および疫病に対して抵抗性を有し、大果で果実形状の揃いが良い品種を育成しました。
《成果の内容・特徴》
- 「カレンベリー」(図1)は、萎黄病に強い「はつくに」を母親に、食味が優れ、うどんこ病に強い「てるのか」を父親としています。
- 炭疽病および萎黄病に対しては中程度~やや強程度の抵抗性、うどんこ病および疫病に対しては強度の抵抗性を示します(表1)。
- 草姿は立性で、中間直枝型の果房形態を有し、果房当たりの着果数が少ないため摘果作業が不要です(図1)。
- 果実の大きさと形状の揃いが良いため、パック詰め作業を省力化できます(図2、表2)。
- 果実は円錐~短円錐形で、平均果重が13g以上の大果です。果皮色は橙赤色~赤色で光沢があり、果肉色は淡赤色です。果実は「とよのか」よりやや硬く、糖度と酸度はやや低めですが、食味は良好です(表3)。
- やや晩生のため、半促成栽培および露地栽培に適しています(表3)。
- 品種名称を「カレンベリー」として、品種登録出願を平成20年5月15日に行いました(品種登録出願番号:第22564号)。今秋より、民間種苗会社(株式会社ミヨシ)を通じて販売されています。
《品種の名前の由来》
病気に強く枯れない可憐なイチゴ品種として命名しました。
【参考データ】




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図1 収穫開始期の「カレンベリー」 |

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図2 「カレンベリー」の果実 |
《イチゴに関する用語説明》
イチゴは通常、日長が短くなり、気温が低下すると休眠を開始し、その過程で花芽を分化させるとともに、次第に休眠を深めていき、休眠は11月頃に最も深くなります。休眠中の株は葉を小さくするなど、不良環境への耐性が強まった状態にありますが、やがて訪れる春に備えて休眠を打破しておく必要があります。こういったイチゴの基本的な生理生態である、花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることで、収穫時期や栽培方法が異なる各種作型が開発されています。
促成栽培
イチゴの露地栽培は、4~5月に開花し、収穫期間は5~6月と短期間です。一方、促成栽培は、ハウス内花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることによって、年内11月~翌年5月までの長期間にわたって連続して収穫する作型です。9月に定植し、10月下旬にハウス内の保温・加温を開始します。宮城県以南の温暖地・暖地に適し、全生産量の90%以上をこの作型が占め、平均収量は3~4 t/10aです。
早出し促成栽培
促成栽培のなかで11月の早い時期から収穫する作型です。出荷量が少なく単価の高い年内に収穫できるイチゴを確保するため、苗を日中の短時間だけ光にあて、朝夕を暗冷蔵室に入れる「短日夜冷」や日夜連続して暗冷蔵室に入れる「暗黒低温」等の花芽分化促進処理を行います。花芽分化処理は8月中旬のお盆の頃から9月上旬頃まで行い、花芽分化確認後に定植することで、11月上・中旬から収穫できます。この栽培では最初に収穫する頂果房(第1果房)と次に収穫する第1次腋果房(第2果房)間の収穫の中休みの拡大が問題となっています。
半促成栽培
半促成栽培は、一度休眠させた後、休眠覚醒途中から保温を行い、2~3月に収穫を開始する作型です。10月に定植した株は一度休眠状態になりますが、自然低温を経過することにより休眠は打破されます。保温開始時期は寒冷地では12月、温暖地では1月で、収穫期は3月~6月です。
露地栽培
施設栽培の発達で、現在は非常に少なくなっています。9月中旬~10月上旬に定植し、温暖地の場合、開花期は4月、収穫期は5~6月となり、寒冷地では開花期は5月、収穫期は6~7月です。収穫期間は約1か月です。
炭疽病
イチゴ栽培における最も重大な病害の一つです。6月~9月の育苗期に発生して深刻な苗不足の原因となるばかりでなく、定植後の本圃においても株の萎凋枯死を引き起こします。現在、育苗期の炭疽病対策として、多回数の薬剤散布に加えて雨除け栽培や底面・ドリップ給水などの耕種的防除法が開発・導入されていますが、主要栽培品種は本病に罹病性であり、発生すると大きな被害を受ます。
萎黄病
イチゴ栽培において最も重要な土壌病害です。本病は苗伝染と土壌伝染を行います。7月~9月の育苗期と収穫期の2月頃からハウスで発生し、時には壊滅的な被害を及ぼします。被害株は果実の肥大が悪く、品質は低下し、ひどくなると枯死してしまいます。主要栽培品種には耐病性品種がないので、クロルピクリンや太陽熱等による土壌消毒に頼っていますが、病原菌は畑、水田のいずれでも長年生存するので、いったん汚染すると根絶することが難しい病害です。
うどんこ病
ハウス栽培で特に被害の著しい病害です。植物体表面にクモの巣状のかびを生じ、ついで白粉状物を形成し、発病が激しくなると、表面全体が白粉状物で覆われます。発病によって株全体が枯死したりすることはありませんが、果実に発生すると商品価値が失われるので、経済的に大きな被害を受けます。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は農薬に頼っています。
疫病
イチゴ栽培において重要な土壌病害です。育苗期および本圃初期において立枯れや生育不良を引き起こし、安定生産を図るうえで大きな問題となっています。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は育苗期の雨除け栽培、クロルピクリン等による土壌消毒や薬剤施用に頼っています。