「まきみずほ」
社会的背景と研究の経緯
国際的な飼料の高騰を受けて、国産飼料へのニーズが高まっており、生産調整水田や耕作放棄田において飼料用の稲が生産されています。このうち、子実とわらを合わせて利用する稲WCSは、乳牛・肉牛の飼料として作付けが急増しており、平成20年度は全国で、000ha近く作付けされました。このうち、九州では全国作付けの約半分が集中しています。
そこで、当センターでは低コストで生産できる稲WCS専用の品種を開発してきました。2004年に中生種の「ニシアオバ」を、2006年に晩生種の「タチアオバ」を育成し普及を進めてきました。「タチアオバ」は多収で倒れにくい優良品種として平坦部で普及が進んでいましたが、冬作に麦を作付する二毛作地帯では、麦の播種前に余裕を持って収穫できる早生の稲WCS用品種が求められていました。
研究の内容・意義
- 「まきみずほ(系統名西海飼261号)」は中国146号(ホシアオバ)/北陸168号(クサユタカ)の交配組合せの後代から育成しました(写真1)。育成を開始したのは1999年で育成期間は10年です。
- 普通期栽培(6月下旬移植)では、収穫適期(黄熟期)が9月下旬であり、主食用基幹品種の「ヒノヒカリ」の収穫適期である10月上旬より前に収穫できます(表1)。
- 普通期栽培では、地上部乾物収量は「タチアオバ」より劣りますが、「ヒノヒカリ」より14%多収です(図1)。耐倒伏性も"やや強"で直播栽培による低コスト生産も可能です。推定可消化養分(TDN)含量は56%程度で他の稲WCS用品種と変わりません(表1)。
- 晩植栽培(7月下旬移植)では、収量の低下が少なく、収量を確保しやすい特徴があり、地上部乾物収量は稲WCS用品種「タチアオバ」と比べ6%多収です(図1)。このため、九州で作付けの多いイグサやタバコ跡作での栽培にも適しています。
- 大粒のため主食用品種との識別が容易です(写真2)。
- 2009年5月に種苗法に基づく品種登録を出願しました。命名の由来は、「まきみずほ」の「まき」は、葉が巻き気味に直立する草姿と、牧場(まきば)の両方を表しており、水田を牧場に変える飼料イネ品種の意味です。
今後の予定・期待
多収性・強稈性により低コスト生産が可能なWCS用品種です。普通期栽培における「ヒノヒカリ」との作業分散も可能と考えられます。栽培適地は温暖地~暖地(九州)の平坦部および中山間部です。
福岡県朝倉市及び大川市を中心にWCS用として大規模な試作が行われています。
参考データ

「まきみずほ」の草姿 (福岡県筑後市、九州沖縄農研圃場 2009年10月15日撮影)


「まきみずほ」の地上部乾物収量の比較

「まきみずほ」の籾と玄米 (左:ヒノヒカリ、中央:まきみずほ、右:ホシアオバ)
「モグモグあおば」
社会的背景と研究の経緯
国際的な飼料の高騰を受けて、国産飼料へのニーズが高まっており、生産調整水田や耕作放棄田において飼料用の稲が生産されています。このうち、子実とわらを合わせて利用する稲WCSは、乳牛・肉牛の飼料として作付けが急増しており、平成20年度は全国で9、000ha近く作付けされました。また、子実を豚や鶏の飼料として利用する飼料用米も全国で約1、600ha作付されています。
そこで、当センターでは低コストで生産できて飼料用米と稲発酵粗飼料の両方に使える兼用品種の開発を進めてきました。
研究の内容・意義
- 「モグモグあおば」は中国146号(ホシアオバ)/西海203号(ミズホチカラ)の交配組合せの後代から育成されました(写真1)。育成を開始したのは1999年で育成期間は10年です。
- 稲WCS専用品種の「ニシアオバ」より耐倒伏性が強く(表1)、子実とわらを合わせた地上部乾物収量は早植栽培(5月下旬移植)で「ヒノヒカリ」より28%、「ニシアオバ」より17%、普通期栽培(6月下旬移植)では「ヒノヒカリ」「ニシアオバ」より14%多収です(図1)。推定可消化養分(TDN)含量は他の稲WCS用品種並です。耐倒伏性に優れるため直播栽培による低コスト生産も可能です。
- 普通期栽培(6月下旬移植)で成熟期に収穫した粗玄米収量は多収の主食用品種「ニシホマレ」より33%多収で(表2)、飼料用米(豚や鶏の餌)として利用可能です。また、子実を取った後のわら収量も多いため、わらを飼料として利用する場合も有利です。大粒のため主食用品種との識別が容易です(図3)。
- 2009年5月に種苗法に基づく品種登録を出願しました。命名の由来は牛などの家畜がそのわらや米を「モグモグ」よく食べる飼料用品種の意味です。
今後の予定・期待
多収性、強稈性を生かした低コスト生産に適すると考えられ、飼料用米及び稲WCS用として利用可能です。栽培適地は温暖地~暖地(九州)の平坦部地帯です。
,p>平成21年度から福岡県柳川市及び朝倉市において稲WCS用として大規模な試作を行っており、来年以降の作付け拡大が期待されます。
参考データ
写真1




写真2

「ルリアオバ」
社会的背景と研究の経緯
九州地域、なかでも南九州は全国的に見ても畜産業が盛んな地域で、肉用牛、乳用牛の飼育頭数も多く、この地域での良質な粗飼料への需要は高いものがあります。
一方で水田を活用した自給飼料生産基盤の強化が求められており、水田で自給可能な粗飼料作物として稲WCSの増産が進められています。
九州沖縄農業研究センターでは、台湾の在来品種「Taporuri(タポルリ)」の地上部生育量が大きく、また刈取後の再生が旺盛な特性を利用した稲WCSの2回刈り栽培技術を開発し、普及に移してきました。「Taporuri」は南九州の現地試験において2回刈り栽培により2t/10a近い全乾物収量が実証され、普及が望まれていました。しかしながら、「Taporuri」は脱粒性が「易」であり、収穫時の子実ロスが大きいこと、採種性に劣ることが現場で問題となっていました。そこで、「Taporuri」の脱粒性を改良した2回刈り専用品種の育成を目指しました。
研究の内容・意義
- 「ルリアオバ」は、台湾品種「Taporuri」にγ線を照射し脱粒を起こりにくくする突然変異を起こさせることで育成しました。脱粒しにくい点を除き、品種特性は原品種「Taporuri」とほぼ同じです(写真1)。
- 1回目、2回目栽培ともに草丈は"極長"で(表1)、刈株からの再生力は「Taporuri」並に旺盛です(写真2、3)。1回目と2回目の収穫を合わせた総収量は約2.3t/10aに達し、「Taporuri」並で稲WCS用稲品種「タチアオバ」を10%以上上回ります(図1)。
- 2回刈り栽培における特性も、「Taporuri」とほぼ同じで、これまで開発されてきた「Taporuri」 の2回刈り栽培法がそのまま適用できます。
- 2009年4月に種苗法に基づく品種登録を出願しました。命名の由来は「葉色が瑠璃(るり)のように青く美しい茎葉型飼料イネ品種」の意味です。
今後の予定・期待
ルリアオバの2回刈り栽培の適地は、温暖で稲の生育可能期間の長い九州南部平坦地です。鹿児島県鹿屋地域等において作付けが始まっています。ルリアオバの多収性を生かした栽培により、稲WCSを低コストで大量に生産することができると考えられ、牛の自給飼料基盤強化に役立つものと期待されます。
参考データ
写真1
穂の脱粒性の差(紙に挟んで人力で圧迫) (上:ルリアオバ 下:Taporuri)

図1

写真2

収穫前の1番草
(左:ルリアオバ 右:タチアオバ)
(早期栽培、福岡県筑後市、九州沖縄農研圃場 2009年8月撮影)
写真3

収穫前の2番草(一度収穫された刈り株から再生)
(左:タチアオバ、右:ルリアオバ)
(早期栽培、福岡県筑後市、九州沖縄農研圃場 2009年11月撮影)
図2

ルリアオバの2回刈り栽培歴(5月植えの例)
用語解説
稲発酵粗飼料(稲ホールプロップサイレージ、稲WCS)
子実(もみ)とわら(茎と葉)を同時に刈り取り、発酵させて牛の飼料にする利用形態です。円筒状のロールベールに整形し、フィルムで梱包して発酵・保存するのが一般的で、水田での収穫とロールベール作成を同時に行う専用収穫機が市販されています。
可消化養分総量(Total Digestible Nutrients(TDN))
飼料中の消化・吸収される部分の比率。通常は牛に給与したときの消化率等により計算され、パーセントで表されます。飼料の栄養価の指標として用いられます。
2回刈り栽培
元来はイタリアンライグラスなど牧草で用いられる栽培法です。田植えした稲を穂が出た頃に一度刈り取り、再度水と肥料を与え、刈り株から再生してきた稲をもう一度収穫します。1回目栽培の稲を1番草、2回目栽培の稲を2番草と言います。
関連成果
平成19年度 九州沖縄農業研究成果情報「飼料イネ品種Taporuriの2回刈り乾物多収栽培法」
http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2007/14konarc/konarc07-02.html