プレスリリース
飼料用サトウキビ新品種「しまのうしえ」

- 島の牛のエサ不足解消に新たな味方! -

情報公開日:2011年10月31日 (月曜日)

ポイント

  • 奄美以南向けとしては初の飼料用サトウキビ品種を育成しました。
  • 重要病害の黒穂病に強い抵抗性を示します。
  • 台風や干ばつなどの気象災害に強く、安定的に高い乾物収量が実現できます。

概要

  • 農研機構 九州沖縄農業研究センター【所長 井邊 時雄】は、鹿児島県奄美以南地域の粗飼料増産に貢献する飼料用サトウキビ品種「しまのうしえ」を育成しました。
  • 奄美以南地域の栽培で問題となる、黒穂病に強い抵抗性を示します。
  • 「しまのうしえ」は、南西諸島で広く栽培される牧草ローズグラスの約2倍の乾物収量が得られます。また、トウモロコシやソルガムなど、他の長大型飼料作物に比べて、台風や干ばつなどの気象災害に強く、安定的に栽培できます。
  • 繁殖雌牛の粗飼料としての利用に適していますが、肥育素牛や乳牛への給与も可能です。

関連情報

予算: 運営交付金
品種登録出願番号: 第25824号


詳細情報

開発の社会的背景・経緯

南西諸島における畜産業の基幹である肉用牛の子牛生産では、経営の安定化に向けて、粗飼料生産の低コスト化と増産が喫緊の課題となっています。粗飼料生産としては、多収の長大型飼料作物の導入が挙げられますが、台風や干ばつなどの気象災害の頻発により、南西諸島では安定栽培が難しいという問題がありました。

そこで、九州沖縄農業研究センターでは、茎葉の乾物収量を飛躍的に高めた飼料用サトウキビ品種の開発に取り組み、2006年には、鹿児島県熊毛地域向けに我が国初の飼料用サトウキビ品種「KRFo93-1」を育成しました。飼料用サトウキビは、①乾物収量が高い、②植付けや株の更新の手間が少なく省力的に栽培できる、③台風や干ばつなどの気象災害に強い、④硝酸態窒素の蓄積が少ない、⑤収穫適期幅が長く、刈り遅れによる栄養価の低減が少ない、というメリットがあり、畜産農家の好評を得て、普及が進んでいます。

これまでも奄美以南地域での飼料用サトウキビ栽培の希望が寄せられてきました。しかし、「KRFo93-1」は黒穂病への抵抗性が不十分であることから、黒穂病が発生する奄美以南地域での普及に向けては、より抵抗性に優れる品種の育成が求められていました。

「しまのうしえ」の来歴・特徴

  • 黒穂病抵抗性に優れる製糖用品種「NiF8」を母親、乾物収量が高く、再生草の生産力の高い「KRSp93-26」を父親として、1998年に交配して育成した品種です(図1)。
  • 黒穂病抵抗性は「NiF8」と同程度の"強"であり、「KRFo93-1」よりも優れます(表1、2)。
  • 種子島および徳之島における乾物収量は「KRFo93-1」と同程度で(図2)、年間あたりローズグラスの約2倍の高い収量が得られます。
  • 栄養価を示すIVDMD(インビトロ乾物分解率)は「KRFo93-1」と同程度です(表1)。粗タンパク質はやや低いですが、栄養価はローズグラスなど現行の飼料作物と同程度です。繁殖雌牛の粗飼料としての利用に適しています。

20111101_press001

20111101_press002

20111101_press003

20111101_press004

品種名について

国内で育成したサトウキビは国際的な慣例に従い「Ni+農林認定番号」が用いられてきましたが、本品種については飼料用としての普及が期待されることから、「島の牛のエサ」として広く使われ「島の牛の恵」になるように願って、「しまのうしえ」と命名しました。

今後の予定・期待

現在、鹿児島県奄美地域および沖縄県において、普及に向けた試験栽培を行っています。特に、鹿児島県徳之島町では、生産者、行政が一体となり、「しまのうしえ」を核とした粗飼料増産に取り組んでいます。奄美以南地域において「しまのうしえ」が活用されることにより、粗飼料生産基盤の強化を通して自給率が向上し、牛のエサ不足の解消と畜産経営の高位安定化に繋がるものと期待されます。

用語解説

飼料用サトウキビ
飼料専用のサトウキビで茎葉全体を牛に給与します。飼料用サトウキビは近縁種属植物を利用して、乾物収量や再生草の生産力が高くなるように育種されたものです。このため、糖度は製糖用サトウキビより低く、砂糖生産用としての利用には全く適しません。

再生草
収穫後、地下部に残った芽から再生する株のことです。再生草の生産力が高いと、一度の植付けで多数回の収穫ができるため、植付けや圃場の更新の手間が少なく省力的に栽培ができます。このため、飼料用サトウキビでは再生草の生産力を重視します。再生草栽培のことを、製糖用サトウキビでは株出し栽培と呼びます。

黒穂病
日本のサトウキビ栽培における重要病害で、現在、鹿児島県奄美地域や沖縄県で発生が認められます。罹病した株は、茎の先端部から黒色の鞭状物を出し、鞭状物内の黒穂病菌の胞子を飛散させます。また、一度感染すると再生草も罹病株となります。

さび病類
さび病は葉身に鉄さびが付着したような病徴を示すサトウキビの重要病害です。2種類のさび病菌によって褐色を呈する場合と黄色を呈するものがあり、両者を併せてさび病類としています。

KRFo93-1
九州沖縄農業研究センターが2006年に育成した、我が国で初の飼料用サトウキビ品種です。登録された現行唯一の飼料用サトウキビ品種で、鹿児島県熊毛地域を中心に九州南部でも栽培されています。粗タンパク質はやや低いですが、栄養価はローズグラスなど現行の飼料作物と同程度です。繁殖雌牛の粗飼料としての利用に適しています。黒穂病抵抗性が十分でないことから、鹿児島県奄美地域や沖縄県では普及が推奨されません。

NiF8
九州農業試験場(現 九州沖縄農業研究センター)が1991年に育成した製糖用サトウキビで、南西諸島のサトウキビ生産を支える主力品種です。黒穂病抵抗性に優れ、種子島ではNiF8が広く普及した後は、黒穂病の発生が認められておりません。

ローズグラス
南アフリカ原産のイネ科の暖地型の多年生牧草です。南西諸島では主要な飼料作物として広く栽培されています。

年2回収穫栽培
製糖用サトウキビは年1回収穫を基本に栽培されます。しかし、飼料用サトウキビは生育が旺盛なため、1作の生育期間を短くした年2回収穫で栽培して、倒伏せず直立した状態で収穫できるように栽培します。

IVDMD
インビトロ乾物分解率の略語で、牛の第1胃の胃液を用いた培養法で乾物サンプルの消化のしやすさを測定します。栄養価の指標として良く用いられるTDN(可消化養分総量)と相関関係があるためTDNの簡易な測定法として活用されます。