プレスリリース
葉枯病に強いはとむぎ新品種「とりいずみ」を育成

- 不稔粒(実が入っていない粒)が少ないので良質茶の原料に最適 -

情報公開日:2012年1月18日 (水曜日)

ポイント

  • 暖地で発生が多い葉枯病に強いはとむぎ新品種「とりいずみ」を育成しました。
  • 不稔粒が少ないので良質なお茶の製造に適しています。
  • 熟期が中生で多収なので、関東から九州までの広い地域で栽培できます。

概要

  • 農研機構 九州沖縄農業研究センターは、葉枯病に強くて多収のはとむぎ新品種「とりいずみ」を育成しました。
  • 既存品種「あきしずく」と同じく熟期が中生なので、関東から九州までの広い地域で栽培できます。今年から鳥取県と福岡県で作付けが予定されています。
  • 「あきしずく」と同程度に多収で、しかも葉枯病に対して抵抗性が強いので、同病による不稔粒の発生が少ないのが特徴です。
  • 不稔粒が少ないため製茶時の歩留まりが良く、茶の風味が良好です。

関連情報

予算:運営交付金
種苗法に基づく品種登録出願:第26196号


詳細情報

(開発の社会的)背景

はとむぎは古くから漢方薬として利用されていて、健康食品として広く認識されており、はと麦茶や雑穀米の原料として人気が高く、需要が増加しています。この需要に対応して水田転作作物として栽培面積が拡大していますが、温暖化の進展とともに、主要病害である葉枯病の発生が増加し、関東以西では葉枯病に弱い品種が作付けできなくなりました。さらに最近では東北地域でも発病が認められるようになってきました。
そこで、葉枯病に強くて同病による不稔粒の発生が少ないはとむぎ新品種が求められていました。

(研究の)内容・意義

  • 「とりいずみ」は、韓国から導入された品種と岡山在来の草丈を低くした系統とを交配し、以後選抜を進めて育成された品種です。我が国の主要品種「あきしずく」と姉妹品種にあたります(図1)。
  • 出穂期と成熟期は「あきしずく」より1~2日遅く、中生の品種です(表1)。
  • 草丈は「あきしずく」よりやや高いですが、倒伏に強いです。茎数は「あきしずく」より少ないですが、着粒数が多く、「あきしずく」並みの多収品種です(写真1)。
  • 葉枯病に対しては抵抗性を持ち、既存の品種では最も強く、同病による不稔粒の発生が少ない品種です(表2)。
  • 不稔粒が少ないので製茶時の歩留まりが良く、「あきしずく」並みに茶の風味が良好です(表3)。
  • 鳥取県農林総合研究所における試験でも、「とりいずみ」の多収性と葉枯病抵抗性の長所が認められました(表1、表2)。

図1

表1

写真1

表2

表3

写真3

今後の予定・期待

「とりいずみ」は熟期が中生であることから、関東から九州の地域で栽培が可能です。今年からは鳥取県東部地域で作付けが開始され、最終的には鳥取県の主要品種になる予定で、同県では「とりいずみ」を原料にしてペットボトル茶やお粥などを試作中です(写真3)。また、福岡県久留米市のはとむぎ栽培地域においても普及が進められる予定で、作付けの半分程度が「とりいずみ」に置き換わる予定です。

用語解説

はとむぎ
はとむぎは名称とは異なり麦の仲間ではありません。トウモロコシに近縁なイネ科作物なので、茎や葉の形はトウモロコシに似ています。種子は雫の形をしているので英語ではJob's tears(ヤコブの涙)と呼ばれています。畦などに自生しているジュズダマとは種が同じですが、ジュズダマは種子の殻が非常に固く、デンプンがうるち性であり、一方、はとむぎは殻が柔らかくて剥きやすく、もち性です。

国産はとむぎ
はとむぎは昭和56年頃から水田転作作物として栽培が開始され、千トン程度(平成22年)国内生産されています。栽培は北海道から大分まで広い地域で作付けされています。需要は茶飲料(ペットボトルやティーバッグ)が多く、雑穀米の主要な原料になっています。この他、化粧品、漢方薬(ヨクイニン)などに利用されています。

葉枯病
葉枯病ははとむぎの主要な病害で、ビポラーリス菌によって引き起こされ、種子によって伝染します。成熟期に著しく発生すると株が枯死し、子実に発生すると不稔粒になり、収量が著しく減収します。「はとむすめ」は関東地域以西で広く作付けされていましたが、葉枯病に弱いために現在ではほとんど栽培されていません。