プレスリリース
早期高糖で11月収穫が可能なさとうきび新品種「NiN24」を育成

- 九州沖縄農業研究センター開発品種の紹介 -

情報公開日:2007年10月 3日 (水曜日)

収穫時期を早期化できる沖縄向け新品種「NiN24」を育成しました。
NiN24」は南西諸島地域において従来行われている1~2月の収穫だけでなく、11月収穫でも可製糖量が多いという特徴があります。
本品種により収穫作業ピークの緩和が期待されます。
本品種は、沖縄本島南部において、通常の1月~2月の収穫では、原料茎重が重いため普及品種「NiF8」よりも可製糖量が多くなります。
一方、夏植え型栽培による11月収穫においても、基準糖度(13.1%)を超えることができ、「NiF8」よりも収量が高くなります。
沖縄県が本島南部地域向けの奨励品種に採用する予定で、「NiF8」を置き換え対象に約200haの普及を見込んでいます。
なお、この研究の一部は、農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」により実施したものです。


詳細情報

1.育成のねらい

沖縄本島南部では、さとうきび生産の維持、拡大に向け、従来の1月よりも早い12月下旬からさとうきびの収穫が実施されるようになってきました。
しかし、集中する収穫作業や株出し管理作業の競合を解消し、さとうきびの生産性向上を図るためには、収穫時期の一層の早期化が必要であり、その実現に向けては極早期から糖度が高くなる品種の育成が欠かせません。
そこで、九州沖縄農業研究センターでは、沖縄本島南部地域において、1茎が重く多収で、秋から初冬季の収穫にも対応できる早期高糖性品種の育成を目指しました。

 

2.来歴の概要

「NiN24」(旧系統名:KN91-49)は、「F167」を種子親、「CP57-614」を花粉親として交配し種子を得て、選抜(実生選抜は1991年)、育成した品種です。
選抜においては1茎重と高糖性、早期収穫適性を重視しました。
さとうきび命名の国際的慣例に従い、日本で育成したことを示す「Ni」に、南アフリカ共和国(ナタール州)が交配地であることを示す「N」を加え、日本で命名登録した24番目の育成品種であることを示す「24」を続けて、「NiN24」としました。

 

3.新品種の特徴

分げつ性は「NiF8」よりやや劣り、原料茎数は少ない傾向が見られますが、茎 径が太く、一茎重は重くなります。
沖縄本島南部における1月~2月の収穫では、「NiF8」に比べ1茎が重く、原料茎重が重いため、可製糖量が多くなります。
夏植え型栽培(8月~9月の植付け)による早期収穫では、11月において基準糖度(13.1%)を超えることができ、「NiF8」に比べ、原料茎重も重く、可製糖量が多くなります。
株出し栽培で発病の多い黒穂病に対する抵抗性は“強”です。

 

4.今後の展開(普及の見通し)

沖縄県が本島南部地域を対象に奨励品種として採用予定です。
「NiF8」を置き換え対象に約200haの普及を見込んでいます。

 

参考データ

NiN24keifu.png

 

NiN24tokusei.png

 

NiN24.jpg

図1 NiN24の草姿(左:「NiN24」、右:「NiF8」)

 

NiN24kuki.jpg

図2 脱葉茎(左:「NiN24」、右:「NiF8」)

 

NiNsakugata.png

 

用語解説

サトウキビ:
サトウキビは製糖用の原料作物で、イネ科サトウキビ属(Saccharum)の多年生草本です。
熱帯・亜熱帯地域を中心に世界的に広く栽培されています。
サトウキビ属は現在、次の6種、S. officinarum L.(2n=80,高貴種), S. barberi Jeswiet(2n=82-142), S. sinense Roxb.(2n=118), S. edule Hassk.(2n=74), S. spontaneum L.(2n=40-128), S. robustum Brandes & Jesw. Ex Grassl(2n=60-194)に分類されています。
このうち野生種はS. spontaneum と S. robustumの2種で、残りの4種は栽培種です。
S. spontaneum は熱帯から温帯まで幅広く分布し、一般にサトウキビ野生種と呼ばれており、S. robustumはニューギニアおよびその周辺の島嶼に分布しています。
サトウキビ野生種は南西諸島各地に自生し、日本における分布の北限は茨城県の太平洋沿岸である。
現在、栽培されている製糖用サトウキビ品種のほとんどは、前記の高貴種と、その他1、2種の種間雑種の後代(S. spp. hybrids)です。
現在、サトウキビの世界最大の生産国はブラジルで、次いでインド、中国と続きます。日本では主として種子島以南の南西諸島で栽培され、同地域では基幹作物として位置づけられてきましたが、近年、農業就業者の高齢化、機械化の遅れなどの理由から、生産は減少傾向にあります。
小規模な栽培は九州、中国、四国地方などでも見られるます。
サトウキビの茎は多数の節と節間からなり、各節には芽(芽子)および葉が互生します。
一般の栽培は、芽のついた茎を種苗として用いる栄養繁殖で行われるます。
成熟期には茎の節間内部にショ糖が蓄積され、製糖用として収穫されます。
サトウキビはC4植物で光合成能力が高く、充分な養水分、気温、日照が存在する条件下での栽培においては、草丈は4~5mに達します。
ある程度の生長の後、成熟期となりますが、昼間は充分な日照があり暖かく、夜間は冷涼で、かつ緩やかな水分ストレスがある環境条件がショ糖の蓄積には好適であるとされています。
南西諸島の新植においては、春植え(2、3月頃に植付け、植付け後、最初の収穫期に収穫する方法。在圃期間は約12ヶ月)、と夏植え(8、9月頃に植付け、植付け後、2回目の収穫期に収穫する方法。
在圃期間は約16~18ヶ月)の二つの作型が一般的です。
また、地上部の茎を収穫した後に、土壌中の腋芽を萌芽させ、再生株を仕立てて次の収穫期に収穫する株出し栽培があります。

NiF8(農林8号):
NiF8は日本の南西諸島各地で広く栽培されている代表的なサトウキビ品種です。
本品種は1980年に台湾糖業が「CP57-614」を母本に、「F160」を父本として交配した種子から、九州農業試験場(現:九州沖縄農業研究センター)さとうきび育種研究室が選抜、育成した品種です。
系統名は「KF81-11」で、1991年には鹿児島県の奨励品種として、また1994年には沖縄県の奨励品種として採用されました。
多収で早期高糖、かつ病害抵抗性にも優れているといった理由から、NiF8は南西諸島全域に広く普及し、現在では同地域の主導品種となっており、特に鹿児島県においては作付け面積の約70%弱がNiF8によって占められています。
そのため、品種の偏りによる弊害を防ぐ意味からも、NiF 8に代わる新たな優良品種育成への期待が高まっています。

夏植え型栽培(夏植え型秋収穫栽培):
慣行の収穫時期よりも気温の高い秋(10月~11月)に収穫することにより、株出しの萌芽を改善し、それにより収量の向上、安定化を図り、同時に収穫時期の早期化を狙う新しい栽培法です。
夏植えに準じ、8月~9月に植付けます。
既存の品種では収穫時の甘蔗糖度が低い年もあり、これまでのところ実用化には至っていません。

早期高糖性:
サトウキビは通常1月頃に収穫に適する高い糖度(蔗糖含量)に達します。
11月や12月などのより早い時期から高い糖度となる特性を表します。

ブリックス:
搾汁液中の可溶性固形分の重量百分率で、一般的にブリックスは蔗汁糖度および可製糖率と高い相関があります。

蔗汁糖度:
搾汁液中の蔗糖の重量百分率です。

純糖率:
搾汁液中の可溶性固形物に対する蔗糖の重量百分率で、成熟程度の指標としても用いられる。

甘蔗糖度:
茎の中に含まれる蔗糖の重量百分率で、我が国の品質取引制度の基準となっています。

可製糖率:
原料茎に対する計算上回収可能な蔗糖の重量百分率です。

可製糖量:
単位面積当たりの産糖量(蔗糖生産量)で、蔗茎収量と可製糖率の相乗積で表されます。