プレスリリース
9月下旬播種でも年内の出穂程度が高く収量が確保できる耐倒伏性エンバク新品種「九州14号」を育成

- 九州沖縄農業研究センター開発品種の紹介 -

情報公開日:2007年10月 3日 (水曜日)

  9月上旬の播種が遅れた場合でも既存品種より安定して出穂し、収量性が確保できる「九州14号」を育成しました。
「九州14号」は既存品種より早く出穂し、九州の低標高地で9月下旬に播種しても既存品種より出穂程度が高くなります。
乾物収量は、9月下旬に播種した場合や秋播き栽培(11月播種・翌春収穫)では既存品種より多収となり、9月前半に播種した場合は既存品種と同程度です。
倒伏程度も既存品種より小さく、冠さび病抵抗性は「極強」で、各種病害には既存品種と同程度の抵抗性を示します。エンバク「九州14号」は、飼料用トウモロコシや早期水稲の後作や普通期水稲の後作として、自給飼料の安定生産に貢献できると期待されます。
  なお、この研究の一部は、農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」「ジーンバンク事業」により実施したものです


詳細情報

1.育成のねらい

エンバク極早生品種を用いる夏播き栽培は年内に出穂させて収穫する作付けで、その播種適期は9月上旬とされています。
しかし、エンバクの播種作業は、天候や各種作業の影響で遅れることが多く、既存品種では年内の出穂が不安定で、出穂に至らず低収となる場合があり、播種が遅れてもより安定して出穂し、収量性が確保できる品種が求められています。
九州沖縄農業研究センターでは、既存品種より出穂が早く、九州の低標高地で9月下旬に播種しても年内の出穂程度が高い多収品種として「九州14号」を育成しました。

 

2.来歴の概要

「九州14号」は、極早生、耐倒伏性、冠さび病抵抗性を育種目標として、1994年に夏播き栽培で安定して出穂する「九州1号」を種子親、耐倒伏性や冠さび病抵抗性に優れるCoker 87-9(アメリカの品種)を花粉親として交配し、選抜して育成した品種です。

 

3.新品種の特徴

  • 夏播き栽培での出穂は、既存品種の中で最も早い「はえいぶき」や「スーパーハヤテ隼」よりさらに早い極早生品種です。
    9月下旬に播種するとその違いがはっきりします。
  • 耐倒伏性に優れ、「はえいぶき」や「スーパーハヤテ隼」より倒伏しにくい品種です。
  • 夏播き栽培(標準播き)での乾物収量は「はえいぶき」比97%ですが、9月下旬に播種した場合は「はえいぶき」比108%です。
    また、秋播き栽培(西南暖地で11月播種、翌春に乳熟-糊熟期刈り)では「はえいぶき」比108%の多収です。
  • 重要病害である冠さび病に対する抵抗性は「極強」で、各種病害には既存品種と同程度の抵抗性を示します。
  • 飼料品質は既存品種と同程度です。

4.今後の展開(普及の見通し)

熊本県、宮崎県、鹿児島県での試験栽培が予定されています。
民間会社等からの許諾申請に応じて普及することになります。
耐倒伏性が極めて強い特長を生かして、飼料生産支援組織への導入やグレイン生産も視野に入れた普及活動を展開したいと考えています。

 

参考データ

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図1 エンバク「九州14号」の耐倒伏性
倒伏程度は評点で、1:倒伏無し~9:甚。

 

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図2 エンバク「九州14号」の収量性

 

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写真1 出穂程度の差(2005年9月20日播種、12月16日撮影、九沖農研)
左:「スーパーハヤテ隼」、右:「九州14号」

 

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写真2 エンバク「九州14号」の収量性

 

用語解説

エンバク:
飼料作物としては、短期に多収が期待できることがことが特徴で、暖地の冬作ではイタリアンライグラスに次いで重要です。
青刈り・ホールクロップ利用の栽培が九州地域を中心に全国で6,950haあります。

夏播き栽培:
薄エンバクを8月下旬から9月上旬に播種し、年内に出穂させて収穫する、比較的新しい栽培法です。暖地の周年高位生産の中で、晩秋から冬季の飼料の端境期に良質粗飼料を確保することが可能な体系です。

冠さび病:
重要病害で、冠さび病の罹病が家畜の嗜好性を低下させることが知られています。
エンバクの栽培では病害防除を目的とした農薬は使用されませんので、耐病性に優れる品種が必要です。

TDN:
飼料の栄養価の指標で、可消化養分総量(Total Digestible Nutrients; TDN)です。飼料において、家畜に消化されて栄養として利用できる養分量を表し、その値が高いほど栄養価が高い飼料と判断されます。