九州沖縄農業研究センターでは、19年度にベトナム植物保護研究所とトビイロウンカ等のウンカ類の防除に関する国際共同研究を実施します。
ウンカ類のなかには、トビイロウンカのように、冬季にも生息が可能な中国南部やベトナムから、梅雨時期に長距離飛来し、西日本を中心に大きな被害をもたらすものがあります。
近年、日本では農薬による防除対策をしているにもかかわらずウンカ類による大きな被害が頻発していますが、その原因として、飛来元であるベトナムでウンカ類に対する農薬の使用量が増大し、そのため農薬が効きにくい薬剤抵抗性のウンカ類が蔓延している可能性などが考えられます。
そのため、九州沖縄農業研究センターでは、ベトナムの植物保護研究所と、ウンカ類に抵抗性を持つ水稲品種やウンカ類の各種殺虫剤に対する抵抗性、ベトナムにおけるウンカ類の発生推移等に関する共同研究を行うことになりました。
また、本事業では、ベトナムにおける発生状況のデータをリアルタイムで活用可能にする情報ネットワーク構築を目指します。
なお、この研究は農林水産省の委託事業「食と農の安全確保のための多国間研究交流ネットワーク事業」により実施するものです。
プレスリリース
九州沖縄農研がベトナムと国際共同研究を開始
- 水稲の重要害虫トビイロウンカの防除 -
情報公開日:2007年7月 2日 (月曜日)
詳細情報
研究の背景
日本の稲作に大きな被害をもたらすウンカ類の中で、トビイロウンカ、セジロウンカなどは、中国南部やベトナムで越冬し、揚子江下流などに移動して増殖した後、梅雨時期に西日本に飛来します(ヒメトビウンカなど他のウンカ類は国内で越冬するものもあります)。
日本では農薬による防除対策をしているにもかかわらず、平成17年には、九州を中心にトビイロウンカが大発生し、水稲の作況指数が94と大きく低下する一因となりました。
防除対策をしているにもかかわらず、このように大きな被害が発生した原因として、日本に飛来するイネウンカが最初に増殖する地域(一次飛来源)であるベトナムで、ウンカ類を対象に農薬が多用されてきたため、それらの農薬が効きにくくなる薬剤抵抗性の発達やそれに伴うウンカ類が増殖している可能性が指摘されています。
しかし、ベトナムでは、薬剤抵抗性の検定などがほとんどされていないため詳しいことは不明です。
本プロジェクトの目的及び取り組み内容
日本や東アジア地域における稲作の安定生産のためには、ウンカ類の飛来源における薬剤抵抗性発達の状況や密度変動を把握することが不可欠であることから、日本とベトナムで国際共同研究を行うこととなりました。
この国際共同研究を通じて、ベトナムにおける薬剤抵抗性などの情報を迅速かつリアルタイムに把握することが可能となります。
これによって、日本だけでなく東アジア地域の稲作の安定化に大きく寄与することが期待できます。
主な取り組みは、以下の通りです。
- ベトナム各地で採集したウンカ類の特性に関する研究として、ウンカ類に抵抗性の遺伝子をもつ水稲品種への加害性、また、各種殺虫剤に対する抵抗性を検定します。
- ベトナムにおけるウンカ類の研究を支援するため、飼育増殖技術および薬剤抵抗性検定技術の研修を実施します。
- 日本、中国など東アジア地域に飛来するウンカ類の発生源であるベトナム北部におけるイネウンカ類の発生推移などの生態を解明するための圃場調査やトラップ調査を共同で実施します。
- また、これら発生状況のデータをリアルタイムで活用可能にする情報ネットワークを構築します。
- ベトナム、中国、東南アジア諸国等から研究者を招聘し、12月(日程未定)に熊本市において、イネウンカ類の発生予察に関する国際ワークショップを開催します。
- 研究期間 平成19年度、予算(農林水産省委託費) 11百万円。
共同研究機関
日本:九州沖縄農業研究センター(難防除害虫研究チーム)
ベトナム:ベトナム植物保護研究所(ハノイ)
写真 左:トビイロウンカ(体長 約5mm)
右:トビイロウンカによる水稲の坪枯れ被害(平成17年9月 福岡県)
用語解説
イネウンカ類の長距離移動:
トビイロウンカとセジロウンカは、ベトナム北部や中国最南端部が越冬できる北限です。
これらの地域で冬を越したウンカは、4~5月にまずベトナム北部から中国南部の二期作水稲地帯に季節風に乗って長距離移動します。
広東省や福建省など中国南部の水田で1~2世代増殖したウンカは、6月下旬から7月中旬にかけて、梅雨前線に沿って発達するジェット気流に乗って毎年日本に飛来します。
日本に飛来したウンカは水田で2~3世代増殖し、トビイロウンカは秋に坪枯れと呼ばれる大きな被害をもたらします。
中国大陸から日本への飛来については、昭和58年から平成4年にかけて、九州沖縄農業研究センターの前身の九州農業試験場などで研究を行い確認しました。
この研究成果は、現在の病害虫発生予察事業に活かされ、的確な農薬の種類や散布時期に関する情報として防除に役立っています。