プレスリリース
赤かび病に強く品質の優れる日本めん用小麦新品種「トワイズミ」を育成

- 九州沖縄農業研究センター開発品種 -

情報公開日:2007年1月26日 (金曜日)

新品種名

「トワイズミ」(小麦農林167号)
-赤かび病に強く品質の優れる日本めん用小麦新品種-


詳細情報

育成のねらい

九州の小麦は成熟期が高温多雨であることから赤かび病の発生が常に懸念されています。また、農林61号、チクゴイズミ等の国内産日本めん用小麦はASWに比べると製粉適性等が劣るとの指摘も受けており、実需者からは改善を求められています。
このような背景のもと、赤かび病に強く、製粉適性等に優れる日本めん用の小麦品種を育成しました。

来歴の概要

1991年度(1992年4月)、九州農業試験場(現九州沖縄農業研究センター、福岡県筑後市)において、西海171号(後のチクゴイズミ)を母とし、赤かび病抵抗性の赤かび系PL106(蘇麦3号×アサカゼコムギ)を父として、交配を行い、赤かび病抵抗性、多収、高製粉性、良粉色を目指して選抜・育成を行いました。
「トワイズミ」という品種名は、未来永劫に湧き出る泉のように収穫できようにと願って命名されたものです。

新品種の特徴

農林61号・チクゴイズミと比較して

  • 出穂期は農林61号より3日早く、チクゴイズミより2日遅い。成熟期は農林61号より3日早く、チクイズミより1日遅い。
  • 稈長は農林61号より11cm、チクゴイズミより3cm短い。穂長は農林61号・チクゴイズミより長い。
  • 収量は農林61号よりやや多く、チクゴイズミと同程度です。原粒の見かけの品質は農林61号より優れ、チクゴイズミと同程度。
  • 赤かび病に対する抵抗性は農林61号の「中」、チクゴイズミの「やや弱」より強い「やや強」で、赤かび病の発生は少ない。
  • 製粉歩留と粉の明度は農林61号・チクゴイズミより高い。
  • アミロース含量は農林61号よりやや低く、チクゴイズミよりやや高い「やや低」。
    めんの粘弾性はチクゴイズミと同程度に優れる。

今後の展開(普及の見通し)

温暖地以西の平坦地、中間地に適した品種です。現在は福岡県がチクゴイズミ等に換わる品種として、有望視しています。
今後は、実需者の工場製粉での品質評価をもとに、普及拡大を図ります。

※ 「トワイズミ」は、農林水産省委託プロジェクト「新鮮でおいしい「ブランドニッポン」農産物提供のための総合研究」の成果です。
現在、種苗法に基づく品種登録を出願中です。

問い合わせ先(育成機関)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター
筑後水田作研究拠点 小麦・大麦育種ユニット 担当者:小田俊介
電話:0942-52-0664(直通)

参考データ

「トワイズミ」の系譜図
towaizumi1.png

特 性 トワイズミ 農林61号 チクゴイズミ ASW(参考)
出穂期(月.日) 4.10 4.13 4.08
成熟期(月.日) 5.26 5.29 5.25
稈長(cm) 82 93 85
穂長(cm) 9.9 9.3 9.2
子実重(kg/a) 48.5 45.6 48.8
原粒の見かけの品質 3.2 4.5 3.1
赤かび病抵抗性 やや強
うどんこ病抵抗性 やや弱 やや弱
製粉歩留 72.8 71.5 72.2 73.5
粉の明度(L*) 88.3 87.9 87.6 88.3
アミロース含量(%) 27.9 30.5 25.5 27.3
ゆで麺の色(20) 14.5 14.1 14.0 15.9
ゆで麺の粘弾性(25) 18.6 18.0 18.7 18.6

























原粒の見かけの品質:1(上上)~5(中中)~9(下下)
ASWは総合食料局から無償譲与されたサンプルを使用
粉の明度(L*):色彩色差計での測定値で、色の明るさを示し高い方が良い。
ゆで麺の色、粘弾性の()内の数字は官能試験での満点を示す。



「トワイズミ」の穂と殻粒
towaizumi3.png

用語解説

赤かび病:
麦類の赤かび病は、穂に発生し、穂の全部または一部が褐変する病害で、穂の登熟不良・減収を引き起こすばかりでなく、ヒトへの健康被害が指摘されているかび毒を産出する場合があります。
発生の年次変動が大きく、発生予測が難しい病害です。開花期以降の平均気温が摂氏18度以上で、降雨が続くと発生が大きくなります。
赤かび病の原因となるかびはフザリウムという種類で、デオキシニバレノール(DON)というかび毒を作ります。
デオキシニバレノールの健康に対する影響については、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会での審議を踏まえ、平成14年5月に小麦の一層の安全性を確保するため、行政上の指導指針として、小麦に含まれるデオキシニバレノールについての暫定的な基準値(1.1ppm)が設定されており、麦の育種においても、赤かび病に罹りづらい品種の育成が重要な課題となっています。

めん用小麦:
小麦粉の種類は蛋白質含量に応じて、高いものから順に強力粉(蛋白質含量12.5-14%)、準強力粉(同10-12.5%)、中力粉(同8-10%)、薄力粉(同6-8%)に分類されます。
強力粉は主にパン、準強力粉は菓子パンや中華麺、中力粉は日本麺、薄力粉はカステラ、ビスケットなどに一般的に使用されています。
したがって、めん用小麦とは、日本麺に適した中力粉がとれる小麦をいいます。
日本の小麦はほとんどがめん用ですが、温暖多雨のアジアモンスーンで栽培されるため、世界的に見ても、早生・多収(梅雨前に収穫可能)、赤かび病や穂発芽などの雨害耐性に関する品種の改良が先進的に行われています。

製粉特性:
製粉業者が小麦粒を製粉する時の特性を意味し、単に製粉歩留だけでなく、良質な小麦粉を効率的に得ることが望まれます。
実験室レベルではビューラー式テストミルやブラベンダー式小型テストミルなどの小型の製粉機で特性値を測定しますが、本品種では更に実際の工場の製粉工程での評価を受けることとしています。

ASW:
Australian Standard White(オーストラリア スタンダード ホワイト)の略称です。
オーストラリアで生産される小麦銘柄で、単一品種ではなく、一定の品質基準を満たし、他の銘柄に格付けされなかった白小麦(種皮の色の白い小麦)を集めたものです。
日本めん用粉の原料として高い評価を受けています。

アミロース:
澱粉はブドウ糖がつながってできた炭水化物ですが、つながり方により、1直線につながったアミロースと、枝分かれしたアミロペクチンの2種類に分けられます。
お米でいえば、アミロースが多いと、ぱさぱさとしたピラフ用の米、少ないと「コシヒカリ」の ように、粘りがでて、アミロースが無くなるともち米になります。
コムギでは、アミロース含量が低い場合、うどんの粘弾性にモチモチ感がでて、食感が向上します。

うどんこ病:
うどんこ病はウドンコカビ科の糸状菌による植物病害の総称です。ブドウ、麦類(小麦、大麦)、野菜などの重要な病害です。
葉や茎が小麦粉をまぶしたように白くなる症状が特徴です。