育成のねらい
ソバは、短い雌しべと長い雄しべを持つ個体(短花柱花)と長い雌しべと短い雄しべを持つ個体(長花柱花)が混在し、同型花個体間では受精しない他殖性植物に属する。ソバの栽培畑にそれぞれの花型個体が1:1の割合で存在するとすると、個体にとっての交配可能な相手は個体群の半分の数しか存在しないことになり、交配の効率が低くなる。また、ソバは虫媒によって受精が行われるので、ソバ品種を維持しようとすると自然交雑によって他の品種と混ざる危険が大きく、これを防止するために隔離栽培が行われている。このようなソバの他殖性の欠点を改善するために、自殖性をソバへ導入する品種育成を実施してきた。
来歴の概要
「そば中間母本農1号」は、早生品種の「牡丹そば」を母親にして、ソバの近縁野生種で自殖性の「Fagopyrum homotropicum」を花粉親にして1998年に交配し、幼胚を人工培地で培養して種間雑種を作出した。以降、自殖性について選抜を繰り返した。さらに、2001年雑種第4世代目に「牡丹そば」を交配し、以降自殖性と脱粒性などについて選抜した。
2005年諸特性が固定したことが確認されたので「九州PL4号」と番号をつけて選抜を完了した(図1)。
新中間母本の特徴
- 生殖様式は自殖性であり、雌しべと雄しべの長さがともに長くて等しい花型を持つ(図2)。
自殖性は1遺伝子によって支配されているので、交配後は花型を目印にして自殖性を選抜することができる。 - ソバの長花柱花個体を母本に、「そば中間母本農1号」を父本(花粉親)にして交配したF1はすべての遺伝子型がShsとなり、雌しべと雄しべの長さがともに長くて等しい花型を持つ自殖性を示す。
- 近縁野生種F. homotropicumは成熟が進むと果柄と子実の基部に離層が形成されて種子が落下する(脱粒性)。
「そば中間母本農1号」は野生種由来の脱粒性を排除してあるので、ソバと交配しても脱粒は生じない。 - 生育は他品種と比較すると旺盛でない(このため、中間母本とした)。茎も弱く、倒伏しやすい(表1)。
今後の展開(普及の見通し)
「そば中間母本農1号」はF. homotropicumに普通ソバを2回交配しただけで、まだ野生種の遺伝的背景がかなり残存していると考えられる。「そば中間母本農1号」を用いて普通ソバの多様な品種と交配選抜を実施することにより、生育の改良が期待できるので、自殖性の実用品種を育成するために、生育を旺盛にする改良と、結実率(結実数/開花数)を高める改良を行っていく。
問い合わせ先(育成機関)
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター
ソバ育種ユニット 担当者:手塚 隆久、電話:096-242-7636