プレスリリース
かび毒の暫定基準をクリアする赤かび病防除体系の確立

- 安全な国産小麦を生産するために -

情報公開日:2006年6月15日 (木曜日)

研究の背景

小麦が実る5~6月に雨の多い我が国では、赤かび病は重要な病害です。赤かび病が多発した平成10年の被害金額は全国で約22億円と見積もられています。さらに赤かび病の病原菌が作る「かび毒」による穀粒汚染が深刻な問題となっています。現状のかび毒汚染対策としては、小麦の開花期以降に農薬を複数回散布する方法が取られていますが、穀粒への残留を避けるために収穫期近くでは農薬を使用できないことから、防除技術として十分な効果を上げているとは言えません。
このような背景から、赤かび病に強い新品種の開発や新しい殺菌剤の利用により、農薬散布回数が少ない新しい防除体系を開発することとしました。

 

先端技術を活用した農林水産研究高度化事業での取り組み

本研究では小麦の主産地である九州および北海道においてそれぞれ公立農業試験場と連携をとりながら研究を推進し、地域の要望に根ざした防除技術を開発することとします。主な取り組みの内容は以下の通りです。

  • 小麦品種の中では赤かび病に最も強い九州の既存品種をさらに改良し、かび毒の蓄積が少ないめん用小麦新品種を世界に先駆けて開発するとともに、生産現場でかび毒蓄積量の低減効果を実証します。
  • 多発要因である降雨などの気象条件とかび毒蓄積との関係を明らかにし、気象条件に応じた薬剤防除技術を開発します。
  • 登録申請中の新しい殺菌剤を有効に活用して、使用量が少なく、しかもかび毒低減効果の高い防除技術を開発します。
  • 以上の技術を組み合わせて、赤かび病の多発年でもかび毒を暫定基準値以下に押さえ、通常の発生量の年では農薬の使用量を半減する防除体系の確立をめざします。
  • 研究期間 平成18年度~平成21年度、18年度予算 17百万円

 

研究分担関係

九州沖縄農業研究センター(赤かび病研究チーム、小麦・大麦育種ユニット)

福岡県(福岡県総合農業試験場)

北海道(北海道立中央農業試験場、北見農業試験場、十勝農業試験場)

 


詳細情報

参考データ

karc-press-06-06-15-1写真1 小麦赤かび病の被害にあった穂

 

karc-press-06-06-15-2写真2 小麦赤かび病の被害にあった粒

 

karc-press-06-06-15-3赤かび病菌が作るかび毒

 

用語解説

赤かび病:
麦類の赤かび病は、穂の登熟不良・減収を引き起こすばかりでなく、かび毒(マイコトキシン)を生産します。穂に発生し、穂の全部または一部が褐変します。発生の年次変動が大きく、発生予測が難しい病害です。開花期以降の平均気温が摂氏18度以上で、降雨が続くと発生が大きくなります。
赤かび病の原因となるかびはフザリウムという種類で、デオキシニバレノール(DON)という毒素を作ります。デオキシニバレノールの健康に対する影響については、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会での審議を踏まえ、平成14年5月に小麦の一層の安全性を確保するため、行政上の指導指針として、小麦に含まれるデオキシニバレノールについての暫定的な基準値(1.1ppm)が設定されました。
デオキシニバレノールを高濃度に含む食品を食べると、吐き気、嘔吐、腹痛、めまい、下痢、頭痛等の症状を伴う中毒症(急性毒性)を引き起こします。

めん用小麦:
小麦粉の種類は蛋白質含量に応じて、高いものから順に強力粉(蛋白質含量12.5-14%)、準強力粉(同10-12.5%)、中力粉(同8-10%)、薄力粉(同6-8%)に分類されます。強力粉は主にパン、準強力粉は菓子パンや中華麺、中力粉は日本麺、薄力粉はカステラ、ビスケットなどに一般的に使用されています。したがって、めん用小麦とは、日本麺に適した中力粉がとれる小麦をいいます。
日本の小麦はほとんどがめん用で、温暖多雨のアジアモンスーンで栽培されるため、世界的に見ても早生・多収(梅雨前に収穫可能)、赤かび病や穂発芽などの雨害耐性の改良が最も進んだ品種です。