背景・ねらい
通常、畑作物を栽培する際には作物が吸収する以上の窒素を施します。サツマイモは昔からやせ地でもよく育つ作物として知られ、窒素吸収量が施肥量よりもはるかに多く地力消耗型の作物と思われていました(図1)。近年、15N(重窒素)自然存在比の測定によりサツマイモにおける空中窒素固定が示され、その窒素固定能力の評価が進んでいます。もし、サツマイモがマメ科作物同様に空中窒素固定をしているとすれば、植物体内に窒素固定細菌が存在するはずです。そこで、サツマイモの茎部より内生窒素固定細菌を分離しその生息を確認するとともに、窒素吸収量に対する固定窒素の推定寄与率を求めました。
成果の内容・特徴
- サツマイモの茎部より内生窒素固定細菌Klebsiella oxytocaを種レベルで分離同定することに国内で初めて成功しました。
- Klebsiella oxytocaは極めて生育の早い細菌で、窒素固定能を有していて、培地中に窒素のない条件でも良好に生育することができます(写真)。
- 「切片培養法-アセチレン還元法」によりサツマイモの茎の内部に窒素固定細菌が生息しているかどうかについて調べると、確かに茎部に内生窒素固定細菌が生息していることがわかります(図2)。
- 当センター畑作研究部(都城)圃場にて栽培されたサツマイモ(12品種・3年間)について重窒素自然存在比を分析したところ、空中窒素固定をしていることがわかりました。塊根における推定窒素固定寄与率の最大値は、約30%でした(図3)。
- 以上の成果の一部は、4月上旬に名城大学で開催される日本土壌肥料学会で発表する予定です。
今後の展開
サツマイモの内生窒素固定細菌の研究は世界的に見ても極めて研究例が少ないため、その研究は緒に付いた段階です。そのため、今後解明すべき多くの課題が残されています。
- 高窒素固定能を持つ内生細菌の分離を進めます。
- 生息部位の特定や窒素固定活性の時期的変動を明らかにします。
- 窒素固定がどのような条件とメカニズムで窒素供給に貢献しているかを明らかにします。
- サツマイモにおける窒素固定能の向上や非マメ科作物への窒素固定能の付与を図り、窒素施肥量の削減を目指します。
図1 畑作物の窒素収支
写真.サツマイモから分離した内生窒素固定細菌Klebsiella oxytoca(バーの長さ10µm)
図2 切片培養法によるアセチレン還元活性
図3 サツマイモにおける窒素固定の推定寄与率