プレスリリース
DNAによるイグサ品種「ひのみどり」の鑑定技術の開発

情報公開日:2002年4月22日 (月曜日)

要旨

(独)農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター、熊本県農業研究センターい業研究所、(独)農業生物資源研究所は、農林水産省行政当局の要請に応じ、平成13年度からDNAによる品種識別技術の確立を目指し、共同で技術開発を進めてきた。畳表に使われているイグサは、国内で十数品種あるが、形態的特徴からの品種識別はこれまで困難であった。今回、これら栽培品種の中でも高級畳表の原材料「ひのみどり」(登録品種)のDNAによる鑑定技術を確立した。

ポイント

  1. イグサ栽培品種(十数品種)から「ひのみどり」を鑑定する技術を確立した。
  2. 2種類のDNAマーカーによって確実な判定ができる。
  3. 製品の品種表示の適正化と登録品種の権利保護が可能になる。

背景・ねらい

近年、ネギ・畳表等の農産物の輸入が急増し、国内生産への回復し難い損害が予想されたことから、平成13年4月23日にセーフガードが暫定発動された。このような状況下、農林水産省のもとで行政対応特別研究プロジェクトが発足し、畳表の原料であるイグサに関しては、国内で育成された高品質品種の不正な流出を防止し、国産品の優位性を確保するため、品種識別技術の確立を目的に、平成13年度から3年間の計画で研究がスタートした。
イグサは、品種間の遺伝的な変異が小さいと推定され、イグサで品種識別技術が開発されれば、これをモデルケースにして他の農産物にも容易に技術移転ができる。

成果の内容・特徴

イグサの栽培品種17品種の中で、「ひのみどり」を鑑定するDNAマーカーを開発し、2件の特許出願を行った。「ひのみどり」は主に熊本県で生産される高級畳表『ひのさらさ』の原材料で、種苗法登録品種となっている。
特許の一つは、DNAの特定塩基配列(DNAマーカー)で、平成13年12月21日に、(独)農業生物資源研究所、(独)農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター、熊本県農業研究センターい業研究所の3者共同で特許出願した。この方法は、イグサDNAを制限酵素で切断して電気泳動を行い、DNA断片の長さの違いを検出するもので、制限酵素切断部位の変異もしくは制限酵素切断部位間のDNA挿入・欠失変異を検出できる。イグサ17品種のうち、16品種で見つかったDNAマーカーを「ひのみどり」だけが持っていなかった。
もう一つは、特定のDNA配列間を増幅した場合に品種間に差が現れるDNAマーカーで、平成14年3月15日に(独)農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター、熊本県農業研究センターい業研究所の2者共同で特許出願した。この方法は、DNAのある特定配列間をポリメラーゼで増幅して電気泳動を行い、DNA断片の長さの違いを検出するもので、増幅のための鋳型配列(プライマー)に対応する部位のDNA変異もしくは対応部位間のDNA挿入・欠失変異を検出できる。分析したイグサ12品種のうち、11品種でみつかったDNAマーカーを「ひのみどり」だけが持っていなかった。
上記の異なる手法を組み合わせて、二重に品種確認を行うことによって、品種「ひのみどり」を的確に鑑定することが可能になった。
今回の技術開発は、種苗法登録品種の権利保護に向けたDNAによる品種識別実用化への重要な第一歩である。

今後の展開

今回は、生材料での鑑定技術が確立され、栽培現場での適切な品種管理に直ちに適用できる。現在、乾燥材料(畳表製品)での実用的な品種鑑定技術の開発を行っているところである。また、製品の適切な品種表示のため、種苗法で権利が保護されている品種を含め、現在栽培されている全品種の識別を目指しており、今後新たに登録される品種についてもDNAによる鑑定を行っていく予定である。

行政対応特別研究プロジェクト:「微量元素分析及び分子マーカーの利用による農産物の品種・原産地判別手法の開発」

第1図 RAPD法による「ひのみどり」を識別するDNAマーカー(資料:熊本県農業研究センターい業研究所提供)(資料:熊本県農業研究センターい業研究所提供)