プレスリリース
バイオマスの多段階ガス化/コ・ジェネレーションシステム試験装置「農林バイオマス2号機」の開発

情報公開日:2003年3月14日 (金曜日)

概要

九州では、畜産からの家畜ふん尿や食品産業からの食品残さなどについて、未利用のまま処理されているものが多く、リサイクル処理が急務となっています。
そこで、農林水産省のプロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」の中で、(独)農業技術研究機構九州沖縄農業研究センターと民間企業(株式会社中国メンテナンス、株式会社御池鐵工所)の共同研究により、これらの地域のバイオマス資源を組み合わせ、「エネルギー」と「マテリアル」(飼料・肥料)を生み出す『多段階ガス化/コ・ジェネレーションシステム』の実証プラントを開発し、本年3月19日から(独)農業技術研究機構九州沖縄農業研究センターにおいて稼働を開始します。この実証プラントは実規模の1/10程度ですが、これが実用化された場合には家庭300世帯分の電力供給などが可能となります。
昨年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されましたが、このシステムが実用化されれば、地域における資源循環システムの形成や環境問題の軽減とともに、バイオマスエネルギーの利用による化石資源の節約、ひいては地球温暖化防止に資することが期待されます。

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技術の特徴

本システムは、家畜ふん尿をガス化して高効率な発電を行うとともに、廃熱を用いた食品残さの乾燥処理により飼料を生産したり、焼却灰をリン酸肥料として利用するなど、バイオマスを総合的に有効利用するシステムとなっています。
特に、バイオマスエネルギー源として利用する家畜ふん尿は水分が多く、その焼却によって生じるタール分やアンモニアなどがエンジンや環境に悪影響を与えるため、これらを各工程で回収し、極力システム外へ出さないクリーンな設計としました。

1.システム構成

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  • 1)前処理
  • 家畜ふん尿などのバイオマスは発酵乾燥や太陽熱乾燥、炭化廃熱による乾燥処理を行い、バイオマス中の水分やアンモニアを減少させます。ここで発生するアンモニアは、(2)の炭化処理で生じる排気ガスとともに脱臭処理がなされ、窒素肥料として利用できます。
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      • 2)炭化
      • 約摂氏350度の常圧過熱水蒸気を炭化炉内に吹き込み、酸素を遮断した状態でバイオマスの炭化を行うことにより、ダイオキシン等の有害物質の発生を抑制するとともに、タール分を揮発させ、そのまま炭化のエネルギー源としても利用します。なお、ここで発生する排気ガスは前述のとおり、脱臭処理がなされます。
      • 3)ガス化と4)発電
      • 炭化処理したバイオマスは成型された後、ガス化炉で摂氏800~1,000度で燃焼させながら熱分解ガスを発生させ、そのガスによってエンジンを駆動し発電します。発電効率は約30%となります。
      • 5)廃熱利用
      • 廃熱乾燥機(平成16年度整備予定)では、発電の際に発生した廃熱を利用して、焼酎かすなどの食品残さを乾燥させ、家畜用飼料を生産します。この他、ボイラーや前処理、炭化にも廃熱を供給・利用することによって、システム全体で熱効率は約40%となり、発電とあわせて総合エネルギー効率は約70%になります。
      • 6)焼却灰の利用
      • ガス化炉の焼却灰はカルシウムやリン酸に富んでおり、肥料として利用できます。

  

2.システムの処理能力

乾燥バイオマスで1時間当たり90kg、発電能力40kW、総合エネルギー効率は70%が見込まれます。実用機では、本試作機の10倍程度(家畜ふん尿34トンと食品廃棄物7トンの日量処理能力)を想定しています。

[システム概要図]

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[今後の予定]

17年度までに次のことを明らかにします。

  1. 本システムの運転試験を行い、バイオマスの種類ごとの適正運転条件を明らかにするほか、焼却灰を肥料成分調整材として活用する際の利用技術を確立します。
  2. 地域の特性を考慮した本システムの適応条件や導入条件を明らかにするとともに、システム全体について導入時のコスト評価を行います。

その後、本システムの導入が効果的であると考えられる地域において、実用機の導入に向けた検討を進めていく予定です。

用語解説

バイオマス

  • バイオマスとは、生物資源(量)を表す概念で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を指します。具体的には、農林水産物、稲わら、もみ殻、食品廃棄物、家畜排せつ物、木くずなどで、エネルギーや新素材として利用できるものです。

コ・ジェネレーションシステム

エネルギー資源から電力と有用な熱を同時に発生させ、利用するエネルギー供給システムのことをいいます。通常のエンジン式発電の場合は、エンジンの冷却廃熱や排気熱は利用されずに捨てられるため、全体の熱効率は20~30%にとどまりますが、コ・ジェネレーションシステムでは、エンジンの冷却廃熱や排気熱を熱エネルギーとして回収利用するため、発電とあわせて総合熱効率は70%程度と高くなります。

常圧過熱水蒸気

  • 水は摂氏100度で水蒸気になりますが、この水蒸気を圧力を上げずにさらに加熱し温度を高めた水蒸気のことをいいます。過熱水蒸気は、温度が摂氏160~170度以上になると放射熱エネルギーが増加し、通常の水蒸気よりエネルギー量が多くなるので短時間で加熱処理が可能となります。また、過熱水蒸気を吹き込むことにより無酸素状態で加熱処理ができるので、ダイオキシン類等の発生を抑制した炭化が可能となります。

熱分解ガス

  • 通常、摂氏800度以上の温度で有機物を加熱した時に発生するガスを指し、一酸化炭素や水素、メタンなどの可燃性成分を含んでいます。材料を直接燃焼させ温度を上げてから酸素の少なくなった部分で可燃性ガスに熱分解する直接燃焼方式と、外部から加熱して熱分解させる間接加熱方式があります。今回は前者の直接燃焼方式を採用しています。

多段階炭化・ガス化

  • 炭化やガス化を行う際に、前処理(予熱工程)、炭化、ガス化と各工程で装置を分けて処理していく方法。熱利用のみの場合はガス化の一工程で処理しますが、今回は家畜ふん尿を熱分解してエンジンにガスを供給する関係から、タール分やSOx、NOxによりエンジンを傷める可能性が高いので、工程を分け、きれいなガスだけをエンジンに供給するように配慮しています。