プレスリリース
小型可搬式・低コスト高効率の新しい熱・電エネルギー供給システム「農林バイオマス3号機」の開発

情報公開日:2004年3月19日 (金曜日)

概要

平成14年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されましたが、植物系バイオマスのエネルギー利用の拡大は、その中でも大きく期待されています。2010年に、全国で500程度のバイオマス利活用市町村を構築するためには、エネルギー変換システムの低コスト化・高効率化、さらには、システム全体をバイオマス集積所へ移動するといった新たな発想が必要です。 このため、農林水産省では、プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」の中で、九州沖縄農業研究センターと長崎総合科学大学との共同により、小型可搬式・低コスト高効率を目指した植物系バイオマスの新しい熱・電エネルギー供給システム「農林バイオマス3号機」を開発し、本年3月26日から長崎県諫早市において稼動を開始します。このシステムの最大の特徴は、高カロリーでクリーンなガス燃料への変換、小規模でも高い電力を発生するという、従来にない新しいガス化発電方式にあります。 ガスの火炎温度が、メタンやプロパンの火炎温度より高く、都市ガス同様に加熱用やガスエンジン、ガスタービンに使用できます。また、数kWから数百kWの小型発電では、世界一の発電効率(15~30%)を実現しました。具体的には、本試作機では、1時間当たり50kgのバイオマス(乾燥重量)で50kWの電力が得られ、実用機では、1トンのバイオマスで1,000kWh/日(家庭約100世帯分の電力供給)の出力を安定的に供給することが可能です。さらに、廃熱を利用したコ・ジェネレーションシステムを導入した場合、総合熱効率を70%と見込むことができます。

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図1 「農林バイオマス3号機」の概念図


詳細情報

技術の特徴

1. ガス化の基本原理

  粉体バイオマスは800°C以上で水蒸気と反応し、H2、CO、CH4などのガス燃料に変換されます。これは、水蒸気改質と呼ばれる反応で、吸熱反応であることから、外部から熱を供給する必要があります。このため、本システムでは、反応管の外部を熱ガスで加熱し、反応管の輻射(ふくしゃ)熱で反応熱を与えています。粉体バイオマスは瞬時に、すべての有機質がガス化され、灰分のみが残り、タール・ススをほとんど含まないクリーンなガス燃料となります。なお、このガス化方式を「浮遊外熱式」と呼んでいます。

bio3_z2.jpg図2 浮遊外熱式高カロリーガス化の原理

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図3 ガス化反応と生成ガス組成

2.システムの構成

  システムの構成は、以下のとおりです。

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図4 システムの構成

1.バイオマス原料

 原料は、間伐材、おが屑、バーク、稲わら、ネピアグラスなどの草本類、木本類の植物系バイオマスであり、ガス燃料用として粉体バイオマス(直径2mm程度)を、熱ガス発生用としてチップ状バイオマス(直径約100mm以下)を、それぞれ6:4程度の割合で用意します。

2.熱ガス発生燃焼炉

 チップ状バイオマスをダウンドラフト方式(空気が上から下へ流れること。)の燃焼炉で完全燃焼させ、送り込む過剰空気の調整により1,000~1,100°Cの熱ガスとし、ガス化反応炉へ送ります。この燃焼炉は、ダイオキシン等の有害物質と未燃分が発生しません。

3.ガス化反応炉

 ガス化反応炉内の反応管を外側より熱ガスで800~1,000°Cに加熱し、管内に通る過熱水蒸気に粉体バイオマスを浮遊させてガス化反応を起こさせます。生成したガス燃料はガスタンクまたは直接ガスエンジンへ送ります。

4.過熱水蒸気

廃熱を利用して過熱水蒸気を発生させ、ガス化剤としてガス化反応炉へ供給します。

5.ガスタンク

ガスタンクに生成したガスを貯えることにより、ガスエンジンの負荷変動に無理なく対応できる機能が備わると同時に、都市ガスと同様に、ガス燃料として単独に使用することも可能です。

6.ガスエンジン発電

発電効率が最も高いガスエンジン(市販メーカー:三菱重工業(株)、ヤンマーディーゼル(株)、日本鋼管(株)、キャタピラ(株)等)によって発電し、廃熱も工場用蒸気、給湯、暖房等に利用します。

3. システムの特徴

可燃性のバイオマス(含水分約30%以下)であれば、大半が利用可能です。 可燃成分はすべてガス化され、残分は灰分のみです。 高カロリーで、タール・ススをほとんど含まないクリーンなガス燃料であり、加熱用や発電用として多用途に利用できます。 ガスエンジンに適用できるため、小型でも高効率な発電(発電効率:15~30%)が可能です。(従来の燃焼水蒸気発電方式との発電効率の比較:図5) 発電規模は数kWから数百kWまで拡大することが可能です。 システムが比較的シンプルであるため、運転員を比較的容易に養成することが可能です。 コ・ジェネレーションや安定した出力制御が可能であることから、電力や熱の自家消費にも対応でき、経済的な採算性も非常に有利です。1トン/日規模の実用機では、システム全体のイニシャルコストは50~70百万円(土地代除く)と想定しています。

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 図5 高カロリーガス化発電と従来方式との発電効率の比較

農林バイオマス3号機の仕様と外観

出力   50kW
総合発電効率(21%) エンジン発電 30%
ガス効率 75%
バイオマス供給量(51kg/h) 原料バイオマス 31kg/h
外熱バイオマス 20kg/h
廃熱利用率   50~60%
灰排出量(木質系)   ~2kg/h
総合熱利用率   70~80%

表 農林バイオマス3号機主要仕様

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写真 ガス化反応炉外観

用語解説

バイオマス

 バイオマスとは、生物資源(量)を表す概念で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を指します。具体的には、農林水産物、稲わら、もみ殻、食品廃棄物、家畜排せつ物、木くずなどで、エネルギーや新素材として利用できるものです。

コ・ジェネレーションシステム

エネルギー資源から電力と有用な熱を同時に発生させ、利用するエネルギー供給システムのことをいいます。通常のエンジン式発電の場合は、エンジンの冷却廃熱や排気熱は 利用されずに捨てられるため、全体の熱効率は20~30%にとどまりますが、コ・ジェネレーションシステムでは、エンジンの冷却廃熱や排気熱を熱エネルギーとして回収利用するため、発電とあわせて総合熱効率は70%程度と高くなります。

高カロリーガス化

固体または液体からガス燃料へ変換することをガス化といいます。一般的に、生成されたガス燃料の1m3当りの発熱量で28MJ以上を高カロリー、12MJ以下を低カロリー、この中間を中カロリーガスと呼んでいます。これは見掛け上の定義であり、水素は上質ガス燃料でありながら中カロリーガスに分類されますが、本システムにおいては、上質ガス燃料であることから、あえて高カロリーと呼ぶこととしました。

水蒸気改質

水蒸気改質とは、一般的に、メタンやプロパンのガス燃料を触媒下で水蒸気と反応させて、H2とCOの化学原料ガスをつくる製法のことをいいますが、本システムにおいて、世界で初めて、固体であるバイオマスを無触媒で水蒸気と反応させてガス化する新たな水蒸気改質の方法を開発・導入しました。