気象データから、稲の生育と水田の蒸発散量を推定する手法を新たに開発しました。この手法を温暖化シナリオに当てはめて、将来の九州の水田における水資源量(降水量から蒸発散量を差し引いた値)を計算しました。この結果、平均気温が現在よりも上昇するとされる2030年代では、田面や稲からの水の蒸発散量が現在よりも約20%増加して、九州の北部~九州の中部の広大な水田地域で潜在的な水不足に陥ることが予測されました。
背景とねらい
国内の全使用水量の実に60%以上が水田用水として利用されています。このため、温暖化による水田の動向は、将来の地域水資源に大きな影響を与えることになります。水田用水量を正確に算定するには反復利用水量や管理用水量など様々な社会的条件を考慮する必要がありますが、この研究では、気象条件によって水田水の潜在的な過不足量を推定するモデルを開発し、その将来予測を試みました。
成果の内容
- 気象データから稲の生育を推定するモデルを開発し、さらに稲および田の水面からの水の蒸発散量を推定するモデルと組み合わせることによって、水田全体の蒸発散量を推定する手法を開発しました(図1)。
- 開発した手法を用いて、九州の水田地帯における将来の潜在的な水資源量を計算しました。降水量を現在と同じと仮定した場合、2030年代の8月の潜在的な水資源量は、現在よりも平均で約30mm減少し、水資源が不足する地域が九州の北部から中部まで拡大すると予測されました(図2)。
- 稲の植付時期が移動した場合について、潜在的な水資源量の変化を計算しました。全ての地域で植付時期が現在より30日早まると、2030年代における8月の水資源量が不足する地域はさらに増加すると予測されました。逆に植付時期が30日遅くなると水資源が不足する地域は少なくなると予測されました(図3)。
今後の展望
今回得られた予測結果は、将来の水利用計画や水資源の有効利用を目的とする栽培暦の決定に活用することができます。今後は、将来の降水量や降水形態の変化も勘案して、より正確な水資源の予測モデルの開発に取り組む予定です。