イチゴの促成栽培で再生紙製のポット(紙ポット)を用いて育苗すると、紙ポットの表面から水分が蒸発することによりポット内の温度が低下します。そのため、イチゴの花芽分化がこれまで用いられてきた黒ポリポットよりも促進され、より早く果実が出荷できることを明らかにしました。「さちのか」では花芽分化は10日程度、収穫は25日程度早くなり、単価の高いクリスマス出荷に間に合うようになります。
なお、本研究成果は「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」によるものです。
背景とねらい
イチゴは気温が下がり、日の長さが短くなると花芽分化が始まります。その際、植物体の窒素濃度が低いと花芽分化が促進されます。紙ポットには透水性があり、ポットの表面からの水の蒸発によりポット内部の温度が下がるため、イチゴの苗の花芽分化促進が期待できます。そこで、紙ポットの表面からの水の蒸発に影響を及ぼすかん水方法や紙ポットの形状について研究を進めました。
成果の内容
促成イチゴの育苗に紙ポットを用いると、
- ポット内の温度は黒ポリポットよりも最大で摂氏5度以上低くなります(図1)。
- 黒ポリポットに比べて、イチゴの葉柄の硝酸態窒素濃度が早く低下します(図2)。
- 「さちのか」では2時間に1回頭上散水すると花芽分化が最も促進され、黒ポリポットによる育苗に対して10日程度早くなります。この結果出蕾、開花、収穫も早まります(表1)。
- 紙ポットの形状を浅底型(フラット)や底上高型に改良すると、従来の紙ポットよりも花芽分化が2日程度早く、出蕾、開花、収穫も早まります(写真1)、(表2)。
今後の展望
紙ポット育苗は「とよのか」や「濃姫(のうひめ)」等、他の促成イチゴ品種の花芽分化促進にも効果的です。
紙ポット育苗は促成栽培で一般に行われている低温暗黒処理や夜冷短日処理のような大幅な花芽分化の促進はありませんが、特別な装置は必要としないため、それらの方法よりもはるかに低コストかつ簡便に花芽分化を促進することができます。このため、慣行の黒ポリポットを用いたポット育苗に代わって普及することが期待されます。
学会発表
この内容は3月29日(水曜日)~30日(木曜日)に千葉大学にて開催される園芸学会平成18年度春季大会で発表します。