プレスリリース
紙ポットを使ったイチゴの促成栽培

- 低コスト・省力で早期出荷が可能 -

情報公開日:2006年3月22日 (水曜日)

イチゴの促成栽培で再生紙製のポット(紙ポット)を用いて育苗すると、紙ポットの表面から水分が蒸発することによりポット内の温度が低下します。そのため、イチゴの花芽分化がこれまで用いられてきた黒ポリポットよりも促進され、より早く果実が出荷できることを明らかにしました。「さちのか」では花芽分化は10日程度、収穫は25日程度早くなり、単価の高いクリスマス出荷に間に合うようになります。
なお、本研究成果は「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」によるものです。

 

背景とねらい

イチゴは気温が下がり、日の長さが短くなると花芽分化が始まります。その際、植物体の窒素濃度が低いと花芽分化が促進されます。紙ポットには透水性があり、ポットの表面からの水の蒸発によりポット内部の温度が下がるため、イチゴの苗の花芽分化促進が期待できます。そこで、紙ポットの表面からの水の蒸発に影響を及ぼすかん水方法や紙ポットの形状について研究を進めました。

 

成果の内容

促成イチゴの育苗に紙ポットを用いると、

  • ポット内の温度は黒ポリポットよりも最大で摂氏5度以上低くなります(図1)。
  • 黒ポリポットに比べて、イチゴの葉柄の硝酸態窒素濃度が早く低下します(図2)。
  • 「さちのか」では2時間に1回頭上散水すると花芽分化が最も促進され、黒ポリポットによる育苗に対して10日程度早くなります。この結果出蕾、開花、収穫も早まります(表1)。
  • 紙ポットの形状を浅底型(フラット)や底上高型に改良すると、従来の紙ポットよりも花芽分化が2日程度早く、出蕾、開花、収穫も早まります(写真1)、(表2)。

 

今後の展望

紙ポット育苗は「とよのか」や「濃姫(のうひめ)」等、他の促成イチゴ品種の花芽分化促進にも効果的です。
紙ポット育苗は促成栽培で一般に行われている低温暗黒処理や夜冷短日処理のような大幅な花芽分化の促進はありませんが、特別な装置は必要としないため、それらの方法よりもはるかに低コストかつ簡便に花芽分化を促進することができます。このため、慣行の黒ポリポットを用いたポット育苗に代わって普及することが期待されます。

 

学会発表

この内容は3月29日(水曜日)~30日(木曜日)に千葉大学にて開催される園芸学会平成18年度春季大会で発表します。

 


詳細情報

karc-press-06-03-22-1図1 ポットの種類がポット内温度に及ぼす影響

karc-press-06-03-22-2図2 ポットの違いが葉柄の硝酸態窒素濃度の推移に及ぼす影響

karc-press-06-03-22-3表1 黒ポリポットと紙ポットの花芽分化、出蕾、開花、収穫開始時期

karc-press-06-03-22-4写真1 底部を改良した紙ポット

karc-press-06-03-22-5表2 改良した紙ポットが花芽分化、出蕾、開花、収穫開始日に及ぼす影響

karc-press-06-03-22-6写真2 慣行の黒ポリポット(左)と紙ポット(右)

karc-press-06-03-22-7写真3 鉢受けによるイチゴ苗の生産状況

 

用語解説

促成栽培:
露地栽培よりも収穫を早くする栽培方法。

再生紙製紙ポット:
再生紙を成型して作ったポット。紙ポットは1鉢2.5円です。また、ポットのまま定植可能で、定植後のポットの回収や洗浄、消毒作業が不要なので省力的です。

さちのか:
野菜茶業試験場久留米支場(現在、九州沖縄農業研究センター野菜花き研究部)が育成した食味がきわめて良く、輸送性が高い促成栽培用の品種。現在、「とちおとめ」に次いで全国で2位、割合は全体の13%。2006年度産の全国の「さちのか」の作付面積は437.2haで前年比4%増。

頭上かん水:
散水ノズルにより育苗ポットの上からかけるかん水。

硝酸態窒素濃度:
葉柄の汁液の濃度を測定します。体内窒素濃度が高いままでは頂花房の花芽分化が遅れ、低いと花芽分化が促進されるため、慣行のポット育苗では花芽分化の予定時期の1か月前に苗への最後の追肥を終わらせて、以後は窒素濃度が大きく低下するようにして、花芽分化を地床育苗よりも早めています。紙ポット育苗でも同様に窒素を切ります。

低温暗黒処理:
窒素肥料を強く切ったポット苗をコンテナにつめ、低温倉庫に入れて、暗黒条件で12度前後の温度で20日程度処理しますと、9月上旬に花芽を分化させることができ、11月上中旬から出荷することができます。1鉢当たり15円程度の処理費用がいります。

夜冷短日処理:
夜冷短日装置で、日光を100%さえぎるフィルムにより、日の長さを8時間(明期の温度はなりゆき)とし、さらに暗期の温度を冷房機で14度程度とします。9月上旬に花芽を分化させることができ、11月上中旬から出荷することができます。装置は1台3百万円程度で冷房の費用もかかるため、処理費用は暗黒低温処理よりもさらに高くなります。