プレスリリース
飼料用トウモロコシに熱帯性新害虫の被害拡大

- 地球温暖化の影響か -

情報公開日:2005年3月16日 (水曜日)

九州中南部では飼料用トウモロコシが春と夏の2回栽培されています。最近、熊本県菊池郡などで、2回目の夏播きトウモロコシにおいて生育が急に止まる症状が発生しています。これは、ワラビー萎縮症と呼ばれ、ウイルスの感染などによる病気ではなく、フタテンチビヨコバイという害虫の吸汁によって起こります。近年の温暖化傾向、特にこの数年間、暖冬傾向が続いたことによって、熱帯性のフタテンチビヨコバイが越冬しやすくなったためと考えられます。現在、九州沖縄農業研究センターでは、フタテンチビヨコバイの生態やトウモロコシ以外のイネ科作物への影響について研究を進めています。


詳細情報

近年の被害拡大状況

ワラビー萎縮症の被害は、熊本県では1988年に発見され、それ以降は熊本県菊池郡の数カ所で局地的な発生が続いていました。2001年頃から発生が急速に拡大し、2004年には熊本県菊池郡全域に広がっていることが九州沖縄農業研究センターの調査で明らかになりました。また、被害の原因となるフタテンチビヨコバイは、熊本県菊池郡のほぼ全域で確認され、2004年には虫の密度が前年までに比べて大幅に上昇していることが分かりました。今後、温暖化傾向が続けば、虫の発生はさらに多くなると考えられます。

被害回避対策

ワラビー萎縮症の発生地域では、ワラビー萎縮症抵抗性のトウモロコシ品種(市販品種は「30D44」のみ)を作付けすることが被害回避対策として不可欠です。また、虫の密度が高い場合、抵抗性品種でも幼苗時には生育抑制が起こるので、2回目の播種時期を可能な限り早くすることが被害回避のために重要です。

用語解説

フタテンチビヨコバイ

フタテンチビヨコバイCicadulina bipunctata (Melichar)は、九州中部を北限としてアジア・オセアニアの熱帯・亜熱帯地域に広く分布する体長約3mm、イネ科雑草に生息するカメムシ目の昆虫です。春から夏にかけてイネ科雑草で増殖し、7月中旬以降に密度が高くなります。九州地域の詳しい分布地域、年間の発生消長やどのように越冬するかについては不明な点が多く、現在調査中です。

ワラビー萎縮症

フタテンチビヨコバイがトウモロコシに加害すると、ワラビー萎縮症と呼ばれる生育抑制の被害が発生します。この名前は、被害を受けた葉が動物のワラビー(小型のカンガルー)の耳に似ていることに由来します。発症したトウモロコシは、葉脈がこぶ状に隆起して、新しく出てくる葉の成長が著しく抑制されるため、症状が激しい場合には収穫量が激減します。日本では、これまで熊本県菊池郡のほか、鹿児島県、宮崎県などの一部で被害が確認されています。 萎縮症状の原因は、フタテンチビヨコバイを除去すると被害が進行しないことから、虫が媒介するウイルスなどの病原菌の感染によるものではなく、この虫の吸汁の際に植物体内に注入される何らかの毒素などの物質によって起こると推定されていますが、そのメカニズムについてはまだ解明されていません。

写真1 フタテンチビヨコバイの成虫(体長約3mm)

写真1 フタテンチビヨコバイの成虫(体長約3mm)

写真2 加害によるトウモロコシのワラビー萎縮症の症状

写真2 加害によるトウモロコシのワラビー萎縮症の症状

写真3 飼料用トウモロコシ畑における被害状況

写真3 飼料用トウモロコシ畑における被害状況

表 熊本県菊池郡とその周辺地域におけるワラビー萎縮症の発生状況
年次 被害確認地点数 主な発生地
1988 2

菊池市、旭志村

2001 4 菊池市、旭志村、泗水町、合志町
2002 17 菊池市、旭志村、泗水町、合志町、七城町、鹿本町
2003 19 菊池市、旭志村、泗水町、合志町、七城町、鹿本町、西合志町、嘉島町
2004 23 菊池市、旭志村、泗水町、合志町、七城町、西合志町、嘉島町

 

 

図 熊本市と菊池市の年平均気温の変化

図 熊本市と菊池市の年平均気温の変化