プレスリリース
多収で穂発芽と縞萎縮病に強い二条大麦新品種「はるか二条」

- 「ニシノホシ」に代わる主力品種として期待 -

情報公開日:2013年4月 3日 (水曜日)

ポイント

概要

農研機構 九州沖縄農業研究センターは二条大麦新品種「はるか二条」を開発しました。今回育成された「はるか二条」は、現在普及している「ニシノホシ」に比べ、穂発芽に強い、短強稈で倒伏に強い、大粒で整粒収量が極めて多い、粒の外観および精麦品質が優れる、といった特徴があります。
長崎県で栽培が始まっており、今後、九州各県で「ニシノホシ」に代わる二条大麦の主力品種として普及が期待されます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト「水田の潜在能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発(平成22~26 年度)」、運営費交付金

品種登録:出願番号 第27568号(平成24年11月8日)

農林認定:二条大麦農林26号(平成25年4月 3日)


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

精麦用二条大麦品種「ニシノホシ」は、食用および焼酎醸造用として品質が良く実需者から高い評価を得ており、九州を中心に約7,000 ha栽培されています。しかし、「ニシノホシ」は発生が拡大しているオオムギ縞萎縮病のIII型ウイルス系統に罹病すること、穂発芽しやすいこと、多肥栽培では細粒が出やすく整粒収量が低下する等の欠点が明らかになってきました。
  そこで、「ニシノホシ」並の精麦および醸造品質を持ち、オオムギ縞萎縮病の主要なウイルス系統とうどんこ病に抵抗性があり、穂発芽耐性が強く、短強稈で多収な二条大麦品種を育成しました。

研究の内容・意義

「はるか二条」は、多収で良質の食用品種を育種目標として、短強稈の「羽系B0080」と短稈、多収で縞萎縮病のIII型ウイルス系統抵抗性の「西海皮59号」との組合せ(1999年4月に交配)から育成した精麦用の二条大麦品種です。2012年に品種登録出願し、2013年に農林認定品種「二条大麦農林26号」として認められ、九州で普及が始まっています。
本品種は「ニシノホシ」と比較して次のような特徴があります。

  • 出穂期と成熟期ともに2日程度早い二条皮麦品種です(表1)。
  • 稈長は短く穂長は同程度かやや短く、穂数は多く、耐倒伏性は強い(表1)。
  • オオムギ縞萎縮ウイルスの主要な系統とうどんこ病に抵抗性があります(表1)。赤かび病抵抗性はやや劣るものの、かび毒の蓄積はやや少ないです。
  • 穂発芽しにくく、ニシノホシに比べ優ります(表1)。
  • 容積重と千粒重が大きく整粒歩合が高く(表2)、整粒収量はおよそ30ポイント高くきわめて多収です(図1)。
  • 原粒の外観品質、搗精時間と精麦白度は同程度ですが、砕粒率はやや高いです。精麦の外観品質は同程度に優れます。精麦の加熱・保温後の褐変程度はやや少なく、炊飯麦の明度は高いです(表2)。

なお、「はるか二条」は春播性の早生品種であり、温暖地から暖地の平坦地に適します。栽培上の注意点として、赤かび病抵抗性は十分ではなく多発年にはかび毒汚染が起こりえるため、二条大麦の防除基準に従い適期防除が必要です。

今後の予定・期待

「はるか二条」は長崎県で奨励品種として採用予定で、食用および焼酎醸造用として試作が始まっており、工場規模での麦焼酎の試作および醸造適性の評価が予定されています。また、「はるか二条」は九州各県の奨励品種決定調査においても有望視されており、「ニシノホシ」に代わる食用および焼酎醸造用の主力品種として普及が期待されます。
国産の精麦用二条大麦は輸入麦に比べ精麦品質が優れることから、焼酎醸造用に加え比較的価格が高い麦飯や味噌醸造原料としての需要が期待されています。整粒収量が極めて多く安定生産が可能な「はるか二条」の普及により、収益性の大幅な向上と大麦の生産振興が期待されます。

用語解説

1)整粒収量
大麦を収穫・脱穀し風選などによりくず麦を取り除いた収量を子実収量(広義の収量)と表記します。この子実生産物には充実不良などによる細粒も含んでおり、縦目篩などにかけることにより細粒を取り除いた子実を整粒と呼びます。子実全体の整粒の割合を整粒歩合と呼び、その収量を整粒収量と呼びます。大麦の精麦品質は細粒が混入することにより低下することから、二条(大粒)大麦では2.5mmの縦目篩にかけて整粒し販売します。

2)二条大麦
大麦の品種群は、穂の断面から見ると6条に粒が並ぶ六条大麦と、2条に粒が並ぶ二条大麦に分けられる。また、穀皮(?)と胚乳が粘着物質により接着し脱穀しても離れない皮麦と、穀皮が容易に離れる裸麦に分けられる。 日本の農産物規格では、麦種と用途により、主食用や麦茶に利用される“六条(小粒)大麦”(六条皮麦)、食用や味噌原料として用いられる“はだか麦”(六条裸麦)、食用や焼酎醸造に利用される“二条(大粒)大麦”(二条皮麦)、ビール醸造に利用される二条大麦の品種群である“ビール大麦”に分類される。ビール大麦以外の二条大麦は搗精(とうせい)により穀皮と糊粉層が取り除かれ、精麦として押麦などの主食用や麦焼酎の原料として利用される。

3)原粒の品質
被害粒(剥皮粒、凸腹粒等)が少なく、粒張りが良く、容積重が大きいほど品質が良いとされる。また、品種や栽培条件により胚乳の切断面が半透明の硝子質から粉状質まで変化する。粉状質の胚乳は一般的に白度が高く精麦品質が優れるとされる。胚乳の硬さは種子を押しつぶす力により判定される。

4)精麦品質
大麦を食用や焼酎醸造原料として利用する場合、搗精により精麦に加工します。この精麦への加工適性を精麦品質と言います。食用原料としては、糊粉層や胚乳が柔らかく軟質で搗精時間が長すぎず、穀皮や糊粉層が均一に搗精され精麦の「白度(白さ)」が高いこと、搗精により胚乳が砕ける割合である「砕粒率」が低く、砕けない精麦の歩留が高いことが求められます。

5)穂発芽
収穫前の成熟期の降雨により子実が穂に付いたまま発芽すること。発芽すると胚乳の分解が進むため、精麦品質等が大きく低下します。「ニシノホシ」などは穂発芽しやすいため、成熟期の長雨により穂発芽する危険性があります。「はるか二条」は穂発芽し難く、二条大麦としては穂発芽耐性が強く、温暖地から暖地では穂発芽の被害はほとんど受けないと考えられます。

6)オオムギ縞萎縮病
オオムギ縞萎縮病は赤かび病やうどんこ病と並ぶ大麦の重要病害の1つ。菌により媒介される土壌伝染性のウイルス病で、薬剤防除が困難なことから抵抗性品種の作付けが不可欠です。このウイルスの病原性は変異しやすく、九州においても従来から発生しているウイルス系統(I型)に加え最近ではIII型の発生が増えつつあります。また、日本にはI型からV型までのウイルス系統が知られていますが、「はるか二条」は全てのウイルス系統に抵抗性であり、抵抗性遺伝子のrym3rym5を持つと推定されます。

図表