プレスリリース
イネの害虫ヒメトビウンカの海外からの飛来予測システムを開発

情報公開日:2014年5月28日 (水曜日)

ポイント

  • 農研機構、佐賀県農業試験研究センター、日本植物防疫協会、長崎県病害虫防除所の研究チームは、ヒメトビウンカの海外からの移動を計算する飛来予測モデルを開発しました。
  • この予測モデルを基に、全国の病害虫防除所などがインターネットを通じて利用するJPP-NETヒメトビウンカ飛来予測システムを開発し、ヒメトビウンカの効果的防除に向けて本年5月よりこのシステムを実運用しています。

 

  • ヒメトビウンカは、イネ縞葉枯病などのウイルス病を媒介するイネの重要害虫です。近年、西日本では従来の殺虫剤が効きにくいヒメトビウンカが5月末から6月初め頃に中国東部から多量に飛来し、イネ縞葉枯病が多発する問題が起きています。イネ縞葉枯病を抑制するためには、この時期のウンカ成虫の海外からの飛来を予測し、飛来虫を迅速、適切に防除することが大切です。また、精度の高い飛来予測を行うためには、成虫の飛び立ち時期を予測し、かつ1日のうちどの時間帯に飛び立つかを解明することが必要です。これは、虫を運ぶ風は常に変化し、飛び立ちのタイミングが直接予測結果に影響するからです。そこで、飛び立ち時期の予測手法と飛び立ち時間帯を明らかにし、ヒメトビウンカ飛来予測手法を確立するとともに、飛来情報を病害虫防除所などに通知する仕組みを作ることを目的として研究を行いました。
  • ヒメトビウンカは主に夕方に飛び立つことが分かりました(図1)。ヒメトビウンカは成虫になってから飛び立ちますので、成虫になる羽化時期を有効積算温度から予測する手法を開発し、ウンカが飛来源から飛び立つ時期を予測することができました(図2)。これら飛び立ちのタイミングや風、気温のデータを用いてウンカの移動を計算する飛来予測モデルを作成し、それを基にJPP-NETヒメトビウンカ飛来予測システムを開発しました(図3)。システムでは、ヒメトビウンカの飛来が予測されると電子メールで全国の病害虫防除所に通知されます。
  • 予測される飛来時期と地域の情報は、飛来警戒、飛来後の適切な薬剤選択、防除の必要な地域の推定、防除時期の決定、耕起によるひこばえ(再生稲)の除去、雑草管理等の対策に役立てられます。平成26年5月現在、ヒメトビウンカの主要飛来地域を含む35県36機関、1行政機関、1独立行政法人が電子メールを登録し、飛来予測メールを受信しています。

関連情報

本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「ヒメトビウンカの海外からの飛来を予測する実運用情報提供システム(課題番号24018)(平成24~25年度)」の研究費補助を受けて実施されました。


詳細情報

図1 各種トラップによる時間別ウンカ捕獲合計数
佐賀平野で越冬したヒメトビウンカの次の世代の成虫の飛び立ちを調査した結果、主に夕方(トラップ回収時刻の18 時と20 時、日の入りは19 時20 分頃)に飛び立つことが分かりました。また日中にも飛び立っていることを確認できました。トラップはネットトラップ、吸引型トラップなどを用い、捕獲数は調査した2地点の全トラップの合計値です。

図2 ヒメトビウンカの有効積算温度の推移
発育に必要な有効積算温度から、飛来源である中 国東部江蘇省各地域で、越冬したヒメトビウンカの次の世代の幼虫が成虫へと羽化する時期、それから求められる飛び立ち時期を精度よく予測できました。具体的には平成20 年から23 年までの5 月末から6 月初めの頃に国内外で3 回海外飛来が起こったと推定されていますが、それらの飛び立ち推定日は全て予測された飛び立ち時期に含まれていました。また平成22,23 年6 月の江蘇省南通市通州区のネットトラップによるヒメトビウンカ捕獲ピークも飛び立ち時期に含まれていました。この飛び立ち時期に飛来予測モデルで虫の移動を計算し、日本に飛来するかどうかを予測します。

図3 ヒメトビウンカ飛来予測図の例
全国の病害虫防除所が利用するインターネット データベースサービスJPP-NET の中で飛来予測システムを構築しました。5 月末から6 月初め頃に飛来が予測されると、電子メールで通知され、飛来予測図から飛来地域と飛来時期を知ることができ、飛来警戒と防除対策に役立てられます。このシステムの予測精度は的中率93%です。

用語の解説

1)イネウンカ類
水稲を加害するヒメトビウンカ、トビイロウンカとセジロウンカの3 種をいい、小型(体長 3-4mm)のセミの仲間です。これらはイネの茎から汁を吸って枯らしたり、ウイルス病を媒介したりします。

2)イネ縞葉枯病(いねしまはがれびょう)
ヒメトビウンカが媒介するイネ縞葉枯ウイルスの感染により発症するイネの病気です。この病気を発症すると穂が出なくなったり、枯れたりすることがあります。ヒメトビウンカの防除とイネ縞葉枯病抵抗性のイネ品種の利用などが有効な対策となります

3)JPP-NET
日本植物防疫協会が運営するインターネットデータベースサービスです。全国の病害虫防 除所、研究機関などが会員となっています。 JPP-NET http://www.jppn.ne.jp/