プレスリリース
収穫・調製作業を省力化できる 大粒で多収のイチゴ新品種「恋みのり」

情報公開日:2017年2月20日 (月曜日)

ポイント

  • 果実の揃いに優れ秀品率が高いことから、収穫・調製作業が大幅に省力化できます。
  • 大粒で、イチゴ単価の高い2月末までの収量性が優れる収益性の良い品種です。
  • 果実が適度に硬いため傷みにくく、輸送性1)が優れます。

概要

  1. 農研機構では、良食味で省力栽培が可能なイチゴ新品種「恋みのり」を育成しました。果房の伸びがよいため果実が見つけやすく、収穫・調製作業が大幅に省力化できます。
  2. 単価の高い2月末までの収量が多く、また収益性の高い2L以上の大玉率が高く、さらに果実の形状の揃いも良いため、高い収益性が期待できます。
  3. 果実が適度に硬く、輸送に伴う果実の傷みが少ないため、長距離の輸送性にも優れています。
  4. 現在、熊本県、長崎県、大分県、山口県等で試作が行われており、2017年春より、民間種苗会社等を通じて種苗が供給される予定です。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:「第31470号」(平成28年9月26日出願)

新品種育成の背景と経緯

イチゴ栽培では10a当たり労働時間が年間で2000時間程度と果菜類の中でも特に多く、その6割程度を収穫・調製作業が占めています。このことが、高収益経営を目指す大規模栽培の実現に向けて大きな支障となっています。
そこで、農研機構では、多収・良食味で栽培しやすく、収穫・調製作業を大幅に省力できる次世代型のイチゴ品種の開発を目指しました。

新品種「恋みのり」の特徴

  1. 「恋みのり」は、大粒で、鮮やかな淡赤色~赤色をしたイチゴ品種です(写真1左)。草勢が強く、冬でも生育が旺盛です。花数が多過ぎず、また果房の伸びがよく果実が見つけやすいため、収穫作業の省力化が可能です(写真1右、図1左)。さらに、大粒で形状の揃いが良いため、調製作業が大幅に軽減できます(図1右、表1)。
  2. 促成栽培2)では11月下旬から収穫可能で、単価が高い2月末までの収量が多くなります(表1)。
  3. 収益性の高い2L以上の大玉率が高く、収穫最盛期における大玉率は8割以上となります(表1)。
  4. 果実の硬度は適度に高く、輸送に伴う傷みが少なく日持ち性がよいことから、長距離の輸送性にも優れます。香りが強く、糖度および酸度は比較的安定しており、食味は良好です(図1)
  5. うどんこ病に対しては中程度の抵抗性を有していますが、萎黄病および炭疽病に対しては罹病性であるため、健全な親株から増殖を行うとともに、育苗期を含め予防的な防除が必要です。
  6. 大粒で多収性の早生系統「03042-08」を母親に、食味に優れる「熊研い548」(商標名「ひのしずく」)を父親としています。

今後の予定・期待

栽培管理が容易、高収量、収穫・調製作業の省力化が可能という特長を持つことから、 パッケージセンターを整備した大規模生産に適する品種として期待されます。現在、熊本 県、長崎県、大分県、山口県等で試作が行われています。2017年春より、民間種苗会社等 を通じて種苗が供給される予定です。

品種の名前の由来

多収であること、イチゴを通して託された想いが叶うようにとの願いが込められています。

用語の解説

1)輸送性
イチゴは大変傷みやすい果実であることから、収穫・調製作業をはじめ取り扱いに大変 気を使う果物です。そのため、収量性や高糖度等の食味の改良とともに、果実硬度が高く、輸送による傷みの少ない品種の開発が進められています。

2)促成栽培
ハウス内で花芽分化と休眠を温度や日の長さをコントロールすることによって、年内11月~翌年5月までの長期間にわたって連続して収穫する作型です。9月に定植し、10月下旬にハウス内の保温・加温を開始します。宮城県以南の温暖地・暖地に適し、全生産量の90%以上をこの作型が占めています。

 

写真1「恋みのり」の果実と着果状況
写真1「恋みのり」の果実と着果状況
果実(左)と着果状況(右)。 左図の画像補正用カラーチャートラベルは1辺1cm、右図の白ゲージは30cm。
ともに農研機構九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点にて撮影。

図1 「恋みのり」の1kg 当たりの収穫調製作業の省力化効果
図1 「恋みのり」の1kg当たりの収穫調製作業の省力化効果
2016年3月上旬~下旬の収穫最盛期における計4回、収穫した未調製果実(各回8~32kg)を用いた。
a) 「あまおう」(品種名「福岡S6号」)。
b) 株間23cm、内なり慣行土耕栽培において、1kg当たりの果実収穫に要する作業時間について、「あまおう」を100とした場合の相対比。
c) 1kg当たりの出荷調製作業に要する作業時間について、「あまおう」を100とした場合の相対比。
T検定による有意差検定、*:5%水準で有意差あり、**:1%水準で有意差あり。

 

表1 現地実証試験における「恋みのり」の促成栽培での収量性
表1 現地実証試験における「恋みのり」の促成栽培での収量性
a) 2014年作(試験区30株、2014/9/20定植、収穫開始11/23。商品果率85%、300g/P、23株/坪、6700本換算)、 2015年作(試験区476株、2015/9/18定植、収穫開始11/20。商品果率85%、300g/P、23株/坪、6700本換算)2ヵ年の平均値。
b) 2月末までの収量。
c) 2016年3月上旬~下旬の収穫最盛期における計4回、収穫した未調製果実(各回8~32kg)を用いて、調製されたパック数のうち、収益性が高い2L以上の秀品果実による平詰トレー(270g)の製品割合。

図2 「恋みのり」の促成栽培における果実品質

図2 「恋みのり」の促成栽培における果実品質
収穫期間を通じて糖度および酸度の変動が小さく、食味が安定しています。
果実硬度については、一般的に高い果実硬度の指標となる2N/3mmφ 以上を3月まで維持しています。
果実が適度に硬いことから、輸送性に優れます。