もち性大麦品種「くすもち二条」の育成の社会的背景
健康機能性の観点からマスメディア等でもち性大麦(もち麦)が取り上げられる機会が増え、平成28年からもち性大麦の需要が急増しています。しかし、国内で流通しているもち性大麦の多くは外国産で、国産の供給拡大が実需者、消費者の両方から求められています。これまでに農研機構はもち性大麦として、温暖地向けの「ダイシモチ」や「キラリモチ」、寒冷地向けの「はねうまもち」などを育成してきましたが、大麦の主産地の一つである九州向けの品種がない状態でした。そこで、早生で多収の品種「サチホゴールデン」と、もち性で短桿の系統「羽系B0571」との交配により、梅雨入りが早い九州でも栽培可能な早生のもち性大麦品種「くすもち二条」を育成しました。
「くすもち二条」の特徴
九州7県で栽培実績がある、うるち性の二条大麦品種「ニシノホシ」と比べて、以下の特徴を持っています。
【生産者向け】
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- 出穂期は同程度で、成熟期は2日早いです(表1)。
- 桿は短く、穂は長いです。(写真1、表1)。
- 穂数および整粒歩合は同程度ですが、整粒収量は多いです(表1)。
- 千粒重は同程度ですが、容積量は軽いです(表1)。
- オオムギ縞萎縮ウィルス系統III型に対する抵抗性は"極強"と優れ、うどんこ病に対する抵抗性は"極強"と同程度で、赤かび病に対する抵抗性と穂発芽のしやすさは"中"とほぼ同程度です(表2)。
- 茎数が増えやすいため、倒伏しないよう適期に適量を播種する必要があります。
【消費者向け】
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- 玄麦、精麦のいずれもβ-グルカンを約1.5培含みます。(表1)。
- 精麦と炊飯麦の黄色みが強いです(表3、写真2、写真3)
- 炊飯したときの軟らかさと粘りが優れています(表4)。
販売開始された製品
I社、N社、T社から精麦や粉の製品が販売開始されました(写真4、写真5、写真6)。
品種の名前の由来
九州(くす)と育成地が所在する福岡県筑後市の市の木クスノキにかけて、枝葉を大きく広げ常緑で長命なクスノキのように、九州などの暖地・温暖地で広く長く普及するもち性二条大麦となることを願って名付けました。
今後の予定・期待
令和元年播きの栽培面積は平成30年播きの倍以上となる見込みで、消費者の皆様の国産もち麦志向に応えた多種多様な製品が開発、販売されると期待されます。令和元年11月20~22日に東京ビッグサイトで行われるアグリビジネス創出フェア2019の農研機構ブースでも、もち性大麦品種の一つとして「くすもち二条」をご紹介する予定です。
原種苗入手先
以下からご購入が可能です。
有限会社田中農産 〒829-0311 福岡県築上郡築上町湊1382-2
TEL:0930-56-0711、FAX:0930-56-0711
(問い合わせ先)
農研機構九州沖縄農業研究センター 地域戦略部 研究推進室 知的財産チーム
TEL:096-242-7513、FAX:096-242-7769
用語の解説
1)β-グルカン
主要な穀類の中では大麦に多く含まれる水溶性食物繊維の一つで、血中コレステロールを低下させるなどの機能性が報告されています。大麦では一般に、うるち性品種と比べてもち性品種に多く含まれます。
2)精麦
大麦の穀粒を外側から削って精白した粒です。
参考図