2021年に行った本システムの現地実証試験では、目標収量を600 kg/10aとして、全てのほ場の上空NDVIを3筆の地上NDVIで補正して算出した必要追肥量(全ての追肥ほ場の平均値、以下同様)は3.4~3.5 kg N/10aとなり、全てのほ場について地上NDVIのみで算出した必要追肥量(3.3~3.4 kg N/10a)に極めて近い値となりました(表1)。一方、地上NDVIで補正せずに上空NDVIのみで算出した必要追肥量は6.9~16.7 kg N/10aとなりました。実際に、本システムで算出した必要追肥量を尿素で施用すると、倒伏や玄米タンパクの有意な増加を伴うことなく、目標値に近い実収量592±13 kg/10a(目標収量±5%以内)を得ることができました。なお、基部未熟粒及び背白粒は、両者合わせて5%となりました。また、2022年にも同様の現地実証試験を行ったところ、2021年と同程度の追肥量が算出され、目標値に近い実収量を得ることができました。本システムは、肥料価格の高騰が問題となる中で、追肥時に過剰な肥料の投入を防ぐため、肥料代の削減にも繋がります。
Nakano, H., Tanaka, R., Guan, S., Ohdan, H., 2023. Predicting rice grain yield using normalized difference vegetation index from UAV and GreenSeeker. Crop and Environment. https://doi.org/10.1016/j.crope.2023.03.001
参考図
図1 収量と窒素追肥量(a)及び玄米外観品質(基部未熟粒+背白粒)割合と窒素追肥量(b)との関係 試験は2018年に福岡県筑後市で実施。品種は「ヒノヒカリ」(以下、全ての試験で「ヒノヒカリ」を使用)。肥料は、移植7日前~移植28日後に6 kg N/10a施用した後、出穂16日前及び出穂9日前に合わせて0、2及び4 kg N/10a施用。a 米の収量は出穂20日前~出穂期頃の窒素追肥量の増加に伴って増加。b 登熟期の気温が高いと発生する基部未熟粒や背白粒は出穂20日前~出穂期頃の窒素追肥量の増加に伴って減少。 図2 上空(ドローン)及び地上で測定した正規化植生指数(NDVI)と測定時刻との関係(a)及びNDVIと天気との関係(b) a 試験は2022年8月2日に福岡県筑後市で実施。●はドローンで上空から測定したNDVI(P4 MULTISECTRAL、DJI)、▲は地上で測定したNDVI(GreenSeeker、Trimble)。測定対象の植物群落や測定日・時刻は同じで、天気は晴れ。b 試験は2022年8月2日及び3日に福岡県筑後市で実施。■は晴れ、■は曇り。測定対象の植物群落や測定時刻は同じで、晴れと曇りの日の差は1日。 図3 複数年の試験におけるドローンで上空から測定した正規化植生指数(NDVI)と収量との関係(a)、地上で測定したNDVIと収量との関係(b)及び補正したNDVIと収量との関係(c-e) 試験は2020年及び2021年の2年間に福岡県筑後市で実施。NDVIは出穂3週間前にドローン(Phantom 4 Pro、DJIにParrot Sequoia、Parrot Groupを搭載)及びGreenSeekerで測定。追肥量は4 kg N/10a。相関係数(r)は、***が0.1%水準で有意、*が5%水準で有意。a 上空NDVIと収量との関係。b 地上NDVIと収量との関係。c 各年毎に上空NDVIを生育が良い領域及び悪い領域の地上2点のNDVIで補正したNDVIと収量との関係。d 各年毎に上空NDVIを生育が良い領域、悪い領域及びその中間の領域の地上3点のNDVIで補正したNDVIと収量との関係。e 各年毎に上空NDVIを生育が中程度で差が小さい3領域の地上3点のNDVIで補正したNDVIと収量との関係。生育の差が大きい地上2点のNDVIで補正したNDVI(c)は上空NDVI(補正なし)(a)に比べて収量との相関が高く、さらに生育の差が大きい地上3点のNDVIで補正したNDVI(d)は地上NDVI(b)と同様に収量との相関が極めて高い。図4 生育診断・追肥量算出システムの作業手順 収量を目標とする場合、まず、水稲の出穂1~4週間前に、マルチスペクトルカメラ搭載のドローンで生育診断したい全てのほ場の画像を撮影し、画像解析ソフトで正規化植生指数(NDVI)(上空NDVI)を取得。同じ時期に、地上において生育が良いほ場(図のNo.2)、悪いほ場(図のNo.9)、その中間のほ場(図のNo.1)等、数か所の地上NDVIを測定。次に、上空NDVIと地上NDVIとの相関関係から回帰式を求め、全てのほ場の上空NDVIを地上NDVIで補正。さらに、あらかじめ生育ステージ毎に作成しておいた追肥量算出式に目標収量及び補正したNDVIを代入し、必要追肥量を算出。図5 上空(ドローン)で測定した正規化植生指数(NDVI)の地上で測定したNDVIによる補正方法表1 現地実証試験において取得した正規化植生指数(NDVI)を目標収量600 kg/10aとした追肥量算出式に代入して得た必要追肥量(全ての追肥ほ場の平均値)