プレスリリース
(研究成果)耕さずに種を播く! 飼料作物スーダングラスの不耕起播種・栽培技術の標準作業手順書を公開
- 播種作業の省力化で夏作飼料の生産拡大、国産飼料の増産へ -
ポイント
農研機構は、夏季に栽培される飼料作物として繁殖牛向けに広く利用されているスーダングラスを対象に、播種作業を省力・効率化できる不耕起栽培技術を体系化し、その標準作業手順書をウェブサイトで公開しました。新技術の導入効果、必要な機材や手順・条件などをまとめており、本手順書の活用により、夏作飼料の生産拡大や周年生産の安定化、国産飼料の増産に貢献することが期待されます。
概要
輸入飼料価格の高止まり傾向や農業者の高齢化、労働力不足が続くなか、省力的に国産飼料を増産し、畜産経営の安定化を図ることが喫緊の課題となっています。九州のような温暖な地域では、夏冬を通して同じほ場に2種類の異なる飼料作物を作付けする二毛作が普及していますが、経営規模が拡大し、作付面積が拡大する場合など、前作の収穫作業と後作の播種作業との競合がより起きやすくなる問題があります。特に夏季に作付けする場合は、梅雨などの天候の制約を受けて播種作業の期間が限られるため、より効率的に作業ができる省力栽培技術が求められていました。
スーダングラス1)は、ソルガム類の一種で、夏季に作付けされる一年生のイネ科の飼料作物です。初期生育が早いので雑草との競合に強く、収穫後も再生するため、複数回収穫できる特徴があります。おもに繁殖牛向けの粗飼料として広く利用される夏作の基幹作物の一つです。
農研機構ではこのスーダングラスを対象に、播種作業の工程を大幅に省略した不耕起栽培技術2)を開発・体系化し、スーダングラスの不耕起栽培適性や市販の不耕起播種機3)を利用した作業方法などをまとめた技術マニュアルを公表しています。このたび、生産現場へのさらなる普及推進を図るため、飼料生産組織4)の協力のもと、経営的な導入効果の事例を新たに加えるとともに、導入に必要な機材、手順、雑草対策5)や、作業の省力化効果などをより詳細に解説した本技術の標準作業手順書6)を作成・公開しました。
本技術の導入により、スーダングラスの作付面積拡大や飼料生産ほ場の年間収量増加が期待できます。現地実証試験の事例では、一定期間中の播種可能面積は耕起栽培に対して2倍以上に拡大(規模拡大)、作業時間では56%の削減(省力化)、軽油消費量では74%の削減(省エネ)などの経営的な効果が認められました。本手順書を活用し、普及機関や関係団体等を通じて、本技術の生産現場への導入推進を図ることで、夏作飼料の生産拡大、国産飼料の増産への波及が期待されます。
【標準作業手順書掲載URL】スーダングラス不耕起栽培技術標準作業手順書
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/161982.html
関連情報
予算:革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)「気象リスクに対応した安定的な飼料作物生産技術の開発」JP17063899
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 九州沖縄農業研究センター 所長原田 久富美
研究担当者 :
同 暖地畜産研究領域 飼料生産グループグループ長補佐 吉川 好文
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム金川 美穂
詳細情報
開発の社会的背景
輸入飼料価格の高止まり傾向や農業者の高齢化、労働力不足が続くなか、国産飼料の生産・供給基盤の強化が急務となっています。
九州地域は全国でも有数の畜産地帯であり、その温暖な気象条件を活かして年2回の作付けを行う二毛作などの周年栽培による飼料生産が行われてきました。しかし、作付けや収穫等の作業回数などが増えるため、面積拡大や大規模化を図る経営では、作業競合や労働過重、作業の遅延などが問題となっていました。特に、夏作では6月から7月にかけて梅雨があり、天候の制約を受け、播種作業の期間が限られるため、作業が計画通り進まず、夏作飼料の生産拡大や収量安定化などを阻害する要因の一つとなっていました。そのため、限られた期間内により効率的に播種作業ができ、安定的な収量確保と周年栽培が期待できる省力技術が求められていました。
そこで、特に九州地域に多い肉用牛の繁殖牛向けの粗飼料として広く利用されているスーダングラスを対象に、不耕起栽培技術の開発に取り組みました。
研究の経緯
不耕起栽培の実施にあたっては、対象とする作物が不耕起栽培に適しているか、有効な雑草対策技術があるかなどの課題を解決する必要があります。また、不耕起播種に対応した播種機を導入することになるため、生産現場における本技術の導入要件(目安)や経営的なメリットなどを明らかにする必要があります。
そこで、おもに繁殖牛向けに利用されるスーダングラスを対象に、その不耕起播種には市販の不耕起播種機が利用できること、スーダングラスが不耕起栽培に適していることを明らかにするとともに、不耕起の条件で有効な雑草対策技術を開発しました。さらに飼料生産組織の協力のもと、実際の営農現場の飼料畑に不耕起栽培を導入した実証試験を行うことにより研究開発を進め、今回、生産現場への普及推進を図るため、必要な機材や手順、導入事例や効果などを示した標準作業手順書を公開しました。
研究の内容・意義
本手順書では、スーダングラスの不耕起栽培技術について、一般的な耕起栽培と比較しながら、播種作業を大幅に省力化できる仕組みとメリット、収量水準やコスト、必要な播種機や雑草防除対策、導入効果や条件(留意点)などをまとめています。
- I章「暖地における飼料生産の現状と課題」では、温暖な気象条件を活かした、暖地での二毛作栽培の特徴(図1)や課題、基本的な作型や播種作業時期などをまとめています。
- II章「スーダングラス不耕起栽培技術の概要と特徴」では、より短期間での播種作業が可能な省力技術として体系化した不耕起栽培技術とその適用地域や導入した場合の栽培暦、不耕起栽培に用いる播種機や作業工程・手順(図2)、必要な雑草対策、省力効果や導入コストなどを紹介しています。
- 体系化したスーダングラスの不耕起栽培(技術)を導入すると、一般的な耕起栽培の収量を下回ることなく、播種作業時間の削減(図3)や播種期間の短縮効果(省力化)、作付面積の拡大や播き遅れによる収量低下リスク軽減効果(適期作業の実施、生育期間の確保)、軽油消費量の削減(省エネ)などの効果が期待できます。実証試験の事例では、耕起栽培に対して一定期間中の播種可能面積は2倍以上拡大し、播種作業時間では56%、軽油消費量では74%の削減効果が認められました。
- III章「技術導入の事例と経営評価」では、技術導入事例として飼料生産組織での現地実証試験結果などから、作業時間や生産コストの削減(図4)、収益改善などの経営的な導入効果を紹介しています。
今後の予定・期待