プレスリリース
(お知らせ) 農研機構第5期中長期計画をスタート

情報公開日:2021年4月22日 (木曜日)

ポイント

  • 農研機構は第5期中長期計画を次のとおり定め、新たな体制で研究開発を開始しました。
  • 我が国の農業・食品産業のあるべき姿の実現に向けて、4つの研究の柱(セグメント)「アグリ・フードビジネス」、「スマート生産システム」、「アグリバイオシステム」、「ロバスト農業システム」を推進するとともに、NAROプロジェクトでセグメント横断的な研究開発に組織が一体となって取り組みます。
  • 基盤技術研究本部を新設し、AI、ロボティクス、高度分析技術、データ・遺伝資源等の共通基盤技術の研究開発を強化します。
  • 基礎から実用化までのそれぞれのステージで切れ目なく一流の研究成果を創出し、グローバルで産業界・社会に大きなインパクトを与えるイノベーションの実現を目指します。

概要

農研機構は、令和3年4月から5年間の第5期中長期目標期間を開始しました。我が国の「食料自給力の向上と食料安全保障」、「産業競争力の強化と輸出拡大」、「生産性向上と環境保全との両立」を組織目標として研究開発に取り組み、農業・食品分野でイノベーションを創出し、政府が掲げる超スマート社会Society5.0の深化と浸透をめざして、新たな体制で研究開発に取り組みます。
第5期は、産業競争力強化に向けた出口志向の研究開発を強化するため、フードバリューチェーンの川下から、①「アグリ・フードビジネス」、②「スマート生産システム」、③「アグリバイオシステム」、④「ロバスト(頑健な)農業システム」の4本柱(セグメント)を立て、研究推進担当理事の権限と責任の下で、研究所それぞれの研究開発を加速します。
理事長直下に基盤技術研究本部を設置し、AI、ロボティクス、高度分析技術等の基盤技術の強化と、データ・遺伝資源等の共通基盤の整備により、4つのセグメントと連携し、イノベーション創出を加速します。
カーボンニュートラルに向けた動きの活発化を踏まえ、農林水産分野の環境保全技術の研究と社会実装を強化して推進します。また、世界人口の増大、地球温暖化、食料生産環境の劣悪化の中で、地球規模での食料増産と環境保全との両立を目指しムーンショット型研究を推進します。
明確な出口戦略の下で、基礎から実用化までのそれぞれのステージで切れ目なく一流の研究成果を創出し、グローバルで産業界・社会に大きなインパクトを与えるイノベーションの実現を目指します。

問い合わせ先
広報担当者 : 農研機構本部広報部広報課 髙橋、栗山、小林

詳細情報

農業・食品産業はイノベーションの宝庫

農業・食品産業の生産額は約50兆円ですが、輸出額は9,000億円ほどであり、伸びしろの大きな産業です。政府も2030年に5兆円の輸出を目標としています。
また、農業・食品産業は、温室効果ガス(GHG) 排出削減の重要分野です。農業・畜産・土地由来のGHG排出量は、世界全体の24 %に達します。農作物・食品の生産性向上とGHG排出削減の両立が重要な課題です。
農業・食品産業は、科学技術のフロンティアでもあります。開発期間と費用を大幅に削減し、ゲノム編集作物による食料不足の解決、医療用家畜による再生医療や臓器移植、AI 創薬など大きな可能性があります。
これらの可能性を現実のものとし、イノベーションを通じて社会経済に貢献するため農研機構は第5期中長期目標期間の開始にあたり、以下の方針を定めました。

第5期の方針

  • 産業競争力強化に向けた研究課題の設定

    第5期では、農業・食品産業の「あるべき姿」、すなわち「食料自給力の向上と食料安全保障」、「産業競争力の強化と輸出拡大」、「生産性向上と環境保全との両立」、を3つの目標としてバックキャスト方式で研究課題を設定しました。その際、食料・農業・農村基本計画はもちろん、内閣府の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」や、「みどりの食料システム戦略」も考慮しました。
    第5期の研究課題の柱立ては、産業競争力強化に向けた出口志向の研究開発を強化するため、流通・加工・消費という川下から次の4つとしました。具体的には、流通・加工、消費とフードチェーン全体の最適化を目指す「アグリ・フードビジネス」を1番手とし、次にスマート農業技術により農業生産の徹底的な強化を目指す「スマート生産システム」、バイオテクノロジーと AI を融合して新たな素材や産業創出を目指す「アグリバイオシステム」、そして最後に、気候変動や災害に対して強靱な生産基盤の構築と、生産性向上と環境保全との両立を目指す「ロバスト農業システム」の4本柱としました(図1)。
    農研機構の各研究所は、この4つのセグメントの下で各々大課題を担当します。そして、各セグメントを担当する研究推進担当理事が、その役割と権限と責任を明確にして、組織運営と課題推進の両方をマネジメントする形に変更しました(図2;正式名称は表1参照)。
    一方、セグメントを横断して総力を挙げて実施する研究として「NAROプロジェクト」を位置づけました。新たなビジネスモデルの構築を目指す「スマ農ビジネス」や、耕畜連携によりゼロエミッション農業の実現を目指す「ゼロエミ農業」などの6課題です。社会情勢の変化や大型プロジェクトの獲得などにあわせて、機動的に見直しながら進める予定です。

  • 基盤技術研究本部

    理事長直下に基盤技術研究本部を設置しました。AI、ロボティクス、高度分析技術等の基盤技術の強化と、データ・遺伝資源等の共通基盤の整備により、4つのセグメントと連携し、イノベーション創出を加速することが目的です(図3;研究開発事例は図4)。
    基盤技術研究本部は4つの研究センターからなりますが、その中核は2018年10月に設置した農業情報研究センターです。同センターの情報研究基盤を徹底的に活用し、データを一元的に管理することにより、相互に有機的に結びつけます。同センターはその他、農業AI研究や農業データ連携基盤"WAGRI1)"の運営を行います。
    また、農業ロボティクス研究センターでは、ジャストインタイム&クオリティ生産として、センシング技術、高精度生育予測技術、制御システムを開発します。遺伝資源研究センターでは、遺伝資源情報の高度化として、遺伝資源のゲノム情報、新機能を解明・付加して、民間等での利活用を促進します。

  • 農林水産分野の環境保全技術

    これまでに農研機構では、水田由来のCH4の削減、畑地由来のN2Oの削減、畜産排せつ物由来のN2Oの削減、養豚汚水浄化施設でのN2Oの削減などの研究開発成果をあげています。カーボンニュートラルに向けた動きが活発化する中、この分野の研究は重要性を増し、農林水産分野の主要研究開発課題として、農研機構も推進します。

  • ムーンショット型農林水産研究開発事業

    世界人口の増大、地球温暖化、食料生産環境の劣悪化の中で、地球規模での食料増産と環境保全との両立を目指します。このため、未来に向けた破壊的イノベーションをめざすムーンショット型農林水産研究開発事業として、365日・24時間無人稼働する農場、化学肥料ゼロ・農薬ゼロ、フード・ロスゼロ、余剰・廃棄食品の再利用などの研究を実施します。

  • 世界に冠たる研究組織をめざす

    農研機構は、農業・食品産業におけるSociety5.0の深化と浸透に向けて、明確な出口戦略の下で、基礎から実用化までのそれぞれのステージで、切れ目なく一流の研究成果を創出し、産業界・社会に大きなインパクトを与えるイノベーションを創出することによって、「世界に冠たる一流の研究組織」になることを目標とします。

用語の解説

WAGRI
農業データ連携基盤(WAGRI)は、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」で開発されたデータ連携のためのプラットフォームです。
(https://wagri.net、2021年4月接続確認)。WAGRIに参画することで、民間企業の様々な有償データに加えて、農業関係の様々な公的なデータ(土地・地図情報、土壌、気象、市況など)やサービス(作物生育・収量予測など)を商用利用することができます。

参考図

図1 「あるべき姿」からのバックキャストによる課題設定
図2 4セグメントにおける研究開発
図3 基盤技術研究本部の創設:研究開発と連携
図4 基盤技術研究本部の創設:研究開発事例
表1 農研機構の第5期組織名称とその略称一覧
正式名称 略称
本部
NARO開発戦略センター NDSC
基盤技術研究本部
農業情報研究センター 農情研
農業ロボティクス研究センター ロボ研
遺伝資源研究センター 資源研
高度分析研究センター 分析研
セグメントⅠ
食品研究部門 食品研
畜産研究部門 畜産研
動物衛生研究部門 動衛研
セグメントⅡ
北海道農業研究センター 北農研
東北農業研究センター 東北研
中日本農業研究センター 中農研
西日本農業研究センター 西農研
九州沖縄農業研究センター 九沖研
農業機械研究部門 農機研
セグメントⅢ
作物研究部門 作物研
果樹茶業研究部門 果茶研
野菜花き研究部門 野花研
生物機能利用研究部門 生物研
セグメントⅣ
農業環境研究部門 農環研
農村工学研究部門 農工研
植物防疫研究部門 植防研
 
種苗管理センター 種苗C
生物系特定産業技術研究支援センター BRAIN