農研機構
東日本電信電話株式会社
株式会社NTTアグリテクノロジー
株式会社みらい共創ファーム秋田
ポイント
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(本部:茨城県つくば市/理事長:久間 和生、以下、「農研機構」)と東日本電信電話株式会社(本社:東京都新宿区/代表取締役社長:澁谷 直樹、以下、「NTT東日本」)、株式会社NTTアグリテクノロジー(本社:東京都新宿区/代表取締役社長:酒井 大雅)は共同で、農研機構の専門家が有する知見や農業データ連携基盤(以下、「WAGRI※1」)とNTT東日本及びNTTアグリテクノロジーが有する、ICTを活用した遠隔営農支援の実績やノウハウを踏まえた仕組みを組み合わせることで、データ駆動型の「遠隔営農支援プロジェクト」(以下、「本プロジェクト」)の全国展開を進めます。最初の実証地として、この取組の契機となった株式会社みらい共創ファーム秋田(本社:秋田県南秋田郡大潟村/代表:涌井 徹)の圃場でタマネギの生産における遠隔営農支援に取り組みます。
背景と経緯
近年、農業分野においては、国内では急速な農業従事者の減少・高齢化に伴う担い手の確保や技術継承、世界では感染症・地政学リスク、気候変動の深刻化などによる食の安定供給に対するリスクが課題となっています。
これらの課題を踏まえ、農研機構、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーの3者は2020年2月に連携協定を締結し、データ駆動型で生産性向上や省力化、リスクの低減を実現することで、地域農業の発展や食の安定供給に寄与する各種プロジェクトを協働で進めてまいりました。
プロジェクトを通して、生産者や地域の収益力や生産性向上をめざし、新たな産地形成や品種に取り組む事例が増加してきています。その実現に向けて農業生産の現場では、多様な作物と環境条件、市況等を考慮した的確な判断等が重要になりますが、ベテラン生産者の減少・高齢化が急速に進んでおり、その技術の継承・指導を現場で適宜行うためには多大な労力が必要です。そのため品種特性や栽培技術などに知見のある専門家が遠隔で効率的・効果的に営農を支援する新たな仕組みの構築に期待が高まっています。また、近い将来、この仕組みがデータやAIをさらに活用する"新たな社会実装ツール"として、最新技術を正確に、早く、省力的かつ低コストで現場に伝えることで、新規参入と定着をもたらすことが見込まれます。
農研機構は品種開発、栽培技術などに知見のある専門人材を有し、WAGRIをはじめデータ駆動型農業技術の開発を進めています。NTT東日本、NTTアグリテクノロジーではICTを活用し、映像やセンサーデータによって遠隔地にいる専門家が生産現場の環境をリアルタイムに把握するともに、蓄積したデータを分析し的確な支援・指導を双方向で行う仕組みを保有・提供しています。その両者が協働することで、「地域における農業の成長産業化」「食の安定供給」を実現する「遠隔営農支援プロジェクト」を開始いたします。
プロジェクト概要
遠隔営農支援の仕組みは、生産者の農場や作物の映像・環境データを遠隔にいる専門家とリアルタイムに共有し、当該農場の土壌、気象、生育情報、作業履歴等のデータに基づき農研機構の標準作業手順書(SOP)に即した支援・指導を双方向のコミュニケーションにより行います。
本プロジェクトでは、露地栽培を重点的に取り扱います。広域かつ電源の確保が難しい農場をエリアカバーできるネットワーク(新しい無線LAN規格であるWi-Fi HaLow <IEEE802.11ah>など)やセンサーが必要であり、技術的な難度が高いことに加え、気象や土地・土壌条件による生育や病害の差が大きく、データを活用した栽培技術の導入により、大きな生産性向上の余地が見込まれるためです。
本プロジェクトの第1段階として令和5~6年度に「戦略的スマート農業技術の実証・実装」(農林水産省事業)※2も活用し、タマネギの新たな産地形成が進められている秋田県大潟村の株式会社みらい共創ファーム秋田の圃場で実証・開発を行います。農研機構の専門家が遠隔からタマネギ栽培の支援・指導を行い、効果検証及び技術の改善を図ります。支援・指導には、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーが提供する遠隔営農支援の仕組みを活用し、みらい共創ファーム秋田の生産者と専門家がリアルタイムで生産現場の映像やデータを共有し情報交換を行います(図1)。また、WAGRIのAPI※3も活用することで、農研機構のタマネギ生産SOPに即した技術的助言を行い、大潟村での新規就農者の収量が2~3t/10aであるところを、4t/10aのタマネギ生産を安定的に実現することをめざします。
第2段階では、AIも実装することで、気象情報や生育予測を踏まえた栽培作業計画、発生予察を踏まえた病害虫防除計画、市場動態予測を踏まえた出荷計画等を生産者に自動提示する仕組みも検討します。これにより、支援・指導を行う専門家の負担が軽減されることが期待されます。
例えば、新規就農者には判りづらい病虫害への対応については、病虫害診断サービスAPIを使用することで、どのような病虫害かを診断した上でその特性や対応する農薬の情報を得ることが可能です(図2)。また、生育予測APIでは定植日と気象APIで得た気象予報データを使って、いつ頃どれくらい収穫できるかをシミュレーションすることができ、営農計画に反映可能です。これらのAIも併用することにより、経験の浅い、新しい産地の新しい就農者に対して"新たな社会実装ツール"の活用を通して熟練の技術継承に取り組みます。
また、NTT東日本の地域エッジ(REIWAプロジェクト※4)への本プロジェクトのデータの実装や、NTTグループが多くの企業とともに推進している光を中心とした次世代コミュニケーション基盤(IOWN※5)の活用の検討を進めます。これにより、地域の大切な農業データの安心安全な活用、農場にあるロボット等を遠隔から低遅延でオペレーションすること、また環境負荷の低減につなげます(図3)。
今後は、大潟村での取り組みを踏まえ、遠隔営農支援の適用地域や対象品目の拡大を通して3年を目途に全国展開を進めていきます。
- ※1 気象や農地、収量予測など農業に役立つデータやプログラムを提供する公共的なクラウドサービス
(https://wagri.naro.go.jp/) - ※2「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト~秋田県産タマネギの生産性改善による自給率向上モデル実証~」(農林水産省事業)
- ※3 API(Application Programming Interface)の略で複数のアプリケーションなどを接続するための仕組み
- ※4 REIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area network)
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REIWAプロジェクトとは、NTT東日本の様々なアセットを活用して地域活性化を推進するプロジェクトです。サービスやソリューションを地域の皆さまと共に創り、課題解決のご提案から実現・運用のお手伝いまで、伴走型のサポート体制をご提供することで、地域社会全体の様々な分野における価値創造をめざしています。(https://business.ntt-east.co.jp/content/reiwa/)
- ※5 IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)
スマートな世界を実現する最先端の光関連技術および情報処理技術を活用した未来のコミュニケーション基盤
農研機構
- 研究推進責任者
- : 農研機構基盤技術研究本部農業情報研究センター
センター長 村上 則幸
同 東北農業研究センター 所長 川口 健太郎 - 広報担当者
- : 農研機構基盤技術研究本部農業情報研究センターWAGRI推進室 鶴 薫
東日本電信電話株式会社/株式会社NTTアグリテクノロジー
- プロジェクト主管
- : 株式会社NTTアグリテクノロジー デジタルファーミング推進部
- 広報担当者
- : 東日本電信電話株式会社 広報室 報道担当
株式会社みらい共創ファーム秋田
- 斎藤・宇佐美