ポイント
・微生物とりわけ放線菌には「休眠遺伝子」(潜在遺伝子とも言う)が多数存在することを明らかにし、これらを「活性化」する技術を世界で初めて開発した。
・「休眠遺伝子」を活性化させた放線菌から、実際に新たな抗生物質を単離した。
・本技術は、新薬開発に向けた革新的技術となりうる。
概要
概要
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構【理事長 堀江 武】(以下「農研機構」という)とアステラス製薬株式会社【社長 野木森 雅郁】は、微生物の休眠している遺伝子を目覚めさせて新たな抗生物質を発見するための技術開発に世界で初めて成功しました。この成果は、国際的な有力科学誌Nature Biotechnologyの、特にトピック性が高い記事が取り上げられる「Brief Communication」のセクションに掲載されます。
多剤耐性菌や結核菌が脅威を増している現在、新薬の発見は企業にとっても国民にとっても急を要する重要関心事となっていますが、微生物からの新たな抗生物質の発見は、ここ10年来困難さを増しています。これは、過去50年にわたる抗生物質探索のたゆまぬ努力が、その限界に近づいていることを示しています。我々の研究成果は、この窮状を打破する有力な方法として評価されました。
最近のゲノムプロジェクトの成果から、微生物、とりわけ放線菌には、“眠った状態”の遺伝子、すなわち「休眠遺伝子」が予想をはるかに越えて多数存在することが判ってきました。抗生物質を作る遺伝子では、実に8割が休眠遺伝子です。つまり、大半の遺伝子が未利用のまま、「宝の山」として残されているのです。
これら休眠遺伝子を活性化できれば、次々と新たな抗生物質を発見する事が可能になるであろうと考えた我々は、リボゾームまたはRNAポリメラーゼに変異を導入するという、ごく簡便で実用性の高い技法で休眠遺伝子を活性化させることに、世界で初めて成功しました。しかも、得られた抗生物質はこれまでとは異なった特異な構造をした新規の物質であることを確認し(ピペリダマイシンと命名)、実際にこの技術が新規物質の探索に使えることを実証しました。
我々の技法は、微生物からの新薬発見に大きく道を拓くもので、この技術の汎用性を考えれば、医学面のみならず、農業・工業における微生物利用に大きな弾みをつけるもので、学問上のインパクトのみならず、社会的インパクトも極めて大きい成果であるといえます。
予算:文部科学省科学技術振興調整費「開放的融合研究プロジェクト」(25億円/5年)
文部科学省科学技術振興調整費「産学官プロジェクト」(3億円/3年)