農業・食品産業では食料を生産する際に、循環型の資源として再利用できる様々な副産物・廃棄物が発生します。近年、これらの循環型の資源の社会的価値や経済的価値を高め、高度利用を促し、持続的社会へ貢献することが求められています。
そこで農研機構は、稲、麦などの副産物・廃棄物である藁(植物茎葉)と、畜糞(の燃焼灰)の資源としての利用価値の向上に取り組みました。従来、これら植物茎葉からバイオ燃料・化成品原料等を製造するには、酸、アルカリ、高温水蒸気などによる前処理が必要でコストがかかり、大がかりな設備が必須でした。また、畜糞を再生可能エネルギー源として燃焼利用した後に残る畜糞燃焼灰は、肥料用リン原料としての価値を持ちますが、アルカリ性が強く、取り扱いや肥料の製造が容易ではありませんでした。そこで今回、藁などの作物残渣と畜糞燃焼灰に水を加えて混合・静置することで、藁の繊維の前処理(改質)と畜糞燃焼灰のアルカリ低減を同時に行う地域型のプロセス(Reciprocal Upgrading for Recycling of Ash and Lignocellulosics:RURALプロセス)を開発しました。
この技術により、大がかりな前処理設備を必要とせず、例えば、農家単位で、混合物を山積みして周りを覆うだけでも前処理できるようになります。前処理に使用するアルカリに地域内で生じる畜糞燃焼灰を利用することで、化石資源由来のアルカリを地域外から輸送する必要がなくなるとともに、前処理利用によりアルカリ性が低減した畜糞燃焼灰は、リサイクル型リン肥料製造のための原料として取扱い易くなります。この技術は処理工程が簡易で原料の規模に影響を受けにくいため、各地域で入手できる原料の規模や、耕畜連携1)の状況などに応じて、有価物の製造に向けた多様な研究開発や実証試験をスタートできます。本技術は、日本型の地域バイオエコノミー2)の実現に道を拓くとともに、地域食料供給体制の強靱化にも貢献するものと期待されます。
本研究では、畜糞燃焼灰をアルカリとして用い、藁を前処理する工程を開発しました。
畜糞燃焼灰は、枯渇性資源である石灰岩から製造される水酸化カルシウム(消石灰)と比較してアルカリの強さで劣りますが、畜糞からリサイクルされた資源である点、地域内の畜舎近傍で製造できて輸送・貯蔵費用が低い点などが、消石灰に対する利点となります。それに加えて、畜糞燃焼灰をリン肥料原料として利用する際の問題となる、高いアルカリ度が前処理での利用で低減できることを見出しました。
稲藁も畜糞燃焼灰も高品質化できるこの処理法(プロセス)を、RURAL(Reciprocal Upgrading for Recycling of Ash and Lignocellulosics:灰とリグノセルロースのリサイクルのための相互アップグレード)プロセスと名付けました。
化石資源への依存度を低減し、持続的な社会の構築を促すため、再生可能な生物資源を活用して化石資源由来製品の代替物を製造することを特徴とするような多様なものづくり産業を創出するとともに、その価値を受容し支える社会機構(国内外で様々な定義が存在することから、それらを参考にしつつ本稿の趣旨に合わせて再定義。)。
参考:McCormick K. and Kautto N., The bioeconomy in Europe: an overview. Sustainability, 5, 2589-2608 (2013).
Yamagishi K., Ike M., Tanaka A., Tokuyasu K., The RURAL (reciprocal upgrading for recycling of ash and lignocellulosics) process: a simple conversion of agricultural resources to strategic primary products for the rural bioeconomy, Bioresour. Technol. Rep. doi.org/10.1016/j.biteb.2020.100574 (2020).