プレスリリース
(研究成果) 収穫時の低温は冷凍ブロッコリーの軟化を引き起こす

- 冷凍ブロッコリーの食感改善に向けて -

情報公開日:2023年12月20日 (水曜日)

ポイント

農研機構と株式会社ニッスイは、気温が低い時期に収穫したブロッコリーほど、冷凍加工後に解凍した際の組織軟化が大きいことを発見しました。解凍後の組織軟化は食感の低下を引き起こすため、気温の低い時期を避けて収穫することが冷凍ブロッコリーの食感の向上及び品質の安定化につながると考えられます。

概要

近年、冷凍野菜の需要は増加し続けています。しかし、野菜類は冷凍によって組織が軟化しやすく、品目によっては解凍後の食感の低下が問題となっています。その一方で、同じ野菜でも品種や生育段階の違いによって、解凍後の食感などの品質が異なることが経験的に知られていますが、その詳細なメカニズム・要因は明らかになっていません。冷凍加工後に軟化しにくい品種や栽培条件などが明らかになれば、冷凍野菜の高品質化につながります。

本研究では、冷凍野菜としての需要が多いブロッコリーについて、品種、収穫時のサイ ズ(花蕾(からい)の直径)および収穫時期の違いが冷凍による組織軟化に与える影響を調査しました。その結果、冷凍ブロッコリーの解凍後の軟化は、品種や収穫時のサイズよりも、収穫時期の気温に大きく影響されることが明らかになりました。また、細胞と細胞を結びつける多糖類であるペクチン1)の組成を分析したところ、気温の低い時期に収穫した秋冬収穫ブロッコリーは気温の高い春収穫ブロッコリーと比べて水溶性ペクチンの割合が高く、細胞同士の結着が弱くなっていることが示唆されました。

以上のことから、比較的温暖な時期に収穫したブロッコリー原料は冷凍加工に適しており、組織が軟化しにくい冷凍用ブロッコリーを栽培する際には、収穫が厳冬期(目安として日平均10°C以下)と重ならないような栽培計画を組むことが重要と考えられます。本成果は、冷凍ブロッコリー用に気温を考慮した栽培体系の確立や、冷凍ブロッコリーの食感の向上及び品質の安定化に活用できます。

関連情報

予算 : 資金提供型共同研究「冷凍野菜の高品質化に関する研究」2019年10月~2023年3月

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構食品研究部門 所長髙橋 清也
同 野菜花き研究部門 所長松元 哲
株式会社ニッスイ中央研究所 所長塩谷 格
研究担当者 :
農研機構食品研究部門 食品加工・素材研究領域
西田 菜美子・安藤 泰雅
同 野菜花き研究部門 露地生産システム研究領域
高橋 徳・大石 麻南登
株式会社ニッスイ 中央研究所 水産食品研究室 研究員
ビリヤラッタナサク チョテイカ・橋本朋子・竹村裕二
広報担当者 :
農研機構食品研究部門 研究推進室 渉外チーム長
亀谷 宏美

詳細情報

開発の社会的背景

近年、生活様式の変化を背景に冷凍野菜の需要が増加しています。しかし、野菜を冷凍すると、野菜に含まれる水が氷に変化し、野菜組織に物理的な損傷を与えることで組織軟化が生じます。一般に野菜は水分量が多いなどの理由から、他の食品よりも冷凍により組織が傷つきやすいと言われています。この冷凍加工時の組織軟化により、野菜のハリのある食感が失われることが品目によっては問題となっており、その改善が望まれています。その一方で、同じ野菜品目でも品種や生育段階によって解凍後の品質に差があることが経験的に知られています。しかしながら、その詳細なメカニズムは解明されていません。冷凍加工後に軟化しにくい品種や栽培条件などが明らかになれば、冷凍野菜の食感の向上及び品質の安定化につながります。

研究の経緯

農研機構は、冷凍野菜としての需要の多いブロッコリーを対象に、株式会社ニッスイとの共同研究に取り組みました。栽培、収穫から消費までのフードチェーンを俯瞰した研究とするため、ブロッコリーの品種・収穫時のサイズ(花蕾の直径)・収穫時期の3つの要因に着目し、解凍後の軟化に及ぼす影響を調査しました。

研究の内容・意義

解凍後の組織軟化に影響を与える要因を品種・収穫時のサイズ・収穫時期の観点から調査しました。

  • 2020年11月~12月(秋冬収穫)に6品種のブロッコリーを異なる3サイズ(花蕾の直径12 cm、15 cm、18 cm)でそれぞれ収穫しました。また、2021年5~6月(春収穫)には5品種のブロッコリーを花蕾径15 cmでそれぞれ収穫しました。収穫したブロッコリーは一般的な冷凍加工工程に則り、熱湯でのブランチング2)後に急速凍結を行いました。自然解凍後のブロッコリーの硬さの指標として、圧縮試験により最大応力3)を測定しました。その結果、品種や収穫時のサイズに関わらず、秋冬収穫のブロッコリーは春収穫よりも解凍後の最大応力が減少し、軟化していることが分かりました。
  • 収穫時期の気温(収穫4日前~収穫日までの平均)と、解凍後の最大応力は強い相関を示していました(図1)。このことから、収穫時期の気温が低くなるほど解凍後に軟らかくなりやすいことが明らかになりました。
  • ペクチンは細胞と細胞をつなぐ接着剤のような働きをする細胞壁多糖類です。水溶性ペクチンは細胞壁に弱く結合しているため、この割合が増加すると細胞同士の結着が弱くなり、軟化すると考えられます。収穫したブロッコリーの生鮮時のペクチン組成を調査したところ、秋冬収穫ブロッコリーでは春収穫ブロッコリーと比較して、水溶性ペクチンの割合が増加していました。したがって、秋冬収穫ブロッコリーでは春収穫ブロッコリーと比べて、細胞同士の結びつきが弱くなり、軟化していることが示唆されました(図2)。
以上の結果から、冷凍ブロッコリーの組織軟化は、品種や収穫時のサイズよりも、収穫時期の気温に大きく影響されることが分かりました。また、ペクチン組成の変化が示すように、収穫時期の気温が低い秋冬収穫ブロッコリーは、気温が高い春収穫ブロッコリーよりも細胞同士の結着が弱く、このことが収穫時期による最大応力の違いに一部関与していると考えられます。

今後の予定・期待

今回得られた結果は、冷凍ブロッコリーの食感の低下を防ぎ、品質の安定化に役立つと考えられます。すなわち、寒さの厳しい時期の収穫を避けることで解凍後の過度な組織軟化を防ぎ、冷凍前のブロッコリーに近い食感を得ることができます。しかしながら、気温が高いほど害虫が発生しやすいといった問題も生じるため、今後は外観や栄養成分なども含めた広範な調査が必要だと考えています。

用語の解説

ペクチン
細胞と細胞の間の中層や細胞壁に存在する細胞壁多糖類で、ガラクツロン酸を主成分としています。ペクチンが低分子化すると細胞同士の結びつきが弱くなり、軟化が起こると報告されています。低分子化したペクチンは水に溶けやすくなります。[概要へ戻る]
ブランチング
冷凍や乾燥などの前処理としてスチームや茹で操作により短時間の加熱を行う工程。保存中の品質劣化を引き起こす酵素の活性を失わせ、付着微生物を殺菌する効果があります。[研究の内容・意義へ戻る]
最大応力
単位面積当たりにかかる荷重(応力 : 圧縮試験で力がかかったときに物体に生じる抵抗力)の最大値のことです。本研究では、ブロッコリーの食感の指標として用い、この値が高いほど硬いと定義しています。[研究の内容・意義へ戻る]

発表論文

*情報追加:2023年12月21日
Effects of Size, Cultivar, and Harvest Season on the Tissue Softening in Frozen Broccoli
https://link.springer.com/article/10.1007/s11947-023-03275-y

参考図

図1 ブロッコリーの最大応力と収穫時期の気温の関係
収穫時期の気温は収穫4日前から収穫日までの気温の平均値。rは相関係数を示す。
図2 生鮮ブロッコリーの全ペクチン量に対する水溶性ペクチンの割合
ペクチン量はガラクツロン酸量として定量。花蕾径15 cmのブロッコリーのみで比較。
A~Fはそれぞれ異なる品種名を表わしており、A: SK9-099, B: ピクセル, C: おはよう, D: こんにちは, E: グランドーム, F: こんばんは