気候変動の激化に伴い、低・脱炭素への取り組みなど対策の加速が求められています。この対策の一つとして、空気中の希薄なCO2を直接分離回収するDAC(Direct Air Capture)技術が注目されています。農林業は、光合成によって大気中CO2を回収して農作物や木材に変換するDAC技術とみなせます。しかし、稲わらなどの農作物茎葉は短期間で腐敗・変質してしまうため、建材や紙などの長期使用により炭素を貯蔵する木材と比べて、低・脱炭素への貢献が限定的です。
農研機構は、特殊な方法で常温酸処理することで、稲わら等の茎葉を繊維または糖化原料として利用しやすくなることを見出し、その方法をGrAAS(Grass Upcycling by Activated Acid into the Sugar Pool:活性化酸による草から備蓄糖へのアップサイクル2))プロセスと名付け、埼玉大学および東京大学大学院農学生命科学研究科と共同でこの現象を詳細に解析しました。
2023年の7月が観測史上最も高温となったことを受けて、国際連合のグテーレス事務総長は、「地球沸騰の時代が到来」と述べ、気候変動対策を強化する必要性を説きました4)。気候変動を緩和するためには、温室効果ガス(GHG)、特に温室効果の主因となるCO2の排出削減が重要となります。実効性を伴う新たなGHG削減技術として、大気中のCO2を直接回収し、貯留・除去するための「ネガティブエミッション技術(NETs)」への注目が高まっており、現在、約0.04%という低濃度の大気中CO2を効率的に捕捉するため、DAC(Direct Air Capture)技術の開発が精力的に進められています(図2)。DAC技術としては、膜を用いた物理的なCO2回収技術、アルカリとCO2との結合による捕捉技術や、光合成等の生化学反応を利用する炭酸固定技術などが開発されつつあります。
Tokuyasu K.,Yamagishi K.,Kotake T.,Kimura S.,Ike M.:Hydrogen chloride treatment of rice straw for upcycling into nanofibrous products for sugar pool. Bioresource Technology Reports, doi.org/10.1016/j.biteb.2023.101717