プレスリリース
(研究成果) 水稲新品種「やわらまる」の育成とその特徴を活かした米粉即席麺の開発

- 湯戻し時間を短縮した新しい米粉即席麺の普及に貢献 -

情報公開日:2024年12月 4日 (水曜日)

農研機
小林生麺株式会社

ポイント

農研機構は米粉即席麺への適性を持つ新品種「やわらまる」を育成し、小林生麺株式会社と共同で、米粉即席麺の課題であった湯戻し時間を、従来の製法と比較して約3分短縮する技術を開発しました。この技術は、米デンプンが低温で糊化1)する新品種「やわらまる」の特徴を活かすことによって可能となりました。現在、グルテンを含まない即席麺として小林生麺株式会社が受注を開始しています。今後、同技術による国産米粉使用のカップ麺を開発し、輸出も含め広く普及することを目指します。

概要

国産米を原料とした米粉は、食料の安定供給や米の需要拡大の面から注目を集めています。米粉は小麦アレルギーへの対応が可能な利点もあることから、近年、パンやケーキ、麺類など新たな用途への利用が進んでおり、新たな需要が増加傾向にあります。しかしながら、さらなる利用拡大のためには、米粉加工食品の高品質化や利用時の簡便さの向上が欠かせません。そこで、農研機構は米に含まれるデンプン(以下「米デンプン」という。)のうちアミロペクチン2)と呼ばれる成分の特性を改良し、米デンプンの糊化温度が「コシヒカリ」など一般的な品種より約5°C低い新品種「やわらまる」を育成しました。

この度、農研機構は米粉麺の製造、販売を手がける小林生麺株式会社(以下、小林生麺(株))と共同で、「やわらまる」を活用して米粉を原料とした即席麺(以下「米粉即席麺」という。)の課題であった湯戻し時間短縮に取り組みました。その結果、糊化温度が低い「やわらまる」を原料とした米粉の特徴と、小林生麺(株)による副原料の選択や製麺方法を組み合わせ、開発した製麺技術(特開2024-095625)により、米粉即席麺の湯戻し時間を約3分短縮することが可能となりました。

現在、小林生麺(株)では麺の形状等にさらに工夫を加え、簡便性が求められる離乳食向けとして湯戻し時間5分のグルテンを含まない即席麺の受注生産を行っています。今後は、国産「やわらまる」米粉使用のカップ麺を開発し、輸出も含め広く普及することを目指します。

関連情報

予算 : 資金提供型共同研究(2022年、2023年)、農林水産省令和2年度補正プロ「国際競争力強化技術開発プロジェクト」(2021-2023年)、運営費交付金
特許 : 特開2024-095625
品種登録出願 : 水稲「やわらまる」(出願番号36724)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 食品研究部門 所長髙橋 清也
農研機構 作物研究部門 所長石本 政男
小林生麺株式会社 代表取締役社長小林 宏規
研究担当者 :
農研機構 食品研究部門 食品流通・安全研究領域梅本 貴之・荒木 悦子
食品加工・素材研究領域松木 順子
農研機構 作物研究部門 スマート育種基盤研究領域後藤 明俊
研究推進部研究推進室竹内 善信
広報担当者 :
農研機構 食品研究部門 研究推進室 渉外チーム亀谷 宏美

詳細情報

開発の社会的背景

食料安全保障の重要性

近年の国際的な穀物価格の高騰や供給の不安定化等を受けて、国内で自給できる米の食料安全保障上の重要性が再認識されています。一方、米の国内需要は減少傾向にあります。このため、わが国の米生産を支える需要を創出する米粉の活用等、米の利用法の多様化は、食料安全保障の面からも重要な取り組みとなります。

小麦粉代替品の高品質化

食品開発では、消費者ニーズに対応したおいしさや簡便性の向上、健康機能性といった付加価値の付与等が重要となります。即席麺市場のほぼすべてを占める小麦粉原料の即席麺と比較して湯戻し時間が長くかかる米粉原料の即席麺の課題を解決し、消費者の簡便性志向に合致する商品を開発する観点から開発を行いました。

グルテンを含まない即席麺のニーズへの対応

小麦アレルギー、セリアック病3)等、小麦粉加工食品を摂取できない方や摂取を控えている方の中にも、即席麺の喫食希望をもつ方は多いと考えられます。また、海外でも日本発の即席麺の市場が拡大していることからグルテンを含まない即席麺製品について強いニーズがあると考えられます。米粉即席麺は、このようなニーズに応え得る食品のひとつとなります。

研究の経緯

農研機構では、開発した品種・技術、研究で得られた科学的知見を活用した社会実装を、事業者と協力して進めています。米粉即席麺の湯戻し時間短縮という小林生麺(株)の課題に対し、農研機構で育成中であった後に「やわらまる」となる素材の米デンプンの糊化温度が低い特徴が有効ではないかと考え、共同開発を行うこととなりました。「やわらまる」の米デンプンが糊化しやすい特性と、小林生麺(株)が持つ米粉麺の製造技術の組み合わせにより米粉即席麺の湯戻し時間の短縮を可能としました。

研究の内容・意義

水稲新品種「やわらまる」と米粉のデンプン特性

  • 米デンプンの主な構成要素であるアミロペクチンは、多数のブドウ糖が結合して樹状の構造をとっています(図1)。アミロペクチンの枝の長さは、糊化温度と関係することが知られており、短い枝が多いと低温で糊化します。
    図1 アミロペクチンの分子構造(模式図)
  • 「やわらまる」は、在来種「旱不知D」が持つアミロペクチンの長い枝を作る酵素(デンプン枝付け酵素1(Sbe1))活性欠損性を多収のうるち品種「あきだわら」に連続戻し交配により導入して開発されたこれまでになかった品種です。
  • 「やわらまる」はデンプン枝付け酵素1(Sbe1)の活性を欠くため、一般的な品種と比べて短い枝が多く、糊化しやすくなっていると考えられます(図2)。
    図2 「やわらまる」のアミロペクチン分子構造の特徴(模式図)
  • 「やわらまる」は新品種として、農研機構から品種登録出願(出願番号36724)され、2023年8月22日に品種登録出願公表されています。
  • 「あきだわら」や「日本晴」と同程度の熟期であり、表1のような栽培特性を有しています。栽培適地は関東・北陸地域以西であり、既に関東や関西地域の一部で栽培が始まっています。
    表1「やわらまる」の特性
    (農研機構作物研究部門、2017~2019、2021、2022年の平均値)

水稲新品種「やわらまる」を用いて開発した製品

  • 「やわらまる」の米粉を主原料とし、簡便性が求められる離乳食向けに湯戻し時間が5分の米粉即席麺を開発しました(図3)。
  • 現在カップ麺の開発も進めており、年度内の発売を目指しています。
  • これら製品の開発に用いている技術は、農研機構と小林生麺(株)が共同で特許出願済みです(特開2024-095625)。
    図3 開発した離乳食向け米粉即席麺(左)と開発中のカップ麺(右)

従来技術との比較

  • 米粉即席麺試作品の湯戻し時の硬さをパネラーによる官能評価試験で比較しました。従来品に使用している「コシヒカリ」の米粉を使用した試作品の場合、最も多くのパネラーがちょうど良いと評価した湯戻し時間が11分であったのに対し、「やわらまる」の米粉を使用した試作品ではそれが8分となり、湯戻し時間が約3分短縮されました(図4)。
  • 小林生麺(株)では麺の形状等にさらに工夫を加え、湯戻し時間を5分まで短縮した離乳食向け即席麺を開発しました。
    図4 試作した即席麺の湯戻り時間の比較
    従来品に使用の「コシヒカリ」の米粉(左)と「やわらまる」の米粉(右)を用いた試作品に熱湯を加え、5分、8分、11分後にパネラーによる官能試験により湯戻し性の評価を行った。ここでは硬さの評価結果を示した。

開発を可能とした原理

  • 米粉即席麺に熱湯を加えた際の湯戻し時間の短縮には、米粉麺の糊化温度が低く、糊化に要する熱量が小さいことが有効と考えられます。
  • 従来品に使用している「コシヒカリ」を主原料とした米粉は58.8°Cと71.2°Cに糊化温度があるのに対し、「やわらまる」米粉の主な糊化温度は低い温度帯の59.2°Cのみでした(図5)。また、糊化に要する熱量も、従来品米粉を使用した場合は5.9 J/gであったのに対して「やわらまる」米粉を使用した場合では3.4 J/gと小さくなっていました。「やわらまる」米粉の即席麺の糊化温度の低さと糊化熱量の小ささが、湯戻し時間短縮につながっていると考えられます。
    図5 試作した即席麺を粉砕した粉の糊化温度および糊化熱量
    従来品に使用の米粉(左図)と、「やわらまる」の米粉(右図)を用いて試作した即席麺を粉砕し、示差走査熱量計を用いて糊化温度および糊化に要する熱量を測定した。

今後の予定・期待

小林生麺(株)では、今後、「やわらまる」を原料とする米粉を使用したカップ入りタイプの米粉即席麺を開発し、グルテンを含まない粉末スープ、乾燥かやくと合わせた商品化を行い国内外での販売を目指します。このことにより、小麦粉を使用せず米粉を原料の主体とした即席麺を求める方に届けられるとともに、国産米を原料とした米粉の利用拡大につながることが期待されます。

「やわらまる」栽培上の注意点

「やわらまる」はいもち病に弱く耐倒伏性も十分でないため、極端な多肥栽培は避け、適切ないもち病の防除が必要です。また、イネ縞葉枯病に罹病性なので、常発地での栽培は避けてください。

用語の解説

糊化
デンプンやデンプンを多く含む穀物や食品に水を加え加熱すると、糊状になります。この現象を糊化と呼びます。糊化はアルファー化とも呼ばれます。糊化状態になる温度を糊化温度、糊化に要するエネルギー量を糊化熱量と言い、示差走査熱量計を用いて測定されます。[ポイントへ戻る]
アミロペクチン
デンプンを構成する多糖であり、ブドウ糖分子が多数結合した巨大分子で多くの枝分かれのある構造をとっています。アミロペクチンの枝の長さはデンプンの糊化し易さや、米飯や餅の柔らかさ保持性に大きく関わることが分かってきました。[概要へ戻る]
セリアック病
グルテンに対する異常反応に誘発される遺伝性の自己免疫疾患。小腸上皮組織に炎症を起こすため、栄養を吸収できなくなり、栄養不足に陥ります。アジアでは稀な病気とされていますが、欧米では患者が多く社会的問題となっています。異物に対する防御反応である小麦アレルギーとは発症メカニズムが異なります。[開発の社会的背景へ戻る]

参考資料

特許 : 特開2024-095625「麺用組成物及びその製造方法」
品種登録 : 品種登録出願公表第36724号(2023年8月22日)

農研機構成果情報
2023年度 研究成果情報 : 水稲品種「やわらまる」の低温糊化性を活かした復元時間の短い米粉即席麺
2023年度 研究成果情報 : 米粉製品の柔らかさ保持に役立つ水稲新品種「やわらまる」