ポイント
農研機構は、窒素ガス置換により、酸素濃度0.1%、温度30°Cの条件を4日間維持することで、貯蔵穀物の害虫を殺虫できる技術を開発しました。本法は、化学くん蒸剤に替わる環境に優しいガス置換殺虫技術として植物検疫1)を含め広範囲に適用できます。特に穀物、乾燥食品原料、香辛料に対して薬剤を使用しない大規模な殺虫に応用が期待されます。
概要
輸入穀物等の植物検疫では、倉庫やサイロでの大規模殺虫にあたり臭化メチルやリン化アルミニウム剤等のくん蒸殺虫剤2)が使用されています。これらの薬剤の使用には、地球環境(オゾン層)の破壊、薬剤抵抗性害虫3)の出現、薬剤の残留に対する課題があります。現在、これらの課題に配慮した新しい大規模殺虫技術の開発が求められており、国際植物防疫条約4)の枠組みではガス置換処理の利用に関する要件が定められています(植物検疫措置に関する国際基準:ISPM No.44)。農研機構は、これまでも低酸素処理を用いた殺虫法の開発に取り組んできました。この度、窒素ガス置換による低酸素環境での殺虫技術を確立し、大規模殺虫を実現しました。
本技術は、大規模低酸素庫に殺虫を要する処理対象物を入れ、窒素ガス置換により酸素濃度0.1%、温度30°Cの条件を4日間維持することで、低酸素による十分な殺虫効果を得ることのできる技術です。殺虫条件の検討には、貯蔵穀物の害虫で低酸素耐性の高いコクゾウムシ5)とタバコシバンムシ6)を用いました。なお、大量の処理対象物を処理する際は、殺虫条件(酸素濃度と温度)到達までに期間を要します。また、殺虫条件到達までの期間を含めた殺虫期間は、処理対象物のかさ密度が大きいと長くなり、形状や量によっても異なります。薄荷7)、玄米の殺虫期間は、薄荷50 kg/m3では5日、玄米800 kg/m3では8日を要し、コクゾウムシ、タバコシバンムシともに100%の死亡率を得ました。従来のくん蒸剤での殺虫期間3~7日と比べて大きな差がなく処理することができます。
窒素ガス置換殺虫技術は、オゾン層を破壊しないため、地球環境に優しい技術として、植物検疫を含めた大規模殺虫が可能になります。特に穀物、乾燥食品原料、香辛料に対する殺虫への応用が期待されます。
関連情報
予算:資金提供型共同研究(2024年)、運営費交付金